漫画『あおのたつき』の作者、安達智さんがX上で、ある植物について投稿して注目を集めました。
投稿によると、安達さんは隣人からかっこいい枝をもらい、飾っていたといいます。しかし、よく調べたところ、「猛毒の木で青酸カリ並の毒性で葉っぱ5枚で致死量」であることがわかり、すぐに捨てたとのことです。
この植物は「キョウチクトウ」(夾竹桃)といい、実は道路や公園などでも植栽されているものです。6月から9月にかけて白色や赤色、ピンク色の花を咲かせます。排気ガスなどにも強く、都市部の環境でも育つことから、親しまれてきました。
「市の花」に制定している自治体もある一方で、安達さんが投稿した通り、毒性を持つ植物としても知られており、花や枝、葉に毒があり、口に含んだりすると危険で、注意を呼びかける自治体もあります。
●キョウチクトウが植えられてきた理由
国内のキョウチクトウは、もともとインド原産で、江戸時代に日本へ入ってきたとされています。高さ数メートルになる常緑樹で、葉の形は竹に似ています。厳しい環境下でも育つことから、公園や市街地、高速道路のわきに植栽されることが多いです。
こうしたキョウチクトウの強さを復興や環境緑化のシンボルとして、「市の花」に制定する自治体があります。
兵庫県尼崎市では1952年、キョウチクトウを「市の花」に制定しています。昭和20年代にジェーン台風(1950年5月)などの災害に見舞われ、尼崎南部が海水につかってしまったものの、キョウチクトウは生き残ったことが由来といいます。
「花を咲かせ市民を元気付けたので、天災や戦災からの復興のシンボルとして選定された」そうです(尼崎市公式サイトより)。
千葉市でも、1970年にキョウチクトウを「市の花木」に制定しています。その理由について、「当時は、大気汚染など生活環境の悪化が社会問題になり、公害に強く、都市緑化への貢献度も高く、夏の暑さでほかの花が咲かない時期で、次々と花を咲かせるキョウチクトウは、千葉市の都市緑化の一役を担っています」と説明しています(千葉市公式サイトより)。
ほかにも、鹿児島市が1968年に南国の日差しと青い空が似合う「夏を代表する花」として、市の花にキョウチクトウを選んでいます。
●各地で子どもが実や葉を口に含んで入院する事故
一方で、キョウチクトウは毒を持っていることでも知られています。
花や葉だけでなく、茎や根などすべての部分に毒があり、万が一口にした場合は、吐き気や下痢、めまい、腹痛などの中毒症状が出ます。また、選定した枝や生木を燃やした場合も、その煙は有害です。
実は、これまでにも誤飲による事故が発生しています。
沖縄県沖縄市の公園で2013年、キョウチクトウ科の「オキナワキョウチクトウ」の実を口にした1歳男児が救急搬送され、入院する事故が起きています(沖縄タイムス2013年10月1日付)。
2016年にも、高松市内で小学2年の男児2人が学校の校庭にあったキョウチクトウの葉を食べて、頭痛などの食中毒症状を訴えたといいます。男児2人はキョウチクトウの葉を3〜5枚食べたとのことで、一時は入院していました。
このニュースを報じた四国新聞によると、市内の小中学校のほぼ半数の学校で、キョウチクトウが植えられていたそうです(四国新聞2017年12月16日付)。
自治体によっては、こうした毒性を重視して新たな植栽を控えたり、植え替えをしたりするところもあります。
長崎県佐世保市では1968年に「市の花」をキョウチクトウと定めていましたが、壱岐市で1974年に枝切りした葉が牛の飼料に混入し、牛が中毒死する事故があり、1985年に同様の事故が市内でも発生したため、農村部での植栽はされていないそうです(西日本新聞2000年9月27日付)。
さらに、佐世保市では2002年、市制施行100周年を記念して、新たに「カノコユリ」を「市の花」に制定しました。キョウチクトウは現在、採用されていません。
●75年間草木も生えないと言われた広島市で
そうした中、キョウチクトウは人々の希望になっているケースもあります。広島市では1973年、「市の花」にキョウチクトウを制定しています。
「原爆が投下され、75年間草木も生えないといわれた広島市ですが、いち早く咲いた花がキョウチクトウでした」
そう説明するのは、広島市緑政課の担当者です。被爆後に咲いたキョウチクトウの花は、広島市民に復興への希望と勇気を与えたといいます。
平和記念公園にはキョウチクトウが数多く植えられているとのことで、8月6日の平和記念日の頃には鮮やかなピンク色の花が咲き乱れるといいます。
広島市では、この平和記念公園のキョウチクトウを挿し木して育てたものを修学旅行などの平和学習で平和記念公園を訪れた学校などの団体に配布しているそうです。
とはいえ、毒を持っている植物でもあります。
「広島市では、ホームページなどで『口に含むと危険です』といった注意を呼びかけています。
毒性のあるキノコやスイセンなどと違い、キョウチクトウは他に似たような食べられる植物がないので、厚労省がまとめている過去10年間の有毒植物による食中毒発生状況などをみても、最近では中毒になった事例はないようです」(担当者)
キョウチクトウだけでなく、私たちの身近にはさまざまな有毒な植物が存在します。
厚労省では公式サイトやパンフレットなどで、「植えた覚えのない植物は食べない」「鑑賞植物には有毒なものもあるので誤食に注意を」といった呼びかけをしています。
厚労省や自治体のサイトでの注意をよく読み、誤って有毒な植物を食べないようにしましょう。