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ディズニー「ジャングルクルーズ」でiPhone落とした女性「自力で探させて」 →運営「お断りしています」法的根拠を解説
ジャングルクルーズ(東京ディズニーリゾートの公式サイトから)

ディズニー「ジャングルクルーズ」でiPhone落とした女性「自力で探させて」 →運営「お断りしています」法的根拠を解説

ディズニーランドで遊んでいた女性が、買ったばかりのiPhoneを水に落として失くす出来事があった。スタッフに捜索してもらったが見つからなかったので、「自分で探したい」と願い出たものの丁重にお断りされたという。

「12万円も支払った私の財産であるスマホを探せないのは理由があるのか」。法的な根拠について弁護士が解説するとともに、施設を運営するオリエンタルランドが、弁護士ドットコムニュースの取材に回答した。

●ジャングルクルーズで水没したスマホ

買ったばかりのiPhoneを失くしたのは、50代の女性。弁護士ドットコムニュースのLINEを通じて取材依頼があった。

女性によると、今年の9月中旬、ディズニーランドの「ジャングルクルーズ」で下船する際に不注意からiPhoneを水の中に落としてしまったという。

様子を見ていたスタッフが網で探してくれたが、水中から見つかることはなかったそうだ。

iPhoneは購入から3カ月足らずで、12万円の支払いが残るため諦めきれず、「開園前かアトラクションの点検日の捜索許可」を求めたが、丁重に断られたという。

このような要望に応じてしまえば、施設の運営に大きな影響を及ぼすことは間違いないだろう。

ランド側の事情を女性も理解しており、「捜索できたとしても2カ月も水没したスマホが復活するとも思えず、ある程度諦めはつきました」と話す。

詳細は後述するが、ディズニーは取材に「お客様の手荷物は、お客様自身での管理をいただいております。こちらはテーマパーク利用約款の他、各施設のキャストからもお願いをしております」と答えている。

施設で失くした自分の「モノ」を探す権利は、法的にどう捉えられるのか。そのような疑問について、甲本晃啓弁護士に聞いた。

●落とし物を探すだけの目的での無断立入は違法

ーー高価なスマホを施設でなくした場合、自らの責任で営業時間外に捜索することは許されないのでしょうか

他人の土地や建物、施設に立ち入るには、基本的にはその所有者や管理者の承諾が必要です。

とはいえ、そういった承諾が現実的に得られるかといえば、非常に難しいと思います。まず、水中の捜索をすることは死傷事故の危険があり、いったん事故が発生すれば当然アトラクションの営業に支障をきたします。

また、そのような安全面の問題がない場所であっても、営業時間外はそのアトラクションに限らず様々な場所で設備をメンテナンスしていることも多く、部外者が立ち入ることでそういった作業に支障をきたすおそれがあります。いくら「自力でやる」といっても、それを見守るための対応や警備のための人件費もかかります。

そういった具体的な事情を考慮すると、施設側の負担が大きく、協力自体が困難だと想像できると思います。

所有者や管理者には、立ち入りを承諾する義務はありませんし、断るのに理由は不要です。もし勝手に立ち入った場合は違法となります。

営業時間外にもしも無断で侵入したり、営業中であっても来場者が通常立ち入れる場所以外に立ち入ったりすれば、刑事上の責任として、建造物侵入罪(刑法130条前段)に問われます。

また、勝手に部外者が立ち入ったということであれば安全確認のためにアトラクションを停止して点検が必要になる場合もあるでしょう。そのような場合には、業務妨害罪(同233条・234条)にも問われます。また、民事上の損害賠償責任も生じると思われます。

ただし、火災や事故で人を救助するなど、やむなく緊急で立ち入ったケースであれば、人命という重大な法益保護との均衡で、違法性がないと判断される場合があります。

しかし、単に落とし物を探す目的での無断の立ち入りは違法です。

●列車の緊急停止ボタン押せるのは「人命の危機」

この事例を聞いたときに、似た問題として、駅で線路内にスマホを落として列車の緊急停止ボタンを押したという事案が一昨年にあったことを思い出しました(*)。

列車の緊急停止ボタンは「人命の危機」や「列車の運行への支障」が予想されるときに押すことが許されます。

スマホは高額で大切なものだと思います。何とかして取り戻したいという気持ちは共感できる部分がありますが、それに伴う施設側の負担を想像する必要があるように思います。

今回のケースに限らず、紛失・盗難については補償サービスへの加入によって、出来る備えをしておくのがベストだと思います。

たとえば現行のiPhoneの場合、月額740円〜1740円で「AppleCare+盗難・紛失プラン」が提供されています。

(*)「山手線止めてんだぞ」トラブル、発端の「非常停止ボタン」正しい使い方は? JR東・西に聞く

●オリエンタルランドの回答は

以上が甲本弁護士の解説となる。続いて、編集部は施設を運営するオリエンタルランドに対して、今回の相談内容とともに、「ディズニーの施設内でなくした物を営業時間外などに自力で探させてほしい」という客の要望に応じられない理由を尋ねた。

同社は次のように回答した。

「お客様の安全を守るため、ご自身での遺失物の捜索はお断りしております。遺失物に関する受付窓口(遺失物登録フォーム)を以下の通りご用意しております。こちらにご入力いただければ、当社にて遺失物の捜索を行っており、実際に回収に至ったケースもございます」

【遺失物の受付】

また、東京ディズニーリゾートでは、テーマパーク利用約款で運営会社の責任と免責について規定している。約款の12条は「お客様の不注意による事故やお客様同士のトラブルについて、当社、当社関連会社およびディズニーは法令に基づき賠償義務が発生する場合を除き、責任を負いかねます。貴重品や手荷物は、お客様の責任で管理をお願いします」としている。

同社は「お客様の手荷物は、お客様自身での管理をいただいております。こちらはテーマパーク利用約款の他、各施設のキャストからもお願いをしております」とした。最後に「ご自身のご貴重品やお手荷物の管理にお気をつけて、パークをお楽しみください」とのメッセージを寄せた。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

甲本 晃啓
甲本 晃啓(こうもと あきひろ)弁護士 甲本・佐藤法律会計事務所
理系出身の弁護士・弁理士。東京大学大学院修了。丸の内に本部をおく「甲本・佐藤法律会計事務所」「伊藤・甲本国際商標特許事務所」の共同代表。専門は知的財産法で、著作権と特許・商標に明るい。鉄道に造詣が深く、関東の駅百選に選ばれた「根府川」駅近くに特許事務所の小田原オフィスを開設した。

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