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19歳巡査の「実名・顔写真」公開捜査、少年法に反しない? 警官射殺後、銃を持ったまま逃走
写真はイメージです(richardschramm / PIXTA)

19歳巡査の「実名・顔写真」公開捜査、少年法に反しない? 警官射殺後、銃を持ったまま逃走

滋賀県彦根市の県警彦根署河瀬駅前交番で4月11日、41歳巡査部長が拳銃で撃たれ死亡した事件。事件発覚後に同僚の19歳巡査がパトカーで逃走、滋賀県警は殺人容疑で巡査を指名手配した。巡査は弾が残っていると思われる拳銃を持っていたため、住民の安全を考慮。未成年にもかかわらず実名や顔写真を公表するという、異例の公開捜査に踏み切った。

そのため「重大事件」として、NHKなどのテレビ局や新聞社のニュースサイトでは、一時、巡査の実名や顔写真が報道された。巡査が翌日未明に身柄を確保、逮捕されたことから、報道各社は現在、匿名に切り替えている。しかし、一度テレビやネット上で公開されてしまった実名や顔写真は、まとめサイトなどに残り続けている状態だ。

今回のような緊急を要する住民の安全確保と少年法で守られる範囲は、どのようなバランスにあるのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

●拳銃を持ったままの指名手配犯を近隣住民に知らせる必要性は高い

今回、容疑者が19歳にもかかわらず、顔写真や実名が公開された。少年法に抵触しないのだろうか。

「少年法61条は、『家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者』については、実名や容ぼうなどで本人だと分かってしまうような記事又は写真を新聞などに載せてはいけないとされています。条文としては家裁にまで達している少年を対象としていますが、その前段階である捜査中の少年(報道でいう『容疑者』)の段階でも、この法の趣旨は妥当し、実名報道などはしてはいけないと考えられています。

したがって、本人と分かるような報道(実名や顔写真)は、原則として少年法61条の趣旨に抵触すると考えられるでしょう。

もっとも、表現の自由との関係があり、全く実名報道ができないというわけではありません。両者のバランスを考える必要があります」

では、拳銃を持ったまま逃走している容疑者の公開捜査と、少年法で守られる範囲は、どちらが優先されるのか。

「例えば、堺通り魔殺人事件の控訴審(大阪高判平成12年2月29日)(編集部注)などでは、このバランスとして (1)表現行為が社会の正当な関心事であり、かつ (2)その表現内容・方法が不当なものでない場合には、違法とはならないとしています。このように、(1)どのような事件なのか、(2)その表現方法などはどうなのかの2点からみていくのは、概ね一般的に認められる指標といえそうです。

(編集部注:加害の元少年は事件当時19歳だったが、平成10年1月の事件直後、発売された雑誌『新潮45』では記事に実名と顔写真が掲載され、少年と弁護団が新潮社などを訴えた裁判。大阪高裁は元少年らの訴えを棄却した)

本件では、(1)拳銃を持ったままの指名手配犯であることからして、近隣住民を含め社会に知らせる必要性が相当高いといえます。また、(2)事件とは無関係なプライベートなものではなく、顔写真などに限定されていれば、表現も不当とはいえないでしょう。したがって、本件では、実名報道をすることには問題が少ないといえます」

●ネットにアップされた実名や写真をRTするだけでも民事訴訟のリスク

公開捜査となったことで、メディアが巡査の実名や顔写真を報道したが、逮捕後は匿名に切り替えている。しかし、ネット上のまとめサイトやTwitterなどには、そのまま公開された情報が残り続けている。どのような問題がある?

「逮捕された後は、緊急性が低くなりますので、実名報道をする必要性もまた低くなります。ただ、現代では、ネット上に写真などが残ってしまうという問題があります。

民事的には、プライバシー侵害などを理由に損害賠償請求の対象になり得ます。また、刑事的にも、名誉棄損罪などに当てはまるおそれがあります。ネット上にアップしたことを『加害者』とみるならば、それを広めることもまた『加害者』ですから、安易なリツイートは控えるべきでしょう。

本件では、実名報道が認められやすい類型ですので、問題となることは少ないと思われます。ただ、一般的には実名報道は相当限定的に捉えられていて、民事訴訟などを起こされるリスクは常に存在していること、リツイートなどで一般の方々もその対象になり得ることは、十分に注意しておくべきでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

神尾 尊礼
神尾 尊礼(かみお たかひろ)弁護士 東京スタートアップ法律事務所
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。一般民事事件、刑事事件から家事事件、企業法務まで幅広く担当。企業法務は特に医療分野と教育分野に力を入れている。

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