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コロナ禍でも「学校に行きたくない」「死にたい」 SNS相談に寄せられる子どもたちのリアル
SNS相談の現場(2020年9月/渋井哲也撮影)

コロナ禍でも「学校に行きたくない」「死にたい」 SNS相談に寄せられる子どもたちのリアル

都内にある事務所の一室で、カウンセラーなどのスタッフがチャットで相談にのっている。相手の顔はわからないが、「学校のクラスの雰囲気になじめない」「死にたい」といった文字がパソコンの画面に流れてくる――。NPO法人「東京メンタルヘルス・スクエア」(東京・西池袋)によるSNS相談の一コマだ。今年はコロナ禍もあり、相談が増えているという。同団体のカウンセリングセンター長、新行内勝善(しんぎょうち・かつよし)さんに取材した(ライター・渋井哲也)。

●匿名性が高いツールでは「話しにくい相談内容」が寄せられる

2017年10月、神奈川県座間市で男女9人殺害事件が発覚した。

被告人と被害者である若者たちの接点は、ツイッター。若者たちは「死にたい」と書き込んでいた。事件をきっかけに2018年3月から、厚生労働省が自殺対策の一環として、SNS相談をしている民間団体への補助事業をはじめた。東京メンタルヘルス・スクエアは、その一つだ。

東京メンタルヘルス・スクエアのSNS相談「こころのほっとチャット」は、2019年度の利用が、のべ8492件(男性1375件・女性6928件・相談者は7405人)だった。基本的には10代、20代の若者中心だが、50代、60代も利用している人がいるなど、年齢層は幅広いという。

相談のツールとして使っているのは、東京メンタルヘルス・スクエアのホームページ上にあるウェブチャット(現在、テレワーク中でシステム上アクセスできない)のほか、LINEとツイッター、フェイスブックと複数ある。それぞれに特徴があるそうだ。

「ウェブチャットは、アカウント登録の必要がないために、最も匿名性が高いです。たとえば、性的虐待など、非常に話しにくい相談内容が寄せられます。フェイスブックは、実名の可能性が高いSNSであるため、内容の真実性も高いものになっています。そのため、優先的に相談にのるようにしています」(新行内さん)

SNS相談の現場 SNS相談の現場(2020年9月/渋井哲也撮影)

●制限時間をもうけているワケは?

SNS相談は、時間制限のないところもあるが、東京メンタルヘルス・スクエアでは「1回50分」の制限時間を設けている。

新行内さんは「相談者も、相談員も、集中力が持つのはだいたい50分ぐらいです。時間制限があると、お互いにその時間を有効に使おうとします」と話す。たしかに、長々と相談したい場合もあるが、堂々めぐりになることも少なくない。"つながっている感覚"のSNSだが相談員の人数も限られている。

「ただし、緊急対応の場合は、50分を超えることもあります。それに、明確に自殺のリスクが高い場合は警察に通報しています。警察が個人を特定して、保護することもあります。また、虐待の相談で、児童相談所につなげたケースもあります」

あるとき、LINE相談で「死にたい」と送ってきた人がいた。やりとりをする中で、自殺多発地域に向かっていることがあった。相談員は、自殺の危険が高いと考え、警察に通報し、発信者情報等から個人を特定した。その後、移動している中で、当事者を警察が保護した例もある。このとき相談員は深夜までやりとりをしていたという。

「いずれも、会話の内容などから、相談者の地域がわかったケースですが、警察に『緊急性がない』と判断される場合もあります。もちろん、相談員としては、相談者を信じて、寄り添って聞いています」(新行内さん)

東京メンタルヘルス・スクエアは、厚労省の補助事業以外も、地方の教育委員会の「教育相談」や、行政の「子ども相談」や「自殺防止のための相談」を請け負っている。また、今年は、新型コロナ関連のメンタルヘルス相談も関わっている。LINE登録は、すでに7万人以上ある。それだけ、相談したい人がいるということだ。

●SNS相談は"怖さ"が少ない

9月10日から16日にかけては、国が定めた「自殺予防週間」だ。しかも、ことしは新型コロナ感染拡大があり、日常の行動が制限されて、メンタルヘルスへの影響も懸念されている。東京メンタルヘルス・スクエアに寄せられる相談件数も増えているという。

「子どもたちに関しては、夏休みが短かったものの、夏休み明けの9月からは、毎年のように"学校へ行きたくない"と感じる子もいるでしょう。学校で相談できればいいのですが、スクールカウンセラーは相談日や場所が決まっています。一方で、SNS相談の場合は時間や場所は問われません。学校に行けなくても、目の前に家族や友だちがいてもできます。登下校中に相談している場合もあります。気軽に相談できるのが利点です。

コロナ禍では、活動が制限されています。SNSで話すことで、なにかしらの返事がほしくても、友だちだと遠慮したり、期待した反応がなかったりする場合があると思います。そんなとき、SNS相談は、専門家であるカウンセラーがその気持を汲み取ってくれるため、"怖さ"は少ないのではないでしょうか。どんな悩みでも相談してほしいと思っています」(新行内さん)

新行内勝善さん 新行内勝善さん(2020年9月/渋井哲也撮影)

●東京メンタルヘルス・スクエアのSNS相談「こころのほっとチャット」

https://www.npo-tms.or.jp/service/sns.html

●厚生労働省のSNS相談

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_sns.html

【筆者プロフィール】渋井哲也(しぶい・てつや) フリーライター。中央大学文学部非常勤講師。東洋大学大学院文学研究科教育学専攻博士前期課程修了。教育学修士。若者の生きづらさをテーマに、自殺・自傷行為、いじめや指導死、ネット犯罪などの取材を重ねる。著者に「学校が子どもを殺すとき」「ルポ平成ネット犯罪」など。

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