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上司が仕事中に飲酒して「部下に抱きつき」「飲酒運転」、野放しにするな!
画像はイメージです(よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA)

上司が仕事中に飲酒して「部下に抱きつき」「飲酒運転」、野放しにするな!

職場で仕事をしながら酒を飲む上司が許せない。インターネット上のQ&Aサイトには、そんな書き込みが多数寄せられています。

Aさんは、「会社の上司の飲酒運転」が許せないといいます。「仕事中に飲酒して、平然と運転して帰って行くのです。恐らく1キロ以内に家があるので、絶対に捕まらない自信があるのでしょう」。Aさんは「辛いのです。酔っぱらいと仕事するのが」と嘆いています。

Bさんの会社では、社長が「昼からビールを飲み始め」るそうです。会社の冷蔵庫にはビールと焼酎が入っているとのこと。酔った社長から、抱きつかれたり、「初々しいね、温泉に行こう」などと絡まれることもあり、悩んでいるそうです。

仕事中に酒を飲み、平然と運転して帰る上司に、会社から何らかの処分を下してもらうことはできるのでしょうか。そもそも、職場で仕事中に酒を飲むことは、法律上、問題があるのでしょうか。平山諒弁護士の解説をお届けします。

●「仕事中に酒を飲んではいけない」という法律はない

酒を飲みながら仕事をする上司がいると、非常に嫌な思いをするのはごもっともです。不真面目な上司に対してなんらか処罰を与えたいとか、お仕置きしたいという気持ちになるのも人情です。

・・・ところが実は、「仕事中に酒を飲んではいけない」という法律はありません。そのため、「仕事中の飲酒」という事実や、「冷蔵庫に酒が入っている」という点のみを取り上げて処分を求めることは、実際には難しいのです。

ですが、上司も含めて従業員には、職場の規律を守る義務、誠実に職務に従事する義務があります。多くの会社では就業規則によって、職場の規律を乱す行為は禁止事項とされ、これに違反すると、懲戒処分の対象として注意や警告などの処分、改善しない場合には解雇も念頭に置いて対応されることがあります。

このように、飲酒それ自体というよりは、勤務時間中の不適切な飲酒による会社への悪影響や、それによって職場内で生じる具体的な問題の責任を追及するという形で、処分を求めることになります。

●「飲酒運転」は「就業規則」に基づき処分を求める

Aさんの場合は、会社に上記のようなルール(就業規則)があるかどうか、職務中の飲酒を含め職場の規律・風紀を乱す行為が処分対象となっているかどうか、まずはこの点を確認しましょう。

また、上司が自動車を運転して通勤しているのでれば、就業中の飲酒はまさに飲酒運転につながる違法行為です。最近は会社としての法令順守(コンプライアンス)意識が高い会社も多く、大事故につながりかねない違法行為はそれだけで処分対象となっている場合もあります。過去の裁判例の中では、飲酒運転を理由とする懲戒解雇が有効とされた例もあります。

なお、仮に就業規則が作成されていないとか、処分対象の規定が整備されていないような場合でも、職場の部下に迷惑をかける勤務中の飲酒が許されることにはなりません。当然、上司は会社からの指導対象になりますから、やはり会社に対して指導改善を求めていくことになります。

このように、上司の飲酒によって職場でどのような不都合が生じているか、Aさんご自身や同僚の皆さんがどのような迷惑を受けているかを具体的にあげて、会社に対して職場環境の改善、ひいては上司の処分を求めていきましょう。

こういった話は、直接、問題の上司に掛け合っても聞き入れてもらえないでしょうから、現実的には、更にその上位の役職の人に相談をするとか、もし会社にコンプライアンス通報窓口、相談窓口があれば、匿名ででも通報をし、会社に調査や処分を求めるのが良いでしょう。

ところで、実際にAさんが嫌な思いをしている問題行動があるのに、会社が適切に対応しないのであれば、これは会社の義務違反、すなわち適切な職場環境を整えるべき義務に違反するという理屈で、会社に対して慰謝料を求めることも考えられます。

●セクハラは「録音や撮影で証拠」を集める

次にBさんの場合ですが、会社の社長が仕事中に飲酒となると、会社内での処分は実際問題として、難しくなってくるかもしれません。

ただ、Bさんの相談を見る限り、これは仕事中の飲酒の是非という問題ではなく、セクハラ・パワハラの類の問題だと思われます。酔って抱きついてくるとか、「初々しいね」などと性的な発言で困らせてくるのはまさに典型的なセクハラの類です。

対処法としては、そういった発言をICレコーダーで録音したり、誰かに協力してもらい撮影するなどして、証拠をそろえた上で弁護士に依頼してください。慰謝料を求めて民事訴訟を起こしたり、わいせつ行為については刑事告訴することも考えられます。

●「法的な見解ではないが・・・」

なお、法的な見解ではなく、あくまでも私見ですが・・・。勤務中に酒を飲んで飲酒運転で帰る上司がいるとか、酔ってセクハラをしてくる社長がいるというような会社は、おそらく、このまま勤めていても先がありません。

ここまで秩序もへったくれもない会社にしがみ付いていても、AさんやBさんが幸せに働いていけるとは思えません。私なら、そんなブラック企業は早く見切りをつけて、早々に転職活動をします。

また、もし私の顧問先でこのような事態が発覚したら、ただちに改善を指導し、職場環境の改善と問題の再発防止策の策定を指示します。従業員が幸せに働ける環境を整えてこそ、会社の生産性も高まり、健全な企業としてこれからの時代を生き残っていけるのです。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

平山 諒
平山 諒(ひらやま りょう)弁護士 府中ピース・ベル法律事務所
中央大学法学部、一橋大学法科大学院卒。労働事件中心に地域の事業者の企業問題に注力。府中ピース・ベル法律事務所代表。

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