子どものため離婚を我慢している「仮面夫婦」。お互い公認で「不倫相手」を作ったものの、夫から離婚を要求されてしまったという妻が弁護士ドットコムに相談を寄せました。
相談者によると、子どもが大きくなるまでは、お互い離婚を我慢すると決めました。そこで「家庭を壊さないような付き合いをする」というのを前提に、不倫相手を作ってもいいルールを設定。お互い彼氏と彼女ができたと言います。
しかし、夫の不倫相手が妊娠。すると、夫とその不倫相手は妻に対して「今すぐ離婚してほしい」と要求してきました。
たとえ「公認」の不倫であっても、離婚となれば慰謝料を請求することは可能なのでしょうか。五十嵐里絵弁護士に聞きました。
●不倫が始まる前に夫婦関係が破綻していたか
「不倫が始まる前に、夫婦関係が既に破綻していた場合、不倫相手は慰謝料を支払う必要がないことは、裁判実務では確立したルールです」
五十嵐弁護士はそう話します。なぜそうしたルールになっているのでしょうか。
「不倫によって夫婦関係が壊れた場合に、慰謝料を支払うことになります。もし不倫が始まる前に、夫婦関係が破綻していた場合には『すでに壊れているもの(夫婦関係)をさらに壊すことはできない』と考えられるため、このルールが生まれました。
破綻が認められれば慰謝料を支払う必要はありません。実務においても、交際の始まった時点で夫婦関係が破綻していたかどうかが争点になることは非常に多いです」
●破綻が認められるケースは?
夫婦関係が破綻しているかどうかの証明は難しそうです。
「はい。争点になることは多いですが、夫婦関係が破綻しているか否かという点に関する裁判所の判断は非常に慎重です。破綻が認められるケースはそれほど多くはありません」
どういったケースだと破綻が認められますか。
「既に双方が弁護士を立てて離婚に向けての協議を行っていたり、調停で離婚についての協議を現に行っていたりする場合であれば、破綻が認められると言えますし、夫婦の不仲が原因で相当の期間、別居が継続しているという場合も破綻が認められることが多いです」
反対に、認められないケースにはどのようなものがありますか。
「夫婦が同居を継続しているが冷え切った関係だった、あるいは、口論やケンカが絶えなかったというケースになると、破綻が認められるケースはぐっと少なくなります。
夫婦関係が『相当に冷却していた』『相当に悪化していた』ものの、『完全に破綻していたとは言えない』として、慰謝料の支払が命じられることが多いように思います」
●冷え切った夫婦関係=慰謝料の減額要因に
今回の相談者の事例では、お互いに家庭の外に恋人を作ってもいいというルールがありました。これはどのように評価できるのでしょうか。
「そうしたルールがあったということは、夫婦関係が良好であったとは到底言えない状況です。ただ、それでも、子どもが成長するまでは離婚せず、家庭を壊さないという前提はあったわけで、夫婦関係を継続するという双方の意思の下に、曲がりなりにも平穏に夫婦生活は営まれていたと言えるでしょう。
この場合、不倫の前に夫婦関係が破綻していたとは認められず、不倫により離婚=婚姻関係の破綻に追い込まれたとして慰謝料の支払が命じられる可能性が高いと思います」
慰謝料の額に影響はありますか。
「夫婦関係の破綻が争われるケースではよくあることですが、双方が公認で恋人を作るような、冷え切った夫婦関係であったことが、慰謝料の減額要因にはなるとは思われます」
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