昨年12月に東京地裁で判決が下された、元税理士による「猫虐待事件」以降、動物愛護法の改正をもとめる声が強まっている。動物を虐待したり、遺棄したりする人に対する罰則を強化することを訴えるネット署名活動がおこなわれ、現在まで5万7000筆以上もあつまっている。
前東京都議の塩村文夏さんは「ペット業者の規制を強めるべき」と訴えている。業者規制をしない限り、数字上「殺処分ゼロ」になっても、行政による監視の届かない「闇」での処分がおこなわれてしまうからだという。
塩村さんは、猫2匹を飼う愛猫家。里親になったことがきっかけで、殺処分をなくそうという活動をはじめた。本当の意味で「殺処分ゼロ」を実現するためにはどうすればいいのか、塩村さんに聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・山下真史)
●里親になったことがきっかけで活動をはじめた
――塩村さんにとって、動物はどういう存在なのか?
私は2匹の猫を飼っています。名前は、たまこ(♀)とちみ太(♂)。犬や猫といいますが、私の大事な家族です。本当の家族よりも過ごす時間が長い。この子たちが人間の言葉を理解できなくても、私には、何を言いたいのかわかるくらい、一緒に過ごしています。
――どういうきっかけで飼うことになったのか?
20代後半の引っ越しです。そのとき、引越し先のマンションは「ペット可」の物件。しかも、たまたま、その近くの商店街に里親会の張り紙がしてあり、かわいい黒猫の写真だったので、すぐに引き取ろうと連絡しました。
ただ、審査は厳しい。里親会の人が何度も家に来て、チェックがありました。独身なので、「結婚してもちゃんと最後まで飼育をしてくれますか?」と聞かれるなど。その後、晴れて里親になりました。そのときにうちに来たのがたまこです。きまぐれな女の子ですが、とってもかわいいんです。
――現在の活動にどうつながるのか?
里親となったことがきっかけで、この子たちのような犬・猫が、年間数十万頭も殺処分されていることを知り、許せなかった。だから、私も「預かりボランティア」となり、その後、「預かりボランティア」の団体で活動して、多くの子を里親さんのもとへ送り出してきました。
ちみ太については、もともと里親さん探しをしていましたが、感染症(虫)にかかってうちに来て、たまこにも移してしまい、入れ替わりで入院しました。そのうち、私のことを母親だと思いはじめているような感じだったので、そのまま引き取ることにしました。
動物は一匹一匹、それぞれキャラクターが違って、愛らしい。感情もしっかりある。殺処分なんてされていいはずがありません。ある日、預かった子がパルボウイルスに感染して、亡くなってしまいました。感染力が強く、パルボが出たら1年は子猫をあずかれない決まり。そのあと、殺処分をなくそうという啓発活動をはじめました。
●現行の動物愛護法には「抜け穴」がある
――動物をめぐる一番の問題は何か?
かわいい動物を「使い捨て商品」として見ているペット業界が一番の問題です。「かわいい家族を迎えませんか?」という謳い文句で、犬や猫を売っていながら、「動物福祉」を推進しようとする前回・今回の法改正で抵抗しています。
「お金儲けの商品」として考えているから、日本の動物愛護や福祉はすすみません。販売している業界の実態がこうですから、そうではない犬猫の福祉の向上も含めて前にすすみにくい状態です。
――犬や猫が闇で処分されている実態とは?
前回の法改正(2012年9月公布・2013年9月施行)で、「動物愛護」についてはかなり前進しました。たとえば、(1)業者の連れてきた犬猫を役所では引き取らない、(2)終生飼養をする――です。しかし、議員立法となり、「動物福祉」を一番にしない主張があり、抜け穴ができてしまいました。
販売の規制があまりにも緩すぎたため、変わらず売れ筋商品として幼齢の犬猫がガラスケースに入れられて販売をされています。目に見えて変わった印象はありません。また、終生飼養をすることを守ろうとすると、売れ残りは繁殖に回されたりします。たとえば、犬の場合、繁殖犬として使える期間は、5年ほどです。その後の犬猫は「どこに行っているのか」「どんな環境で飼育をされているのか」など、まったくわかりません。考えただけでも恐ろしいことです。
その一例が、2015年に栃木県であった大量遺棄事件です。繁殖の役目を終えた犬たちが、どこかへ運ばれる途中で死んでしまい、遺棄された事件です。よかれ思ってした法改正が、抜け穴を作ってしまった。そのために、こんな新たなビジネスを生み出した。そして、多くの命を闇に送ってしまったのです。
これまでも闇処分はあったかもしれませんが、明らかに法改正後に「終生飼養」に困った業者がこうしたビジネスに頼っています。
●「ビジネスモデル」を変えない限り「殺処分ゼロ」にならない
――人間と動物との共生のためには何が必要か?
先ほど述べた状況を変えるためには、まず「業界の体質」にメスをいれる必要があります。「飼養施設基準」+「8週齢規制」のセットがないと、ペットショップのガラスケースに子犬や子猫が並べて販売されている異常な状態が変わりません。つまり、「大量生産・大量販売・大量処分」のビジネスモデルを変えない限り、真の「殺処分ゼロ」にはなりません。
(編集部注)現行は「7週齢規制」。つまり、生まれて7週間経たないと、親元から子犬、子猫を引き離してはならない、というもの。動物福祉先進国では8週齢が導入されている。昨今では8週齢を超える生後60日以降(犬)、13週齢以降が望ましいとされる研究結果も出ている(イタリアミラノ大2011、フィンランドヘルシンキ大学2017)。
――罰則を強化すべきという意見についてはどう考えるか?
前回の改正で、かなり厳しくなっています。しかし、しっかりと適用されていないことが問題なのです。まずは、運用を厳しくすること。これは当然のことです。世論に後押しされて、行政側も少しずつ運用を強めてきています。そのうえで、さらなる厳罰化には賛同します。
また、日本には、虐待時やネグレクト時に助けようと思っても、その権利が一切なく、仕組みもありません。こうした措置を取れるようにすることが大事でしょう。たとえば、(a)行政による緊急一時保護ができるようにする、(b)問題ある飼い主(殺傷・虐待・不適切飼養・遺棄)が二度と飼養できないようにする、(c)虐待の定義を定めて、虐待の判断をしやすくする――です。