タレントのいとうまい子さんが、1月に自宅マンションで突然死した兄(55歳)について、不動産会社から嫌がらせを受けたとブログで打ち明け、話題になった。
いとうさんによると、兄が自殺や殺人事件でもなく、自宅で寝たまま亡くなったにもかかわらず、不動産会社から、「1日でも早く撤去させろ!」「死人が出たマンションは普通に貸せない!」「広告を出す時は死人が出たと表記する!」「フローリングを変えるから120万円払え!」などの心無い言葉をかけられたという。
自殺や殺人事件ではなく、寝たまま突然死した場合でも、特別な支払いなどの対応が必要になるのだろうか。瀬戸仲男弁護士に聞いた。
●「自然死」の場合、借りていた側は原則として責任を負わない
「本件のケースで問題となるのは、第一に、死因が仮に『自然死』だとして、その場合に『事故物件』として『心理的瑕疵』があると言えるのかということです。
そして、第二に、仮に『事故物件』に該当するとして、死亡によって物件の価値を減少させた本人ではない者が責任を負うのか、ということが問題となります」
瀬戸弁護士はこのように述べる。
「第一の点から考えてみましょう。参考になる事案として、東京地裁平成19年3月9日判決があります。これは『賃借人の従業員が建物(借上げ社宅)内で脳溢血により死亡し、死亡後4日経って発見された。賃貸人は、建物の価値が下落したとして、賃借人に対し、約580万円の損害賠償請求をした』という事案です。
東京地裁は『借家であっても、人間の生活の本拠である以上、老衰や病気等による自然死は当然に予想されるところであり、借家での自然死につき、当然に賃借人に債務不履行責任や不法行為責任を問うことはできない。そして、死亡4日後の発見が賃借人の債務不履行であるとは認められないことから、賃貸人の請求を棄却する』として賃借人側の責任を否定しました。
この判決から、病死などの『自然死』は誰にでも訪れる可能性の高いことであり、法律上の損害賠償責任の発生根拠として認めることは妥当でないと思われます」
では、自然死の場合、賃借人側が損害賠償責任を負うことはないのだろうか。
「必ずしもそうとは言い切れません。自然死だったとしても、例外的に、死亡時点から相当期間が経過して腐乱死体になっていたような場合には、損害賠償責任が発生することがあるとされています。
確かに、死亡して腐乱すれば、臭いもきつくなり、建物内部に腐乱の痕跡が残りますから、心理的瑕疵に該当するものとして、賃借人に損害(内装の全面的交換や消毒・消臭のための費用なども含めて)を賠償させるべきだと判断されるでしょう。
なお、『自然死』ではなく『自殺』の場合は、賃借人側に損害賠償責任が発生します。東京地裁平成22年9月2日判決は、『賃借人の善管注意義務には、居住者が当該物件内部において自殺しないように配慮することもその内容に含まれる』として、賃借人側の損害賠償責任を肯定しています。
確かに、一般人にとって『自殺』は身近なことではなく、避けたいことですので、心理的瑕疵の程度が大きいでしょう。『殺人』の場合は心理的瑕疵の程度が更に大きくなると考えられます」
●「相続放棄」をすれば責任を免れる
「上記のとおり、自然死の場合は、原則的には賃借人側が損害を賠償する必要はありませんが、例外的に賠償責任が発生する場合、死亡した本人ではない親族が賠償責任を負うのか、考えてみましょう。
親族が賃貸借契約の保証人になっていれば責任を負うことは明らかですが、保証人になっていなくても、死亡した本人の『相続人』は責任を負うものと考えられます。理論的には、本人の死亡時に損害賠償責任が発生し、その死亡と同時に相続されると考えられます」
損害賠償責任を免れる方法はないのだろうか。
「もしも、死亡した本人に財産が無いようであれば、相続放棄の手続をしましょう。相続放棄をすると、現金や不動産などプラスの財産を相続できなくなりますが、同時に、借金や損害賠償責任などマイナスの財産も相続しないで済みます。
手続きは、死亡した本人の最後の住所地の家庭裁判所で行います。デッドラインは相続の開始を知った時から『三か月』です。アッいう間に過ぎてしまいますので、忘れずに手続するようにしましょう」