海賊版サイト「漫画村」の元運営者とされる男性が、フィリピンの入国管理局に身柄拘束された、と報じられている。今回の逮捕について、著作権にくわしい専門家はどのように見たのだろうか。
●「海賊版サイトの被害は決して下火になっていない」
フィリピンの入国管理局によると、元運営者の男性は7月7日、マニラのニノイ・アキノ国際空港で身柄拘束された。今回の逮捕は、日本国大使館の要望を受けたもの。日本国大使館は、多重国籍とされる男性の強制送還について、イスラエル大使館とドイツ大使館と調整するという。
男性は2016年1月から2018年4月まで、海賊版サイト「漫画村」を運営していたとみられる。漫画村は、違法にアップロードされた漫画が掲載されていて、出版社の売上に大きなダメージを与えたとされる。
政府は2018年4月、特に悪質な海賊版サイトとして「漫画村」を名指ししたうえで、法制度の整備まで緊急的な措置として、民間の事業者が自主的にブロッキング(アクセス遮断)することが適当とする決定をおこなった。漫画村はその後、閉鎖状態にあった。
著作権にくわしい福井健策弁護士は「今回の進展は、多くの方々の努力の成果だが、この間も海賊版サイトは生まれ続け被害は決して下火になっていない。昨年以来、出版界・通信界の情報交換や協力も進んでいる。今後は、ほかのサイトへの身元解明や法的措置がカギになる」と話す。
漫画村の元運営者の男性が日本に強制送還された場合、どんな罪に問われるのか。福井弁護士に聞いた。
●公衆送信権の侵害にあたる可能性
――漫画村の元運営者の男性は、どんな罪に問われますか?
もとより正確な実態解明は今後ではありますが、日本の著作権法違反(119条1項・著作権侵害)にあたる可能性は高いでしょう。
――日本の刑罰が適用されるのでしょうか?
多重国籍が取り沙汰されていますが、男性の国籍を問わず、刑法1条1項により、国内が「犯罪地」であれば日本法が適用されます。犯罪地とは、犯罪にあたる行為の地または結果発生地と考えられます。
この結果発生地ですが、漫画村は主に日本の書籍・雑誌が掲載された日本語サイトであり、アクセス数で95%以上とされた国内の膨大なユーザーによって現実に閲覧(受信)されていたサービスです。侵害の結果発生の中心地が日本であったことは否定しがたいところです。
この場合、少なくとも日本は中心的な犯罪地の1つだったと言えるため、日本法が適用される可能性は高いでしょう。その場合、サーバーに他人の著作物である書籍や雑誌を蔵置して日本の不特定のユーザーに読ませる行為は、公衆送信権の侵害などにあたることも疑いがなさそうです。
――漫画村の運営が「公衆送信権の侵害」にあたるのでしょうか?
彼がサイトの運営者だったことが確定すれば、公衆送信の主体として侵害の責任を負うものと思われます。
この点、画像ファイルの蔵置場所は別にあるという説明がされたこともあるようですが、仮に別サーバーがあったとしても、それが「漫画村」運営者と無関係だったとは考え難いところです。同じ人物が配信全体を主導した以上、やはり公衆送信の主体であることを否定するのは困難でしょう。