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事故の女性ドライバー、無罪だったのに警察側が免許返さず…初公判で「過ち正して」と訴え
刑事裁判で無罪となり、免許の見直しを求めている女性(2020年9月、Zoom取材のキャプチャ)

事故の女性ドライバー、無罪だったのに警察側が免許返さず…初公判で「過ち正して」と訴え

福岡県内で発生した交通事故の刑事裁判で無罪となった女性が、事故後に取り消された運転免許の見直しを求める訴訟の第1回口頭弁論が9月9日、福岡地裁であった。

女性側は、運転免許取消処分の無効確認を求めるとともに、自身の意見陳述書を提出。女性の代理人弁護士によると、被告側は出廷せず、請求棄却を求める答弁書を提出したという。

女性は、交通事故で相手に重傷を負わせたとして起訴されたものの、刑事裁判で無罪が確定。その後、免許(ゴールド)を事故前の状態に戻すよう要請したが認められなかったため、2020年7月に福岡県を相手に行政訴訟を起こした。

この裁判をめぐっては、弁護団や支援者によって、ネットで裁判費用を募る「クラウドファンディング」が行われており、第一目標金額を早々に達成するなど注目を集めている(https://readyfor.jp/projects/innocent-menkyo2020)。

事故当時、軽トラックのドライバーとして働いていた女性は、「無罪になったのに、免許が戻らないというのは悔しいです。この裁判を通じて、多くの人にこの問題を知ってもらいたいです」と話した。

●刑事裁判で下された判決は「無罪」

事故は2017年2月、片側2車線の道路の右車線で発生した。警察は、前方を走行している原付バイクに、女性の運転する軽トラックが追突したという事故態様と判断した。

それを受け、福岡県公安委員会は2017年12月、女性の過失による事故であることを前提に、免許の取消処分を行った。

女性は捜査段階では、「ぶつかったバイクは左車線路肩にいて、直前に車線をまたいで飛び出してきた」と主張していたが、警察には見間違えと言われたという。

「自分の意見はまるで聞いてもらえませんでした。言葉につまると、『このままだと逮捕だよ』と言われ、正しいと思っていることを言える状況ではありませんでした」

その後、女性は2018年5月に在宅のまま起訴されたが、刑事裁判では、自らの過失でないとして無罪を主張。福岡地裁は2020年5月に無罪判決を言い渡し、そのまま確定した。判決は、警察の見立てた事故態様を否定し、女性に過失は認められないとしている。

女性の代理人である吉田俊介弁護士は、「虚偽の自白をとり、真実でない事故態様の証拠を揃えるなど、警察のストーリーありきの捜査という印象です。しかし、よく調べると、各証拠で辻褄が合わない部分が出てくるなどしており、ずさんな捜査と言わざるを得ません」と警察の対応を批判する。

●無罪確定でも戻ってこない免許、立ちはだかる「制度上の建前」

女性は、無罪確定後すぐに、免許を取り戻そうと、福岡県公安委員会に対して書面を送付した。しかし、同委員会は、「無罪判決確定は承知しているが、免許の取消処分は見直さない」と回答したという。

「取消処分の原因となった事故態様が無罪判決で否定されたのに、免許が戻ってこないことに驚くとともに、一体どんな理屈でそんなことになるのだと思いました」(女性)

免許取り消しなどの行政処分は、裁判による懲役刑や罰金などの刑事処分とは異なる手続きや判断で行われているため、制度上の建前としては、「たとえ無罪となっても直ちに免許の取り消しが見直されるわけではない」ということになっている。

この「制度上の建前」が壁となり、女性は行政訴訟の提起を余儀なくされているわけだ。

しかし、吉田弁護士は、「行政処分と刑事処分が別物だとしても、どちらも一つの事実に基づいて行われるものです」と指摘した上で、次のように話す。

「刑事裁判で認定された『警察が主張する事故態様は認められず、女性に過失はない』ということが、本件におけるただ一つの事実です。免許を取り消す根拠となる事実がない状態なのです。処分の原因となる事実が一つなのであれば、常識的に考えて、どちらの処分の結果も一致させるべきでしょう。

『無罪になったのに、行政処分が取り消されないまま』というケースは、おそらくこれまでも全国であったと思います。しかし、その結論はおかしいのだと、裁判所には常識的に判断してほしいと願います」

●「同じような目に遭う人をこれ以上増やしたくない」

女性は、2人の子を持つシングルマザーで、事故に遭うまではドライバーとして家計を支えていた。事故で職を失ったものの、ドライバーとしてのキャリアはまだ諦めていないという。

「ドライバーの仕事がとても好きで、自分に合っていると今でも思っています。免許を取り戻したあかつきには、チャンスがあればもう一度やりたいです」

被告側は請求棄却を求める答弁書を提出し、女性の請求に対して争う姿勢だ。女性は「この訴訟を戦い抜きたい」と今後の決意を語る。

「私と同じような目に遭う人をこれ以上増やしたくありません。自分の体験や現状を一人でも多くの人に知ってもらうために、またこれをきっかけに今の制度が良い方向に変わることを願って、前に進んでいきたいと思います」

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