法廷に立ち会い、リアルタイムで供述を速記する「速記官」のOBなどで作る「速記官制度を守る会」と埼玉弁護士会が2月27日、現在停止している速記官の養成再開などを求め最高裁判所に要請書を提出した。
「守る会」の副会長を務める奥田正さんは「速記官の作る速記録を基本にして、裁判が公正、客観的な記録に基づき、適正な判決がされるものになってほしい」と話す。
●人材確保の困難を理由に養成停止、現在はピーク時の7分の1に
速記官による速記録は専用のタイプライターを用いて作成。
実際に法廷に出席し、時には聞き返しながら作成する速記録には、供述だけでなく「首を振る」や「うなずく」などの身振り手振りも記録されるため、臨場感や迫真性に優れ、応答のニュアンスも伝わりやすいとされている。
要請活動に参加した埼玉弁護士会の大塚信雄会長は昨年10月に無罪判決が出された袴田巌さんの再審公判において、検察官と弁護人の双方から速記官を出席させる要請があったことを例に「シビアで重大な裁判であるほど速記官の力が必要」と語った。
しかし、最高裁は人材確保や機器の製造継続の困難を理由に1997年2月、速記官の養成停止を決定。守る会が調べたところ、かつて最大で825人いた速記官も、2025年4月1日時点で、126人程度になる見込みだという。
加えて、最高裁にも速記官は配置されておらず、全国50の裁判所本庁のうち、速記官がいない本庁は22にのぼる。
要請書では、速記官の新規養成停止は将来的に速記官がいなくなることを意味し、各裁判所に裁判所速記官を置くと定められた裁判所法(60条の2第1項)に反するとし、養成再開を求めた。
●現在主流の録音データによる調書、正確性などに疑問の声も
速記官の新規養成が停止されて以降、主流となったのが「録音反訳方式」。民間業者が録音データを文字起こししたものを、裁判所書記官が校正して調書にするものだ。
奥田さんは「録音データが紛失したり、録音そのものができなかったりといった事案も報告されている」と話す。要請書では民間業者が供述の録音データを扱うことによるプライバシーの問題、書記官の校正事務の負担なども強調した。
弁護士ドットコムが弁護士を対象に2023年に行ったアンケート調査(有効回答数:120)では、裁判所が作成した調書について、約8割が「不正確な点があると感じた経験がある」と回答。中には「爆弾を投げたり」が「バナナを投げたり」になっていたこともあったという。
●オンライン尋問においても速記録の強みは生かされる
さらに要請書には「供述そのものを文字化する速記録は、正確性・客観性の点で訴訟関係者から高い評価を受けている」と主張。
2022年の民事訴訟法改正により、可能になったオンラインによる証人尋問では、より一層、正確性が求められるとして、供述記録を速記録にすることなどを盛り込んだ。
奥田さんは「オンライン尋問においても、プライバシーや紛失と言った問題点は払拭されない。速記官がリアルタイムに文字表示できることで法廷での円滑な質疑のやりとりや真実を明らかにしていくという作業に寄与できる」と述べた。
また、「守る会」と埼玉弁護士会は要請書提出後、最高検察庁に対して、速記官の養成再開の意見表明をするように求めた。