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「差別すれば儲かる」ネット時代の排外主義、川口で激化するクルド人ヘイト 安田浩一さんが警鐘
安田浩一さん(撮影:塚田恭子)

「差別すれば儲かる」ネット時代の排外主義、川口で激化するクルド人ヘイト 安田浩一さんが警鐘

「技能実習生を取材して見えてきたのは、外国人労働者の日本における立ち位置、彼らを利用しようとする日本社会の構造です。よく『安田さんはずっと外国人問題を取材していますね』といわれますけど、僕は一貫して、外国人を取り巻く日本社会の状況や問題を取材しているんです」

そう話すのは、ノンフィクションライターの安田浩一さんだ。

2000年代から、外国人に向けられる日本社会の視線や価値観に重きを置いて取材を続けてきた安田さんは、技能実習生や日系人の問題からヘイトスピーチまで、すべては地続きだという。その流れの中で、2023年以降、埼玉県南部で顕在化している差別に基づく排外主義を安田さんはどう見ているのか。(取材・文/塚田恭子)

●10年前から川口周辺に取材に訪れていた

著書『団地と移民』の取材で、10年ほど前から川口周辺に足を運んでいたという安田さん。

「団地の住人の多くは中国人でしたが、川口はそれ以外の外国人も多く、興味深い町だと感じていました。

ただ、当時はクルドの人たちを意識することはほとんどありませんでした。そもそも川口市の在留中国人が2万人強いるのに対して、クルド人は約2000人。

集住地域を除けば、顔を見ただけでクルド人だとわかる人はほぼいませんし、少し前までは、クルド人について具体的に語ることのできる人は少なかったと思います」

●「トルコでは銃口が怖かったけれど、ここではスマホが怖い」

だが、改正入管法が国会で可決された2023年6月以降、状況は一変する。それまで別の地域で街宣活動をしていたレイシストが川口周辺でデモを始め、ネット上ではクルド人に対するヘイトスピーチが激化した。

昨年5月に法務省が公表した「ゼロプラン」や、排外主義的な言説を繰り返す政党が議席を伸ばした参院選以降、彼らに向けられる言動は、ヘイトスピーチの域を超え、ヘイトクライムと呼ぶべきものに変わりつつある。

「僕が取材したクルド人は『トルコでは銃口が怖かったけれど、ここではスマホが怖い』と話していました。職場でも、家族で歩いているときでも、突然カメラを向けられ、子どもの顔まで撮影されて晒されるのだから、恐怖でしかないでしょう」

●「差別すれば儲かる構造を断ち切るべき」

差別や偏見に基づいてねつ造されたショート動画が拡散され、それを見た人が、川口に足を運んだこともないのに『実際に起きている出来事』だと思い込んでしまう。そんな状況は今も続いている。

「腹立たしいのは、ネット上でヘイトがビジネスとしてマネタイズされていることです。事実かどうかに関係なく、人は刺激的な投稿に引き寄せられる。プラットフォーマーが発信者に厳格な本人確認を求めないのは、金儲けのためには差別する自由も許容すべきだ、という本音があるからでしょう。

今、クルド人に対するヘイトは、写真や動画だけでなく、書き込みも相当ひどい。これを止めるには、差別すればするほど儲かるという事業回路を断ち切る必要があります。そのためには、差別を規制・抑制する法整備が不可欠ではないかと、個人的には考えています」

●選挙を通じて「ヘイトを容認する空気」が醸成されている

そもそもヘイトは、社会の底から自然に湧き上がるものではなく、政府や政治家、行政の姿勢によって生み出される面が大きいと、安田さんは指摘する。

「今年の参院選では、外国人政策を前面に掲げて訴える候補者が相次ぎました。選挙戦が危険なのは、候補者が公然とヘイトスピーチする状況が生まれやすい点にあります。

たとえそうした候補者に投票しなくても、街頭で繰り返されるヘイトスピーチは、人々の無意識に浸透していきます。恐ろしいのは、そうしてヘイトを容認する空気が、日本社会全体に醸成されていくことです」

●「集団ヒステリーによって虐殺が起きかねない」

差別と偏見の先には何があるか。1923年の関東大震災後、デマによって多くの朝鮮人、中国人、そして日本人とみなされなかった日本人が虐殺された史実を著書『地震と虐殺 1923-2024』で丹念に記録した安田さんは、こう警鐘を鳴らす。

「差別と偏見の先にあるのは殺戮です。川口周辺で自警団的な動きが見られるなど、今の日本社会では、差別が当然のように、時にカジュアルにおこなわれています。明日明後日でなくても、非常事態が起きれば、集団ヒステリーによって虐殺が起きかねない環境は、すでに生まれつつあると感じています」

ネットが主要な情報源となる中、デマに扇動される人も少なくない。

「本当に怖いのは、ワッペンをつけた、わかりやすいレイシストだけではありません。一見、善良そうでどこにでもいそうな若者たちが、レイシストのデモ隊に同調して『クルド人、邪魔だからね』と平然と口にするような状況があることです。

僕が取材した当事者は『普通に見える人たちがそう話すのを聞いたとき、ヘイトを叫ばれるよりもショックでした。電車内、学校、お店の中……こういう人たちがどこにでもいると思うと、社会が怖くなりました」と話していました』」

●デモ隊に同調する「自覚なき差別者」が増えている

2000年代以降の外国人差別の特徴を、安田さんは「下から見上げる差別」と表現する。

「植民地支配以降、日本人の多くは、たとえば朝鮮半島出身者を見下すように差別してきた部分がありました。2000年代以降に変わったのは、『外国人に特権がある』と主張する在特会(*1)のような団体が現れたことです。

こうした人たちは、外国人は優越的な権利を持っている、日本人以上に優遇されている、差別されているのは日本人だと主張しました。まったく筋違い、完全なデマですが、それが一定の支持を集めてしまった。

今、日本社会の少なくない人たちが、こうした発想で外国人に差別と偏見のまなざしを向けている。ただ、ネット上でばらまかれるデマに市民が振り回され、社会に大きな影響を与えている以上、ワッペンをつけたレイシストの存在も、やはり無視できません」

●「海外にルーツを持つ人と共に生きている」

デモ隊に同調して「邪魔だからね」と口にする人たちには、自分が差別をしているという自覚がない場合が多い。社会的に一定の評価を得ている人もいる。だからこそ、そうした発言は差別なのだと伝え続けなければならないと、安田さんは語る。

「差別や偏見は、抜いても抜いても生えてくる根の強い雑草のようなものです。一度植え付けられると、そこから抜け出すのは本当に難しい。

それでも現実には、私たちは海外にルーツを持つ人と共に生きていて、今や外国人の存在が社会に不可欠であるという事実は消えません。

異なる文化の出合いは、必ず新しい何かを生み出します。おいしい食べ物、新しい音楽や芸術──そこに喜びや幸せを感じる人がいる。そのことこそが、社会の希望だと僕は思います」

*1在特会/在日特権を許さない市民の会。在日に特権があると主張し、反日の排除を掲げて活動していた。

やすだこういち/ノンフィクションライター、1964年静岡県生まれ。週刊誌記者を経て2001年からフリーで活動。主に非正規雇用、外国人、ヘイトスピーチ、ネット右翼などをテーマに取材・執筆。『ヘイトスピーチ 「愛国者」たちの憎悪と暴力』『ネットと愛国』『団地と移民』『地震と虐殺 1923-2024』など著書多数。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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