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「つきまとわれて怖かった」視覚障害者の女性たちが困惑する“親切心” 「配慮のしかたにもマナーがある」
画像はイメージです(ソライロ / PIXTA)

「つきまとわれて怖かった」視覚障害者の女性たちが困惑する“親切心” 「配慮のしかたにもマナーがある」

「白杖はものに当てて、存在の有無を確認しています。このことを広く知ってほしい」。ある視覚障害当事者はそう話します。

先日、都内の駅ホームで、視覚障害者の男性が暴行を受ける事件が起きました。多目的トイレで利用を待っていた男性が白杖(はくじょう)でドアを叩いたことに腹を立て、足で蹴ったと供述したと報じられています。背景に、白杖の使われ方が社会に知られていないことがあるとして、この事件は視覚障害当事者に深刻に受け止められているのです。

筆者はライターとして活動する他、視覚障害者による文字起こしやコンサルティングを行う会社を運営しています。日頃から視覚障害者たちの困りごとを聞き、驚かされることも多いです。白杖の使い方、白杖をもっているが故に巻き込まれてしまうこと。彼らがどんなことに困っているのか、話を聞きました。(「ブラインドライターズ」代表・ライター/和久井香菜子)

●「歩きスマホの人とぶつかった」が多数

視覚障害者が視力の代わりに情報収集を行う手段のひとつが、白杖です。

足元をポンポンと叩いたり、滑らせたりして地面の状況を把握します。段差があるな、凸凹しているな、点字ブロック(点ブロと略したりします)はここだな、といったたくさんのことが分かるのです。

しかし白杖について知られていないためか、晴眼者(視覚に障害がない人のこと)と、次のようなトラブルがあるといいます。

「前から来た歩きスマホの人とぶつかった。スピードを落とさずに突進されるのでけっこう痛い」(30代男性、ほか複数)

「バスの中で、高齢男性の靴かなにかに白杖が当たったのだが、『杖でつつくとはなにを考えてるんだ!』と怒鳴られた」(20代女性)

「ビジネス街を歩いてるとき、カツカツと白杖を叩く音と反響で周辺情報を得ていたら、音がうるさいと怒られた」(40代女性)

白杖が人に当たらないように気を付けているが、それでも当たってしまい「どこ見てんだ!」と言われることもあるようです。

体当たりを防ぐために白杖で探っていますし、白杖の音は、「人が来ます」という合図でもあります。何より、晴眼者こそスマホではなく前を見て歩くべきでしょう。

見ようとしても難しい人が世の中にいることも知っておきたいものです。

●どのようなことに困っている?

白杖についての困りごとを聞いてみると、親切心からもたらされる行為であっても、当事者にとっては「怖い」と感じることがあることもわかりました。

「アテンドの際に白杖を掴む方がいる」(40代女性)

「白杖の先を掴まれ、つながれた犬みたいに引っ張られたことがあるが、すごく怖かった」(20代男性)

視覚障害者にとって白杖は体の一部ですから、勝手に触ってはいけません。

晴眼者に置き換えると、前を見ながら歩いていたのに、とつぜん顔を背けられて歩かされるようなものです。

「縁石に白杖が当たることで居場所を確認する」という人もいます。縁石や壁に突進していく姿を見ると、思わず腕を引っ張りたくなりますが、現状把握の方法も晴眼者とは異なることも知っておきたいものです。

●視覚障害者への配慮のしかたにもマナーがある

では、もし街で立ち往生していたり、困っている視覚障害者がいたら、どうしたらよいのでしょうか。横断歩道や駅構内は分かりづらく困ることが多いといいます。そのような場面をみたら、「お手伝いしましょうか?」とまずは尋ねてみてください。

もし手助けが必要な場合は、「●●を探しています」など、困りごとを教えてくれるはずです。その内容が難しければ、なにができるのかを相談しましょう。「完璧に」何かをする必要はありません。

アテンドするときは、自分の片方の腕や肩を軽く触ってもらい、自分が前を歩きます。これだけでも、段があれば掴んでいる腕の高さが変わるので、段があることが分かります。その上で「横断歩道を渡ります」「上りの階段です」などと周囲の状況を伝えます。その際、むやみに体や白杖、カバンなどを引っ張ってはいけません。

