前日、夜遅くまで働いたのに、翌朝は定時から働かなくてはいけない。そんな日本の働き方を見直そうとする「勤務間インターバル」制度に関心が集まっている。「勤務間インターバル」は、労働者のある仕事が終了してから次の仕事までに「7時間以上」など一定時間の休息を義務付ける制度で、すでにKDDIが取り入れている。
1月下旬に新聞各紙が報じたある労災認定で、この制度に注目が集まった。報道によれば、神戸西労働基準監督署は、退社してから8分後に再び出社するなど過酷な勤務を強いられ、過労自殺した西日本高速道路の男性社員を労災認定した。
EU加盟国では、1993年に制定されたEU労働時間指令により、「最低11時間の休息時間」を義務化する勤務間インターバル規制を定めている。この制度を日本でも取り入れることで、長時間労働の是正につながるのだろうか。また、導入に際しての課題や問題点はあるのだろうか。倉重公太朗弁護士に話をきいた。
●導入の課題は?
インターバル規制はEUでも取り入れられており、日本でも一部の企業が導入するなど、過重労働防止には有効な手段であると言えるでしょう。ただし、今後広く普及させるためには4つの大きな課題があります。
(1)このままでは、一部の余裕がある企業しか導入できない
まず1点目は「このままでは、一部の余裕がある企業しか導入できない」という点です。
インターバル規制を導入した場合、どうしても人員が不足するケースが出てくるでしょう。人員を容易に増やせるような体力のある企業であれば良いのですが、そうでない場合はなかなか導入が困難なのが現実です。
そもそも、人を増やそうとしても、年金・社会保険等を含め、1人採用するコストが高いため、例えば2人雇用して仕事を分担するよりも、1人に長時間労働してもらう方が安くなってしまうことが問題と言えます。
社会補償費負担の問題、割増賃金率の問題ともセットで考えなければならないと思います(1名新たに採用するほうが、1人に長時間労働をさせるよりもコストが安いようにする)。
私としても長時間労働は避けるべきと考えていますが、一方で中小企業まで普及させるための現実的方策もまた考えるべきだと思っています。
●「体力のない企業は遵守するのが困難」
(2)生産性を増やすことで対応できるのか
2点目は「生産性を増やすことで対応できるのか」という点です。
人員を増やさずに導入するためには、一人一人の生産性を高められれば良いのですが、主要先進7カ国中20年連続最下位(「日本の生産性の動向 2014 年版」日本生産性本部)という状況では難しいものがあります。
仮に、この規制を今後法律で義務づけるとしても、結局は、体力のない企業は遵守することが困難になるだけではないかという懸念があります。
(3)仕事の範囲に対する考え方が日本とEUでは異なる
3点目が「仕事の範囲に対する考え方が日本とEUでは異なる」点です。
EUの場合は職務給制度が多く採用されており、各人のジョブが明確化している一方で、日本の場合はメンバーシップ型雇用と言われるように、ジョブが不明確であって、仕事が属人的なケースが多く見られます。
そのため、インターバル間の仕事の引き継ぎや不在時の対応の仕方などを考えた場合にも、少なくとも「今の」日本型雇用慣行においては、うまく馴染まないのではないでしょうか。
(4)雇用の流動性が確保されていないことが最大の問題
4点目は「雇用の流動性が確保されていないことが最大の問題」ということです。
最大の問題は、結局のところ雇用保障の問題に行き着くと思います。
すなわち、現在では、正社員を1名増やしたい場合、解雇(労働契約法16条)が非常に困難な法制であるため、おおよそ定年までのコストを見込む必要があります。しかし、そこまでコストをかけて人員増を検討できる企業はゼロではないですが、そう多くもないでしょう。まさにここが本質的問題だと考えています。
理念は正しくとも、皆が守れない規制では意味がありません。
雇用流動化により、採用コストを下げて、一人に長時間労働させるよりも、複数名で分担する方が効率的な世の中であれば、インターバル規制もなじむでしょう。その場合であれば導入には賛成です。
結局のところ、「長時間労働させるのは損だ」とコスト面から企業に認識させ、そのような雇用慣行を作って行くことが、真の過重労働対策であると考えています。