「通勤のために定期代を支給されているが、不正に貰っている気がする」。神奈川県内のIT企業で働くトモヤさん(30代)は罪悪感を抱いているという。
トモヤさんは、精神障害者保健福祉手帳を所有しており、地下鉄を無料で利用できる「福祉パス」が交付されている。
「仕事先には病気のことを知られたくない」というトモヤさんは、会社に福祉パスのことを話していないようだ。
別の会社で働くアケミさん(30代)は離婚し、シングルマザーになった。それからは児童扶養手当を受給するようになり、バスや地下鉄などが無料になったという。
「離婚後に引っ越しましたが、バス代は申請していません。ただ、交通費として申請しているシングルマザーもいるようです」とアケミさんは語る。
会社から支給された交通費を使わずに通勤することは、法的に問題はあるのだろうか。大部博之弁護士に聞いた。
●通勤定期券代が「賃金」であれば、返還の必要なし
ーートモヤさんのように、支給された通勤定期代を使っていない場合、交通費は返還しなければならないのだろうか
「支給されている通勤定期券代が『賃金』にあたるのか、あるいは、会社が『業務費』として実費の弁済をしているにすぎないか、によります。
判断のポイントは、交通費に関する支給基準があるかどうかです。
たとえば、会社の最寄り駅と自宅の最寄り駅を結ぶ公共交通機関の1カ月定期券代相当額などというように、実際にどの交通機関を利用しているかどうかに関わらず、住所地から想定される合理的な金額をあらかじめ会社で決めている場合があります。
この場合は『賃金』とみなされますので、実際には、徒歩通勤をしたとしても、返還の必要はありません」
ーーもう1つの「会社が業務費として実費の弁済をする」ケースとは、どういうことか
「通勤費用に関する支給基準が定められておらず、あくまでも実際に従業員が利用した交通手段の実費相当額を支給するという場合です。
たとえば、徒歩で通勤しているのであれば、電車通勤をしたことを前提とする交通費の支給は受けられないのが原則です。無料で公共交通機関を利用しているのであれば、その交通費は受け取ることはできません。
事例にあったトモヤさんのケースでは、民法703条の『不当利得の返還義務』により、実際に使用しなかった交通費相当額は返還しなければならなくなる可能性があります」