困っていなければお断りされますが、スタッフのひとりは「せっかくの好意なのでお断りするのは心苦しいこともある。もしまた困っていそうな視覚障害者を見かけたら声をかけてほしい」と言います。

断られても「そうなんですね、よかったです」と気持ちよく済ませましょう。視覚障害者への配慮のしかたにもマナーがあることを知って欲しいものです。

●「家までついてこられた」女性からは不安の声

しかし、中には断られても、執拗に接触を続ける人がいるといいます。

「家までついてこられたり、待ち伏せされたりした」(20代女性)

「『大丈夫』と言っているのに後をつけられた」(50代女性)

「しつこく勧誘された」(30代女性)

など、たくさんの意見が寄せられました。「つきまとわれて怖かった」という意見は女性に非常に多いです。

SNSでは「障害者は守られるべきもの」という意見がありましたが、筆者はそうは思いません。視覚障害者は、見ることが不得手なだけで、ひとりの人間です。世の中は「見えること・動けること」が前提で作られているので、彼らにとっては不便なことが多い。

もちろん、一部の人だけが便利な社会は変えていかなければいけません。晴眼者が配慮することはもちろん必要ですが「何もできない人」「可哀相な人」ではないのです。

●「白杖を使っている人=全盲」ではない

意外と知られていないのが「白杖を使っている人=全盲」ではないことです。

マンガが原作のドラマ『ヤンキーくんと白杖ガール』で、だいぶ「弱視(ロービジョン)」という状態があることが知られましたが、人の見え方は人それぞれです。視力が2.0あって細かい文字までよく読めるけれども視野が狭かったり、視野は広いけれど全体的にぼやけていたりする人もいます。

筆者も、とあるロービジョンのスタッフの見え方には、毎回驚かされます。目の前に立って声をかけても気づいてもらえないのに「今日は派手な柄の服を着てますね」と言われることがあるからです。中心視野が失われているので、正面にいると見えないものの、脇に寄ると見えるのだそうです。

視覚障害者と行動していると、彼らの日常を垣間見ることができます。

スタッフと一緒にいると、周囲の人からミーアキャットみたいに伸び上がって注視されることがあるのです。筆者が見えていることはもちろん、みんなだいたい気づいています。「見えないから何をしても気づかれない」というのは恥ずかしい誤解です。

筆者が人混みでスタッフをアテンドしているときは、海を割って歩いたモーセの気分になります。前から来た人たちが白杖に気づき「ハッ!」となって左右に避けてくれるのです。 「白杖で人を転ばせてしまいそうで人混みは怖い」という人は多いので、避けてもらえるのはとても有難いことです。

●白杖以外にも知って欲しいこと

最後に、視覚障害者が視覚の代わりに利用しているものが白杖のほかにもいくつかあるのでご紹介します。

ひとつは盲導犬(補助犬)。立ち入りを断るところも多いようですが、盲導犬は、適性を見極められ、訓練を受けたパートナーです。清潔に保つように、身体障害者補助犬法で定められています。また同法により、飲食店など多くの人が集まる場所でも補助犬の同伴を断ってはいけません

最近は、支援技術も充実してきました。視覚障害者はスマホを画面の文字を音読させる「ボイスオーバー」という特別な機能を使います。視覚をサポートするアプリも多数あり、スマホやPCは視覚障害者にとって情報収集をするための重要なツールです。

また、点字ブロックは、視覚障害者が安全に外を歩くための大事な道しるべです。これをまたいで駐輪・駐車されていて困ったという声もよく聞きます。

筆者は、待ち合わせをしていたスタッフが駅前の点字ブロックの上で立ち話をしている女性たちに、突撃していくのを見かけたことがあります。設備が有効に使われるかは、私たちの配慮にかかっています。

自分たちの常識だけが、社会の常識ではありません。多様な人たちの事情を知って、多くの人が生きやすい社会になってほしいと願います。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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