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免許返納、60代以上の約8割が「返納予定なし」 理由は「運転能力に問題ない」が最多 <アンケート>
画像はイメージです(Mills / PIXTA)

免許返納、60代以上の約8割が「返納予定なし」 理由は「運転能力に問題ない」が最多 <アンケート>

高齢ドライバーによる重大な交通事故が度々発生していますが、対策の一つとして話題になるのが「運転免許の返納」です。その実態について、弁護士ドットコムの一般会員を対象にアンケートを実施しました。(実施期間:8月28日〜9月3日、有効回答数1055人)

アンケートでは、60代以上の回答者の82.1%が現時点で「返納していない(返納予定なし)」と回答しました。その理由として「運転能力に問題ないと思っているから」が最多でした。

一方、まだ返納していない70歳以上の親・祖父母のいる家族からは、「事故を起こす可能性があるから」「高齢者の事故を見て怖くなったから」が返納させたい理由トップ2を占めるなど、身内が事故を起こす可能性を懸念する回答が目立ちました。

70代以上の回答者からは、「判断能力の衰えを自覚しないで運転を続けるのは自分勝手」、「年齢でひとくくりにするのには反対」、「運転しなくなると、逆に認知機能が低下する」といった声もありました。アンケートの詳細を紹介します。

●60代以上の「返納した」「返納する予定」、計15%にとどまる

アンケートの回答者は、男性が63.8%、女性が36.0%、その他が0.2%でした。

年代別では、50代が32.4%で最多。多かった順に、40代は24.5%、60代は20.1%、30代は12.3%、70代は6.4%、20代は3.0%、10代は0.1%、80代以上は1.0%でした。

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60代以上と回答した290人のうち、「現在までに免許を返納した」が6.2%、「返納する予定」が9.0%でした。一方、「返納していない(返納予定なし)」が82.1%で、「現在までに免許を返納した」および「返納する予定」を大きく上回りました。

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返納しない理由に尋ねたところ、「運転能力に問題ないと思っているから」が58.0%で最多となりました。「代替の移動手段に乏しく生活に困るから」が32.8%、「運転や車が好きだから」が31.9%と上位となったほか、「単純に返納する理由はない」が44.5%にのぼるなど、返納のきっかけや動機を積極的に見いだせない人もいるようです。

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●返納した理由「生活に支障ない」が最多

60代以上で「現在までに免許を返納した」または「返納する予定」と回答した人に対して返納の理由を尋ねたところ、「免許がなくても生活に支障ないから」が51.1%で最多で、「運転能力に衰えを感じたから」が44.4%で続きました。一方、「息子、娘、妻に返納を勧められた」は6.7%に留まりました。

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返納後の代替となる移動手段については、「徒歩」が73.3%で最多でした。「鉄道(路面電車含む)」が68.9%、「路線バス、コミュニティバス」が62.2%にのぼり、公共交通機関の利用を考えている人も少なくないようです。「家族・身内が運転する車に同乗」は8.9%でした。

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返納時に起こりうる不都合について尋ねると、「日常生活(買い物など)」が48.9%で最多でした。「趣味」が31.1%で、「通院」の26.7%を上回りました。

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●家族は返納理由や影響の捉え方が本人と異なる傾向も

回答者本人ではなく、回答者の70歳以上の親・祖父母(故人を含む)の返納状況についても尋ねました。

「免許を持っている70歳以上の親・祖父母が全員返納した」が22.8%、「免許を持っている70歳以上の親・祖父母のうち、返納した人も返納していない人もいる」が13.8%となり、「返納した70歳以上の親・祖父母が1人以上いる」に当てはまる回答は36.6%にのぼります。

一方、「免許を持っている70歳以上の親・祖父母が誰も返納していない」との回答は31.1%でした。

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「免許を持っている70歳以上の親・祖父母が全員返納した」、「免許を持っている70歳以上の親・祖父母のうち、返納した人も返納していない人もいる」と回答した人を対象に、70歳以上の親・祖父母が返納した理由を尋ねたところ、「運転能力に衰えを感じたから」が58.4%が最多でした。

60代以上で「現在までに免許を返納した」または「返納する予定」と回答した人の返納理由で最多だった「免許がなくても生活に支障ないから」(51.1%)は、ここでは16.0%に留まりました。返納者本人と家族との間で、返納理由や返納後の生活への影響に対する捉え方が異なるケースが少なくないのかもしれません。

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返納後の代替となる移動手段についても、60代以上で「現在までに免許を返納した」または「返納する予定」と回答した人が「家族・身内が運転する車に同乗」を挙げたのは8.9%でしたが、子・孫目線では55.6%と最多でした。

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返納後に発生した不都合としては、「日常生活(買い物など)」が53.2%ともっとも多く、「通院」の46.3%が続きました。「趣味」は18.3%に留まりました。

