労働者派遣法改正案の国会審議が大詰めを迎える中、日本労働弁護団は6月3日、記者会見を開き、派遣労働者たちを対象に受け付けた緊急電話相談の結果を発表した。棗一郎弁護士は、改正案に対する不安の声が相次いで寄せられたとして、「法改正の内容が全然伝わっていない」と警鐘を鳴らした。
弁護団は「改正案が通ったら、通訳などの『専門26業務』の扱いが廃止され、同じ派遣先で3年を超えて働き続けることはできなくなる。全ての業務で一律に3年で派遣切りになる」と報道などを通じて注意を呼びかけ、6月2日に無料の電話相談を実施。午後2時半〜午後9時半までの半日に40件の電話が寄せられた。専門業務で仕事に慣れた40代の労働者から「それは本当か?」「たまらない」などと心配する声が目立ったという。
派遣先企業があるひとりの派遣労働者を受け入れることができる期間は、基本的に最長3年まで。つまり派遣労働者が、3年を超えて派遣先企業で働きたい場合、その企業に直接雇ってもらうしかない。これまで特別扱いで、受け入れ期間の制限がなかった専門26業務も、改正案が通ればは他と同じく3年で派遣終了となる。
電話相談では、現在は専門26業務に当たる仕事をしている44歳女性から、「3年で終わりと言われたら、次の仕事があるのか不安でたまらない。働きがいを感じることが難しい。(職場を変わることで)キャリアアップというが、私たちの年代はスキルを維持して活かす年代。3年ごとに新人としてやりなおすのはたまらない」と不安な思いを打ち明けられたという。
また、同じく専門26業務の40代女性からも、「年寄りの技術者なんて誰も雇ってくれない。60社も面接してやっと長く働けるところを探せた。今回のような改正がされれば、やっと探した派遣先を失ってしまう」と懸念の声があがったそうだ。
現在、「専門26業務」として働いている派遣労働者は約50万人。その他の派遣労働者は172万人いるとされている。弁護団は会見で「彼らがみな3年で派遣を切られてしまうことになる」と強調した。
●「派遣先は100%正社員にしてくれない」
また、寄せられた電話のうち1件は、なんと「派遣元の業者」からだった。
その派遣元業者は、40〜50代のベテラン専門技術者20数人を長年、1つの会社に派遣してきた。「その仕事を長年やっているからこそ評価されて使用してもらっている。次の職場を紹介しようと思っても、その人たちは逃げ道がない」「派遣先が正社員にしてくれるのは30歳近辺しかない。派遣先は100%正社員にしてくれない。今のうちの派遣社員は全員が路頭に迷うことになる。なんとかしてあげたいが、どうすればよいか」と悩みを打ち明けた。
この相談に対応した弁護士は「改正法を前提とするなら、(彼らを)救うことはできない」と答えたという。
また、正社員になれないから、10年前から派遣でパソコンのインストラクターをやっている40代の娘を心配し、電話をしてきたという女性からは「こんな大切なことをなんでマスコミは報道しないのか。私たちの生活に直接かかわることなのに。政府の圧力でもあるのか」と怒りの声を投げかけられたという。
記者会見に集まったある新聞記者は「僕らは報じてるけど、届いてないんだなぁ。毎日一面というわけにはいかないけど・・・」と、ポツリとつぶやいていた。