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余命宣告を受けた「妹」、夫の不倫発覚…慰謝料を姉に生前贈与することは可能か?
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余命宣告を受けた「妹」、夫の不倫発覚…慰謝料を姉に生前贈与することは可能か?

余命宣告を受けた妹の財産を、姉に生前贈与できるのか、という質問が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられました。相談を寄せた女性によれば、「妹が余命宣告(余命1年程度)を受けました。同時に旦那の不貞が発覚し、離婚も考えています」という状況です。妹夫婦には、子どもはおらず、両親はともに健在です。

妹は、生命保険の受取人を姉に変更し、離婚で夫から受け取る予定の慰謝料や財産の全てを、女性(姉)に譲りたいと考えているそうです。ただ、女性には「借金があり、早急にお金が必要な状況」だとして、生前贈与を考えています。

このような場合、生前贈与を受けるためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。また、もし離婚に妹の夫が同意しなかった場合には、どうなるのでしょうか。加藤寛崇弁護士に聞きました。

●検討するべきポイントとは?

「本件では、『離婚で夫から受け取る予定の慰謝料や財産』を姉に譲渡したいということです。(1)譲渡できる財産(権利)が存在するかどうか、(2)譲渡する場合の手続を順に検討します。

もっとも、本件で最も重要なのは、妹が離婚が成立してから亡くなるのか離婚前に亡くなってしまうかどうかです。この見通しによってとるべき対応は大きく変わってきます」

●譲渡できる財産は存在する?

まず1点目の「譲渡できる財産が存在するかどうか」。この点については、どうだろうか。

「譲渡できる財産は、存在します。

夫の不貞行為が発覚したのですから、妹は夫に対する慰謝料請求権を持ちます。さらに、離婚すれば、婚姻後に夫婦で築いた財産の分与を請求する権利(財産分与請求権)を持ちます」

離婚が成立する前に亡くなった場合には、どうだろうか。

「慰謝料請求権はいつでも第三者に譲渡できます。生前、姉に慰謝料請求権を譲渡しておけば、そのまま請求権は姉のもとに残されます。

なお、財産分与請求権はあくまでも離婚の成立で発生する権利なので、離婚前に譲渡はできないことになります。離婚することなく妹が亡くなった場合には、財産分与請求権は発生しないままですので、生前贈与も相続もできません」

離婚していなければ、妹の財産は夫が相続してしまうのか。

「離婚が成立していないまま妹が亡くなった場合には、離婚の裁判中などであっても、夫が法定相続分どおりに相続します」

●生前贈与の手続きはどうなっている?

なお、生前贈与はどのような手続きが必要なのか。

「生前贈与をするために特別な手続は必要ありません。慰謝料請求権については、妹が夫に対し、姉に慰謝料請求権を譲渡した旨の通知をすればそれで足ります。

離婚は成立したものの財産分与がまだだという状態であれば、財産分与請求権を妹から姉に譲渡することは可能です。その場合は、慰謝料請求権と同様に譲渡の通知をすれば足ります。

ただし、死亡後に譲渡の事実を争われないために、生前贈与をした合意書や譲渡通知はきちんとした形で残すべきなので、弁護士に相談された方がいいでしょう」

●贈与税はどうなる?

今回、姉は早急に現金が欲しいために生前贈与を考えている。しかし税金面でいえば、死後に相続するのと生前贈与とでは、違いはないのだろうか。

「一般には、相続よりも贈与の方が税金が高額になるので、離婚が無事にできたのであれば、妹が姉に財産を残す遺言を書いて、相続を待つ方が税金面では有利です。

なお、仮に妹の夫が妹の余命を知っているのであれば、夫としては財産分与をしたくないでしょうから、離婚に応じずに引き延ばすことを選択するでしょう。その場合には『妹名義の財産は姉に譲渡する』との遺言を書いておくなど、夫の思い通りにさせない策を講じるべきです」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

加藤 寛崇
加藤 寛崇(かとう ひろたか)弁護士 みえ市民法律事務所
東大法学部卒。労働事件、家事事件など、多様な事件を扱う。労働事件は、労働事件専門の判例雑誌に掲載された裁判例も複数扱っている。

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