政府が就職氷河期世代の就労をサポートする中、労働政策研究・研修機構(JILPT)は7月、都内で労働政策フォーラム「『就職氷河期世代』の現在・過去・未来」を開催した。フォーラムでは、就職氷河期世代の実態が報告され、その支援策が議論された。就職氷河期世代とは、政策的には1993〜2004年に卒業を迎えた世代とされることが多く、おおむね30代後半から40代前半の世代を示す。
報告によると、就職氷河期世代は、後から正社員になった人の割合が他の世代に比べて多いが、新卒から正社員の人に比べて収入が低いなどの傾向があった。また、今後、この世代は子どもの教育や老後の備えなどで困難が増えるという予測がされた。
フォーラムでは、ニート研究の第一人者として知られる東京大学社会科学研究所の玄田有史教授も基調講演を行った。現在、引きこもりが長期化して50代の子を80代の親が支える「8050」問題が深刻化しているが、玄田教授は、就職氷河期世代の無業状態の人が中年ニート化していることから、将来の「8050問題の予備軍」と指摘。高齢の親と就職氷河期世代の子が同じ職場で働くことを可能にする「親子ペア就業」を提案、従来の福祉の枠を超えた地域包括ケアシステムの担い手として、就職氷河期世代に期待を寄せた。
●「他の世代に比べて、キャリアが明らかに不安定」
フォーラムではまず、「問題提起」としてJILPTの堀有喜衣・主任研究員から、就職氷河期世代の全体像について報告があった。
報告によると、氷河期世代の男性(高卒で30〜39歳、大卒で35〜44歳)のデータから浮かび上がる特徴として、「上の世代や下の世代に比べて、キャリアが明らかに不安定」であり、「後から正社員になった人も多い一方、平均年収はずっと正社員の人の平均年収530.7万円に比べ、400.7万円と130万円低く、労働市場に入った時の状況が今日の収入にも影響している」と指摘した。
また、就職氷河期世代のニート38.9万人(35〜44歳)のうち、「就業希望あり」は16.4万人で、求職活動をしない理由は「探したが見つからなかった」「希望する仕事がありそうにない」という人たちについては、「一定の支援が働くと思われる」とした。一方で、「就業を希望しない」人も22.1万人いた。このうち、約半数が就業を希望しない理由を「病気やけがのため」としており、「こうした人たちがすぐに就業することは難しい」と推測している。
さらに、今後は就職氷河期世代のニートの高齢化にともなって、さまざまな問題が起こると予測。「35〜44歳のニートの子どもがいる世帯の親の平均年齢は70歳で、世帯収入は年金や恩給の割合が66.7%にまで高まる」とした。また、35〜44歳のニートの子がいる世帯収入は、200万円台が最も多く、「親と就職氷河期の世代のニートがなんとか暮らしている現状が浮かび上がります」と説明した。
また、「就職氷河期世代も課題は大きいが、他の世代も同じようなことが起きています。8050問題は典型的だが、今後、日本社会において継続的な課題になると推測しています」とした。
●高齢の親と子が同じ職場で働ける「親子ペア就業」を
基調講演を行なった玄田教授は、政府が「骨太の方針」に就職氷河期世代への支援策を盛り込んだことに触れ、「3年間で正社員の30万人増加を目指すとしています。これが可能なのか、と言われますが、私は難しいかもしれないけど、可能だと思っている」と語った。
その理由として、35〜44歳のうち、パート・アルバイトで働く人は260万人だったが、そのうち237万人が女性であり、同じく家事を理由に仕事を探していない人たちは177万人でほとんどが女性だったことに着目。「今後、こうしたパートやアルバイト、子育てなどで働いていない人、既婚女性が正社員になる流れが実現すれば、正社員30万人増加は可能では」と話した。
一方で、玄田教授は、これまでの若年層への雇用対策を就職氷河期世代への支援策に焼き直しすることは難しいと指摘。思い切った支援策が必要だとした。玄田教授は、他者と一切交流を持たない働き盛りの未婚無業者を「孤立無業者(SNEP=スネップ)」と定義して調査してきた。就職氷河世代のうち、68万人が未婚無業者だが、その中で20万人が「友人・知人と交流あり」、9万人が「誰とも交流なし」だったのに対し、39万人が「家族とのみ交流」という状況だった。
玄田教授は、こうした就職氷河期世代への支援策として、「親子ペア就業」を提案している。現在、8050問題が深刻化しているが、就職氷河期世代の子と親がその予備軍となっていると指摘。子のコミュニケーションや心身の不調を親が助けることも可能な上、親子にとってそれぞれが短時間の就業でも世帯収入の確保につながるという。
「地域で人口減少などの問題がある中、高齢者、障害者、さまざまな困難を抱える人がお互いを認め、支え合いながら、地域の循環をつくっていく。既存の福祉の体系を1度、見直して、もっと幅広い福祉を地域で実現するべきではないでしょうか。
その重要な担い手として、特に就職氷河期世代の無業者やその世帯を考えていく。これから未来の働き方について、一つの指針を示していってほしいです」
参考文献:玄田有史著「8050問題解決のためにできること “親子ペア就業”でSNEPと社会をつなぐ」(『中央公論』2019年8月号)