2018年当時、13歳の中学生だった男性が、本人の同意なく精神科病院に医療保護入院させられたのは憲法に反し、違法だとして、病院や児童相談所を設置する東京都、母親らを相手取り、計1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が7月1日、東京地裁であった。
神野泰一裁判長は、原告の請求をすべて棄却した。
判決は、一時保護・医療保護入院・隔離措置はいずれも適法だったと判断。原告側が主張していた精神保健福祉法33条などの違憲性については判断しなかった。
この日の判決後、原告側は東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。
原告の火山優さん(仮名)は「せめて違法とは言ってほしかった」と述べた。
原告代理人の倉持麟太郎弁護士は「完全敗訴だ。病院側の主張をそのままなぞったような不当判決。あまりに想定外」と厳しく批判した。
●13歳で“連行”、精神科の閉鎖病棟へ
判決などによると、両親が離婚し、母親と2人で暮らしていた火山さんは2018年2月1日朝、自宅を出た直後、児童相談所の職員から一時保護すると告げられた。
児相は同日、一時保護を決定していた。
火山さんは、後方から近づいてきた児相職員や民間業者のスタッフ、警察官ら約10人に取り囲まれ、着ていたブレザーを引っ張られて留め具を壊されるなどして、精神科病院へ連れて行かれたという。
閉鎖病棟の隔離室に収容され、翌日には病室へ移ったが、電話や面会など外部との連絡は制限された。
入院期間もわからない状況に危機感を覚えた火山さんは2月10日、病院の窓から脱走。その後、13日付で一時保護が解除され、21日には自宅へ戻った。
●入院に同意した母親らを相手取り提訴した
火山さんは2023年1月、東京都のほか、入院措置を実施した都内の病院、診断した指定医2人、入院に同意した母親らを相手取り、東京地裁に提訴した。
訴訟では、一時保護(児童福祉法33条)と医療保護入院(精神保健福祉法33条)の措置が違法であり、さらに両条文自体も憲法に反すると主張し、計1億円の損害賠償を求めた。
これに対して、被告側は母親を含め全員が請求棄却を求めていた。
●東京地裁「粗暴な言動があり、要件を満たす」
東京地裁は、原告側の請求を全面的に退けた。
一時保護について、神野裁判長は、火山さんが母親に対する粗暴な言動や器物損壊を繰り返していたと認定。
「速やかに対応しなければ、より重大な事態に発展することが懸念される状況にあった」として、児童福祉法上の要件を満たし、適法だったと判断した。
約10人で取り囲んだ態様についても「過剰なものであるとまではいえない」とした。
医療保護入院についても、火山さんは精神障害者で、医療・保護のため入院の必要があり、任意入院がおこなわれる状態になかったと認定。
母親の同意も有効だったとして、精神保健福祉法33条1項1号の要件を満たす適法な措置と判断した。
隔離や通信・面会の制限についても、いずれも適法と結論づけた。
一方、原告側が求めた憲法判断については、各措置が適法である以上、「その余の点について検討するまでもなく、原告の主張は理由がない」として、処分違憲・法令違憲の主張には立ち入らなかった。
●原告「指定医1人の診断で無期限に自由を奪われる」
判決後の記者会見で、火山さんは「(判決の勝ち負けは)正直どうでもいいと思っていた」と振り返った。
「ある程度は違法性が認定されると考えていた。仮にそうでも、失った10日間が戻るわけではない」と話した。
そのうえで「指定医1人の診断で、無期限に自由を奪われてしまうのは理解しがたい」と、医療保護入院の制度そのものに疑問を呈した。
●倉持弁護士「裁判所の認識の甘さを強く感じた」
倉持弁護士は「いわゆる全負けで、非常に不当な判決だ」と述べた。
「8年前に重大な自由の侵害を受けた本人を、法廷で裁判所がもう一度『精神障害者』と認定し、病院がやったことはすべて正しかったと判断した」と批判した。
また、「3年間、しつこいくらい憲法判断をしてほしいと求めてきたが、被告からの反論すら必要ないとして取り合ってもらえなかった」と述べ、「精神科医療と自由・人権に対する裁判所の認識の甘さを強く感じた」と語った。
控訴するかどうかは検討中だが、「代理人としては控訴したいと思っている」と述べた。