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香川照之さんの違約金「5億円」はありえない? 性加害疑惑の報道でCM打ち切り相次ぐ
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香川照之さんの違約金「5億円」はありえない? 性加害疑惑の報道でCM打ち切り相次ぐ

東京・銀座のクラブでの性加害疑惑が報じられた俳優、香川照之さんのCMや番組の打ち切りが相次いでいる。

トヨタ自動車が9月1日にCM打ち切りを発表すると、それに追随するかたちで、各社が香川さんのCM打ち切りを決定。TBS系列の情報番組『The Time』の司会も降板となった。

NHKも9月2日、香川さん原作・プロデュースのアニメ『インセクトランド』の放送中止、『香川照之の昆虫すごいぜ』シリーズの過去動画を取り下げることなどを発表した。

こうしたCM、番組の打ち切りについて、違約金は5億円にものぼるという報道もある。はたして、違約金はどうなるのか。芸能問題にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。

●日本の広告出演契約には損害額の計算方法が明記されていない

一般的には、電通などの広告代理店と芸能事務所の間で広告出演契約を結びます。

しかし、日本の広告出演契約には、アメリカの長い契約書のように損害額をどのように計算するかについて詳しく明記されていません。

日本の広告出演契約書には、契約金と出演料が明記されているのが一般的です。契約金というのは、通常1年間の契約期間中は、各企業が香川さんのCMを流したり、ウェブサイトに香川さんを掲載するために支払う金額です。

出演料は、テレビなどと同じで、撮影の日に1日拘束することになるので、そのための実働に支払う金額です。

金額としてとにかく大きいのが契約金です。よく巷では「あのタレントは1本あたりいくら」と言われることがありますが、多くの場合は契約金を指しています。『週刊文春』では、1本あたり6000万円とありますが、契約金を示しているとみて間違いはないでしょう。

●『週刊新潮』の第二弾報道が決め手になった

今回のケースは、刑事事件になっておらず、逮捕や起訴があったわけでもありません。週刊誌報道からの一連の流れの中で、CM打ち切りに至ったという今回の経緯のもとでは、契約書だけで判断することは困難です。

そうすると、各社の話し合いになりますし、実際に裁判になるケースなどは、過去にもほぼありません。

今回は、『週刊新潮』で香川さんの性加害報道があり、香川さんサイドも事実関係を否定しませんでしたし、性加害を受けたとされるホステスのMさんが刑事告訴しているようではなく、香川さんとMさんとの間には話し合いで示談や和解になっているようです。

各社は、刑事事件になってないものの、香川さんが性加害の事実を否定しておらず、しかもブラジャーを剥ぎ取り、キスをし、胸を直に撫でまわすという強制わいせつ罪に該当してもおかしくない事実関係でした。

そして、『週刊新潮』で続けて報じられた、香川さんがクラブのママの髪を掴む写真が掲載されたことなどが相まって、企業の広告として使用し続けることができないと判断し、打ち切りになったという流れです。

●「契約金の返金するという流れになる」

打ち切りは各社の判断ではあるものの、原因が香川さんサイドにあることは明らかですから、契約期間中の残りの日数に応じて、契約金を返金するという流れになるかと思われます。

たとえば、契約期間があと半年残っていたとして、契約金6000万円ならば、半分の3000万円を返すということになります。

なので厳密にいえば、この3000万円というのは、違約金でも損害賠償でもなく単純に契約金の返還と法律的には言えます。

そもそも今回の件で、トヨタ自動車を始めスポンサー企業に法律的な意味での「損害」が生じているかというと疑問です。

もちろん、香川さんの行為により、CM差し替えやウェブサイトの変更など、多大な迷惑はかかっていると思いますが、曖昧な基準のもとでの自主判断によるCM打ち切りである以上、損害賠償請求の対象となるような法律的な意味での損害とは言えない可能性もあります。

これまでもタレントの不祥事があるたびに、「芸能関係者によると」という匿名のニュースソースで「違約金◯億円越えか!」というニュースが駆けめぐりますが、実際にそのような高額な金額が動くことはほぼない印象です。

広告代理店も芸能事務所もスポンサー企業までもが、毎回疑問に思っているかもしれません。

そして、芸能事務所が一度負担した金銭は、タレント本人に請求する流れになります。その際には、報酬割合に応じて請求する傾向にあります。

たとえば、歩合制で事務所5で香川さん5の報酬割合であれば、芸能事務所は肩代わりした半額を香川さんに請求するという流れになります。

プロフィール

河西 邦剛
河西 邦剛(かさい くにたか)弁護士 レイ法律事務所
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。

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