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あなたが信じている『正義』は本当に正しい? 揺さぶりをかける法廷ミステリ10作品
読者の「正義」に揺さぶりをかける法廷ミステリ作品(写真は有山裕美子さん提供)

あなたが信じている『正義』は本当に正しい? 揺さぶりをかける法廷ミステリ10作品

法廷ミステリをこよなく愛する工学院大学附属中学校・高等学校司書教諭の有山裕美子さんに、この秋に熟読したい「法廷ミステリ10冊」を選んでいただきました。有山さんは今回の「選書」のポイントをこう語ります。

「秘密の中に隠された真実。正義とは何か、という視点で選んでみました。『秘密』が真実の暴露を阻む、そこを法がどう切り込んでいくか。その中での『正義』とは何だろうという切り口です。何が『正義』か、その答えは、読者にゆだねられます」

本当は軽めのエンターテイメント小説を集めようと試みたそうですが、今回のテーマの内容から、やはり硬派な作品が多くなってしまったとのことでした。一体、どのような作品が選ばれたのでしょうか?

●傍聴人が突然の「殺人告白」、無罪を主張する誘拐犯…真実はどこに?

・『最終陳述』法坂一広著(2014年、宝島社)

強盗殺人の罪で死刑を求刑された被告人の最終陳述が始まろうとするまさにその時、傍聴席の男が、突然自分が殺したと声をあげた。混乱を極める法廷を舞台に、裁判官、裁判員、検事、弁護士、そして事件を取り巻く様々な人々の思いが交錯する。殺人犯は誰か?事件の真相はどこにあるのか?そして、それぞれが守るべき「正義」とは? 現役の弁護士が描く白熱の法廷ミステリー。

・『審判』深谷忠記著(2009年、徳間文庫)

誘拐殺人の罪で15年間の刑期を終えて出てきた柏木喬は、出所後に自身は無実であるとするホームページを立ち上げ、自らの無罪を明らかにしようとする。事件を取り巻く様々な人間模様が描かれ、それぞれの思惑をはらんで、舞台は二転三転していく。柏木は本当に無実なのか、真実はどこへ。そして、ようやくたどり着いた真犯人は、あまりにも意外な人物だった。

・『潔白』青木俊著(2017年、幻冬舎) 

父の無実を信じるひかりは、死刑が執行された裁判の再審を請求する。ひかりは誰よりも、父が無実であるということを知っていたのだ。誰もが無理だと思ったひかりの前代未聞の挑戦に、弁護士の森田や新聞記者らが、再審を阻止しようとする検事らを相手に、一丸となって果敢に挑んでいく。繰り返し歪められた「正義」の先にたどり着いた真犯人は、自らの「正義」で自分を裁いていく。

●社会が抱える問題を、法廷はどう裁くのか?

・『貌なし』嶋中潤著(2015年、光文社)

突然失踪してしまった父を追い求めた娘は、その失踪の陰に隠された悲しい真実に次第に近づいていく。かつて殺人事件の法廷に、証人として立った父は、大きな苦しみを抱えながら生きていた。国民を守るはずの法が、時として人を苦しめていく。自ら人間らしく生きようとするとき、「正義」はどこにあるのか。「無戸籍」という重い問題を改めてつきつけられる作品。

・『デフ・ヴォイス』丸山正樹著(2015年、文春文庫)

容疑者の手話通訳を行う法廷通訳である、主人公は、両親がろう者である「コーダ」である。物語は、そんな主人公をめぐる、2つの悲しい事件を背景に進行していく。障害者が抱える様々な困難は、現代社会がもつ社会的な問題を浮き彫りにしていく。事件は次第に確信へと迫る中明らかにされていく真実は、事件の背景に隠された、我が子を守る決死の選択だった。法では裁けない正義が、問われていく。

●あえて困難な「真実」に向き合う弁護士たち

・『完全無罪』大門剛明著(2019年、講談社文庫)

21年前の少女誘拐殺人事件の冤罪再審裁判の弁護を引きうけた松岡千紗は、かつてその男が起こしたとされる一連の事件の被害者だった。兄の無実を信じた妹は、有罪とされたことを悲観し、自殺していた。なぜ千紗は、憎いはずの仇の弁護を引き受けようと思ったのか。あえて自分の暗い過去につながる事件に真摯に向き合う主人公の中にある「正義」とは。

