昨年4月、広島県府中町の水分峡(みくまりきょう)森林公園で東京都練馬区の会社員男性(当時52)が殺害され、16~18歳の男女3人が逮捕された事件で、強盗致死罪で起訴された海田町(かいたちょう)の建設作業員で犯行時18歳の特定少年・B被告人(19)の裁判員裁判が6月22日から広島地裁で開かれた。
7月1日までに計3回あった公判では、男女3人は、被害男性が援助交際をしていたことにつけ込み、金を取ろうとして殺人事件にエスカレートしたことが明らかに。その犯行は場当たり的で、拙いものだった。(ノンフィクションライター・片岡健)
●被害男性は共犯少女のパパ活相手だった
広島地裁(筆者撮影)
6月22日にあった初公判。法廷に現れたB被告人は坊主頭で、黒いスーツに白いシャツ、青いネクタイといういで立ち。何も知らなければ、野球でもやっていそうな普通の青年に見える人物だった。
審理では、事実関係に大きな争いはなく、争点は、(1)犯行時18歳のB被告人を成人同様に刑事処分にするか、少年院に送致するなどの保護処分にするか、(2)刑事処分にする場合、量刑をどうするか--の2点。裁判員らがその判断をするための前提となる事件内容は、B被告人本人の言葉や、共犯者2人の供述調書をもとに詳らかにされた。
発端は、府中町の建設作業員で犯行時16歳のA被告人(強盗殺人罪で起訴。7月14日に初公判)、松山市の無職で犯行時18歳の少女C(恐喝の疑いで広島家裁に送致され、少年院送致の保護処分)の2人の間で事件の前月にあったやりとりだ。検察官が朗読した供述調書で少女Cはこう明かしている。
「私は、Aさんと遠距離恋愛をしていたのですが、友達と一緒に広島旅行に来た際、『パパ活』をしていたことがAさんにバレて、スマホを渡すように言われました。Aさんは、私のスマホでパパ活相手10人くらいとのやりとりをみて、『パパを全員広島に呼んで、金を取る』と言いました」
少女Cは、A被告人に言われるまま、パパ活相手全員に「広島に来れる?」とメッセージを送った。「4月12日なら行けるよ」と返信してきたのが被害男性だったという。
「被害男性は以前、仕事で松山市に住んでいて、その頃に私は月1回くらいパパ活をする関係でした。名刺を渡してくれたので、大企業のお偉いさんだと知っていました。ポルシェに乗っていて、お金も持っている人でした。
Aさんにそう伝えたら、『そいつは強いのか、弱いのか』などと聞いてきたので、『そんなに強そうじゃないし、暴力とかはしないと思うよ。お金はすぐに出すと思うよ』と答えました。すると、Aさんが被害男性から金を取ると言い出したのです」
そしてA被告人のたてた計画は、現場の水分峡森林公園の管理棟のあたりまで少女Cが被害男性を誘い込み、性行為に誘ってズボンを脱がせ、恥ずかしい動画を撮影して恐喝する--というものだった。そのためにA被告人は、複数の先輩に犯行を手伝ってくれるように声をかけた。そのうちの1人が、慕っていた先輩であるB被告人だった。
●計画も準備も杜撰だった犯行
B被告人は被告人質問で、A被告人から犯行に誘われた当初のことをこう証言した。
「最初は冗談だと思い、全く取り合っていませんでした。『はい。はい』という感じで聞き流していました」
B被告人は実際、事件当日もA被告人に指定された約束の時間に、待ち合わせ場所であるA被告人の祖父宅には行かず、繁華街で友人と遊んでいたという。A被告人から電話とLINEで呼ばれ、バイクでA被告人のもとに赴いたが、A被告人をバイクで現場の水分峡森林公園まで連れて行き、自分は家に帰るつもりだったという。
しかし、A被告人と合流後、「3万円を渡すんで、来てください」「少女Cは、もう先に被害男性と現場に向かわせているんです」とすがりつかれた。B被告人はこれを断りきれず、「俺は手を出さないよ」と言いつつも、結局、現場に同行したのだ。
被告人質問でこの時の心情をこう振り返っている。
「Aのことは後輩の中でも可愛がっていて、特別な思い入れがありました。それにAはケンカが弱かった。同行したのは、お金が欲しかったのもありますが、Aを一人で行かせたら返り討ちに遭うのではないかと思ったためです」
A被告人は身長が160センチくらいで、痩せており、ケンカをしたらいつも負けていたという。
一方、検察官が朗読したA被告人の供述調書によると、B被告人に同行を懇願したのは「(B被告人について)タイマンなら負けたことがないほど喧嘩が強いと聞いていたからです」とのことだ。しかし実際には、B被告人も身長170センチ、体重50キロくらいの痩せ型で、暴力を伴う喧嘩の経験は乏しく、格闘技の経験もなかったという。