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●意外?返納の要望「伝えたことがない」が最多

「免許を持っている70歳以上の親・祖父母のうち、返納した人も返納していない人もいる」、「免許を持っている70歳以上の親・祖父母が誰も返納していない」と回答した人を対象に、免許を持っている70歳以上の親・祖父母の今後の返納について尋ねたところ、「返納させたい」が44.1%で、「返納させるつもりはない」の23.0%を上回りました。

もっとも、「わからない」が35.4%にのぼるなど、子・孫が判断することなのかという迷いも垣間見えました。

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返納の要望を伝えたことがあるかを尋ねたところ、「伝えたことがない」が最多の57.4%でした。

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●家族は親・祖父母の事故を懸念する傾向

「免許を持っている70歳以上の親・祖父母のうち、返納した人も返納していない人もいる」、「免許を持っている70歳以上の親・祖父母が誰も返納していない」と回答した人を対象に、返納させたいか否かに関わらず、返納させたいとした場合の理由について尋ねると、「事故を起こす可能性があるから」が53.6%、「高齢者の事故を見て怖くなったから」が46.0%と続き、家族が父・祖父母の運転を心配する回答が目立ちました。

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返納しない理由について尋ねると、「代替の移動手段に乏しく生活に困るから」が64.6%で最も多く、「本人が運転能力に問題ないと思っているから」が45.8%で続きました。

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もし返納させた場合に代替となる移動手段については、「タクシー」が53.4%と最多で、「徒歩」(48.3%)、「家族・身内が運転する車に同乗」(46.4%)、「路線バス・ コミュニティバス」(46.2%)と僅差で続きました。

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もし返納させた場合に起こりうる不都合について尋ねると、「日常生活(買い物など)」が最多の83.3%で、「通院」の69.8%とともに、“日常の足”に困ることを懸念していることをうかがわせる結果となりました。

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●賛否両論「免許失効の法制度を」「若い人も事故を起こしている」

自由回答で、免許返納に対する70代以上の回答者の意見として、以下のようなものがありました。

【返納したor返納予定の人の意見】

「判断能力の衰えを自覚しないで運転を続けるのは自分勝手。免許の自主返納に期待するよりも、運転能力テストで一定点数に満たない高齢者は免許を失効させる法制度が必要」(70代男性)

「今まで免許証を身分証明のために使用していたが、マイナンバーカードの存在もあり更新しない判断の一因となった」(70代男性)

「公共交通機関が利用できない区域ではタクシー代が負担になる。地方都市では返納のデメリットが多く、返納が早すぎたと後悔しきり」(70代男性)

【返納していない(返納予定なし)人の意見】

「個人差が大きい運転能力について、年齢でひとくくりにするのには反対」(70代男性)

「運転しなくなると、逆に認知機能が低下する」(70代男性)

「高齢者の免許証更新の実技が甘すぎる」(70代男性)

「過信なく自らの現在の状況を認識していれば、ある程度の高齢になっても運転可能だと思う」(70代男性)

「若い人も事故を起こしている事を忘れてはならない。車の安全装置で安全を確保する事が大切」(70代男性)

「近い将来、自動運転の車が普及した場合に備えて持っておこうと思う」(70代男性)

●交通問題に詳しい平岡将人弁護士のコメント

75歳以上の高齢者運転による死亡事故件数は、割合的に75歳未満の2倍以上の発生件数であり、原因もハンドルやブレーキの操作ミスの割合は75歳未満のおよそ2.7倍となっています(2023年度)。警察は、高齢者の免許の更新の際に認知機能検査等を行うことに加え、75歳以上の免許保有者に一定の違反行為があった場合に、臨時認知機能検査等を受けさせるなどの対策をしています。

現在は、免許の自主返納については、移動の代替手段がない場合に生活の質を下げることになり、返納を強く勧めるのも難しいところです。そのなかで、今回のアンケートで運転能力に衰えを感じて自主返納したとの回答が多いことに驚き、素直に尊敬しました。

高齢ドライバーが事故を起こしてしまうと、被害者の苦痛は言うまでもありませんが、加害者となった高齢者も、人生の最後の大切な時間に重荷を負ってしまうことになります。

日々、安全運転を心がけてほしいと思います。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

平岡 将人
平岡 将人(ひらおか まさと)弁護士 弁護士法人サリュ銀座事務所
中央大学法学部卒。全国で10事務所を展開する弁護士法人サリュの前代表弁護士。主な取り扱い分野は交通事故損害賠償請求事件、保険金請求事件など。著書に「交通事故案件対応のベストプラクティス」ほか。実務家向けDVDとして「後遺障害等級14級9号マスター講座」「後遺障害等級12級13号マスター講座」など。

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