・『父と子の旅路』小杉健治著(2005年、双葉文庫)

弁護士の浅利祐介は、自身の両親を惨殺した死刑囚の再審を担当することになる。その死刑囚柳瀬光三は、自身が関わった殺人事件の生き残りであった祐介のことをずっと気にかけながら、静かに死刑を待っていた。自分の壮絶な過去に向き合うことになった祐介は、次第に柳瀬の無実を確信するようになっていく。柳瀬が命をかけてまで守ろうとしたものは何か、そこには悲しい真実があった。

●シリーズならではの妙味、検事や弁護士が出会う「事件」

・『検事の信義』柚月裕子著(2019年、角川書店) 

検事佐方貞人シリーズの短編集で、4つの短編からなる。佐方の口癖である「罪はまっとうに裁かれねばならない」というぶれない信義は、すべての作品に貫かれている。事実は真実ではなく、機械的に法律を適用することは、必ずしも「正義」ではない。なぜ事件は起きたか、そこには怒りや悲しみなど、様々な想いが交錯する。事件の陰に隠された、悲しい真実に真摯に向き合う珠玉の短編集。

・『追憶の夜想曲』中山七里著 (2013年、講談社)

弁護士御子柴シリーズの第2弾。高額所得者から法外な弁護料をとるということで悪名高き弁護士である御子柴が、夫を殺した罪で裁かれている亜希子の控訴審を自ら引き受ける。亜希子は自ら殺人を認めており、また有力な目撃者もいて、一見争点のない裁判に思えたが、そこには隠された秘密があった。御子柴はなぜこの裁判に挑んだのか、そして隠された秘密とは。因縁の検事、岬との法廷対決も見所である。

・『氷獄』海堂尊著(2019年、角川書店)

海堂尊のチーム・バチスタシリーズのその後の裁判を描く。医療と司法をめぐる「正義」とは何かを問う1冊。有罪間違いない氷室を弁護することになった新人弁護士の日高正義は、その驚きの提案とともに、前代未聞の行動に出る。「『正義』とはできるだけ小さく使う方が良い。 」日高は事件が終わって、改めてそう思う。なぜなら、大きく使うことで、か弱き人を傷つけるからだ。命をめぐる「正義」のあり方について、改めて問う作品。

●これも捨て難い! 海外作品から選んだプラス2作品

「10作品で選びきれませんでした」と有山さんがさらに選んだ2作品はこちら。海外の法廷ミステリも秀逸な作品が多いそうです。

・『ザ・プロフェッサー』ロバート・ベイリー著、吉野弘人訳(2019年、小学館文庫)

親子3人の命を奪った交通事故は、果たして本当に過失だったのか。アラバマ大学を退職に追い込まれた教授トムは、かつての教え子とともに、様々な困難を乗り越え、真実を追求していく。ずるい人間たちの策略の中で、八方塞がりになったトムたちを最後に救うべく証言台に立ったのは、悲しい事実を受け止め、自身の抱えた秘密を暴露することにより、人間らしく生きるための「正義」を選択した一人の女性だった。

・『ユダの窓』カーター・ディスクン著、高沢治訳(2015年、創元推理文庫)

密室犯罪に挑み、久しぶりに法廷に立つ、老弁護士のヘンリ・メリヴェール卿。彼が挑む裁判はどう見ても形勢不利な上に、相手方は強者揃い。傍聴する「私」の、そんな心配をよそに、被告人に無実を信じた卿は、「この世の出来事のとんでもない行き違い」によって間違った方向に進みつつあった裁判を、徐々に真実へと導いていく。そして最後にたどり着いた犯人は、意外な人物だった。

【有山裕美子さんプロフィール】

小学校教諭、公共図書館勤務を経て、現在は東京都八王子市にある工学院大学附属中学・高等学校で国語科教諭兼司書教諭を務める。法廷ミステリは、心を揺さぶられるものが多く、本も映画も大好き。

これまでの選書

「大人が夏休みに読んでおきたい法廷ミステリ、図書館のプロが選んだ10冊はこれだ!」 https://www.bengo4.com/c_23/n_8392/

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