「Aがなぜ、僕のことを喧嘩が強いと思っていたのかはわかりません。勝手にそう解釈していたのだと思います」
計画も準備も何もかもが杜撰な犯行だったのだ。
●被害男性の抵抗に遭うなどしてパニックに
2人は水分峡森林公園の管理棟の裏手に到着。A被告人は、その場に沢山積まれていた木の棒(ストーブ用の薪)のうちの1本を「武器とするために持っておこう」と手に取った。
一方、少女Cは被害男性と一緒に先に到着しており、管理棟の表側のベンチで会話していた。事前の計画では、ここで彼女が被害男性に性行為を持ちかけ、ズボンを脱がさせるはずだったが、それは実現しなかった。
少女Cはそのことをこう供述している。
「私は屋外で性行為をしたことがなく、被害男性も屋外での性行為に同意する人だとは思えませんでした。そのため結局、被害男性に性行為を持ちかけられないまま、A被告人にLINEで『もう出てきていいよ』と伝えたのです」
A被告人は出てきて、被害男性に「こんなところで女の子を襲おうとしよるんか。金出せや」と求めたが、「お金は持っていません」と拒絶された。そこで「被害男性の身体のどこか」を拳で殴ったが、反撃されたという。
A被告人はこう供述している。
「被害男性が私にヘッドロックをしてきたのですが、力が強く抜け出せませんでした」
自分は手を出すつもりはなかったB被告人はその様子を見て、A被告人を助けるために被害男性に飛び蹴り。さらに被害男性を殴ったり蹴ったりした。そうしたところ、A被告人が事前に持っていた木の棒で被害男性の頭部を4、5回殴り、血が飛び散る事態になったという。
ふたたびB被告人の証言。
「僕は被害男性の前にしゃがみこみ、『お金を出してくれたら、もう帰るんで』と言ったのですが、被害男性に顔面を殴られました。そこで僕も殴り返し、馬乗りになると、被害男性が『助けて!』と何度も叫び出し、僕はパニックになりました。そこでAに対し、『なんとかせえ!』と言ったのです」
A被告人はこれをうけ、木の棒で被害男性の後頭部を打ちつけたが、これが致命傷となった。被害男性は動かなくなったという。
こうして被害男性を殺害後、A被告人が被害男性のバッグから財布を盗むと、8万1000円が入っていた。現場から逃走後、B被告人は事前の約束通り、A被告人から3万円を渡された。その金はカラオケや飲食費に使ったが、その心境をこう振り返っている。
「カラオケに行ったのは、遊んで気持ちを紛らわしたかったからです。とにかく頭から事件のことを拭い去りたい思いでした」
事件から2カ月余りが過ぎた同年6月22日、3人は広島県警に逮捕された。
●弁護側が「育て直しが必要」と主張する根拠
このように犯行の結果が重大なのは間違いないが、弁護人は「B被告人には、育て直しが必要だ」と少年院での保護処分が相当だと主張した。
その主張を裏づけるために証言したのが、B被告人と面談を重ねた矯正心理学と犯罪学を専門とする大学教授だった。
この教授によると、B被告人は幼少期、両親の殴り合いの喧嘩をよく目にする「心理的な虐待」を受けていたという。
8歳の時には、両親が離婚。父親と幼い妹と3人で暮らすようになったが、父親は仕事で毎朝早く家を出て、夜遅くまで帰って来なかったという。
「このように養育環境はネグレクトに近く、子供の頃から妹の面倒をみていた状況はヤングケアラーと認定してもおかしくありません」
さらに中学の頃、父親が家を出て、母親と継父、この2人の間に産まれた妹と暮らすようになった。母親はこの継父とも暴力を伴う喧嘩をしていたうえ、B被告人に「弱い者いじめをするな。ただ、やられたらやり返せ」と暴力を肯定するような教育をしていたという。
大学教授はこのようなB被告人の生育歴を踏まえ、「幼少期の逆境体験が心身の発達に影響を与えました。心理的に脆弱になり、判断や行動がゆがみ、今回の犯行にもつながりました。心身の発達のために『育て直し』が必要です」と結論した。
それが可能なのは、刑務作業を優先させる少年刑務所ではなく、法務教官が一人一人の少年の矯正に取り組む少年院なのだという。
大学教授はB被告人について、「面談を始めた頃は乏しかった表情が豊かになり、感謝の言葉も口にするようになりました」として、成長していると証言。B被告人もこう語った。
「僕は逮捕される前、マンガも読まなかったのですが、逮捕されてからは200冊以上の本を読みました。犯罪被害者遺族の目線で書かれた小説も読み、被害者のことにも思いが及ぶようになりました」
このような専門家の意見や事件後の事情が判決にどう反映されるのか。7月1日の第3回公判では、検察官が犯行の悪質性や重大性を強調し、懲役18年を求刑したのに対し、弁護人は改めて保護処分が相当だと主張して結審。判決は7月3日に言い渡される。