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乗車拒否は当たり前、つきまといや痴漢もいるんです 車いすギャルが訴える「心のバリア」
さしみちゃん(本人インスタグラムより)

乗車拒否は当たり前、つきまといや痴漢もいるんです 車いすギャルが訴える「心のバリア」

公共施設や交通機関などを中心に「物理的な」バリアフリー化は確実に進んでいるが、障害がある人たちにとっては、「心の」バリアフリー化はまだまだなのかもしれない。

国土交通省のアンケート(2020年)によると、「あなたが優先エレベーターに乗っている際、障害者、高齢者、妊産婦等の優先エレベーターを必要とする方が途中で乗ろうとしたら、目的とする階以外で降りるなど、スペースを譲りますか」という設問で、全体の約82%以上が「よく譲る」「ときどき譲る」と回答した。

しかし、「車いすギャル」としてSNSや動画配信などで車いす利用者の現状を訴えているさしみちゃんは「すぐに乗れなくて待たされることが多い」と話し、実態はアンケート結果と必ずしも一致しないという。

公共交通機関を利用する際も「バスやタクシーの乗車拒否は当たり前」というさしみちゃんに、車いすユーザーの現状を聞いた。(ライター・篁 五郎)

●駅に着いても乗るまで「20~30分待つことも」

グラフィックデザイナーとして活動するさしみちゃんは、生まれたときから脊髄の病気による下半身不随のため普段から車いすで生活をしている。

「タクシーはアプリで呼ばないと乗れませんし、バス停に立っていてもバスの運転手と目が合ったのに素通りされることもよくあります」

過去には鉄道駅に入ってから実際に乗るまで20~30分待たされる、急ぐときは駅員にサポートを頼まず自分だけで乗る、という経験も。

「エレベーターもすぐに乗れず待たされることが多いです。待っているときや乗ろうとする際の様子を、記録用としてスマホで動画撮影することもあります」

●「障がいは可視化できる」

撮影した動画がSNSで炎上したこともある。

2023年3月、さしみちゃんが駅のエレベーターに乗ろうとした際、後ろから割り込まれた様子の動画(現在動画削除され、ぼかしを入れた動画を再アップ)をツイッターにアップ。様々な批判が寄せられた。

「乗ろうとしてるのかわからない」「急いでいる人もいる」「時間は平等なんだから待つくらいしろ」といった声だけでなく、「譲ってほしいなら低姿勢でいろ」「お前みたいな派手な見た目の人に譲りたくない」など見た目や態度に対する言いがかりまで投稿されてきた。

この炎上をきっかけに、交通弱者のエレベーター問題を改善しようと、国に対して、車いすマークや「障害者優先」などの表記を大きくするよう求めるオンライン署名の活動を始めた。

「障がいは可視化できると思うんです。第三者には障害者だとわからない場合でもヘルプマークがあれば伝えられます。工夫をすることでお互いに気分良く利用できればと思い、始めました」

●車いすの人が声がけをしない理由

さしみちゃんは、車いすユーザー自身がその場で声を上げることの難しさを口にする。

「車いすの女性だと『譲ってください』と言うと、後をつけられたり、嫌がらせをされたりするのであまり声がけはしません」

さしみちゃんも、エレベーター利用時に「乗せてください」と声をかけただけで男性に後をつけられたことがある。エレベーター内で身体を触られたり、卑猥な言葉をかけられたりしたほか、後をつけられて普段利用している駅を特定されてしまいストーカー行為に遭ったこともあるという。

車いすユーザーなどが鉄道駅で乗り降りしたことを知らせるアナウンスが悪用され、つきまといや痴漢などの被害に遭うおそれがあるとして障害者団体などが中止を要望。これを受けて、国土交通省は2021年7月、アナウンス以外の方法を検討するよう鉄道事業者に要請する事務連絡を出した。

アナウンスは駅係員と乗務員との情報共有のためのもので、本来責められるべきものではない。それを止める方向で、当事者自身が動かざるをえないのが現状なのだ。

●飲食店では心のバリアフリー化が進んでいる

厳しい現状の中でも、手を差し伸べてくれる人はいる。

さしみちゃんは外食時に必ず事前予約するが、店内に入るのを当たり前のように手助けする店舗もあるという。

「ここ2~3年くらいですが、特にやり取りもなく自然に椅子をテーブルからずらしてもらえるようになったんです。予約を断られるときも『店が狭くて車いすだと難しい』と理由を聞けるので、以前より嫌な思いをする機会は減りました」

エレベーターに関しても粋な計らいがあったそうだ。

「私の前を歩いている男性がエレベーター前でボタンを押してから立ち去ってくれたことがあります。直接話を聞いたのではないので私のためどうかはわかりませんけど、ありがたかったです」

スロープなしで電車に乗ろうとして、電車とホームの間に車いすの車輪が挟まり動けなくなったときも「大丈夫ですか」と声をかけて助けてくれた人もいた。

自身の活動を通じて、障害者の直面する現状を少しでも知ってほしいと話す。

「障害者のことを勉強しようと思っても、勉強するのはハードルが高いですよね。余裕のある人ばかりではないのは実感しています。

だから少しでも接点をもってもらおうと、私の日常を動画やツイートで発信しています。『道にこういう段差があったらいけないんだ』といった感じで、普段意識してない人が見たら(車いすの人が)遠回りする理由が何となく気づけるような作りにしています。自分の活動をきっかけに社会を変える仕組み作りが進んでくれればと思います」

【筆者プロフィール】篁 五郎(たかむら ごろう):神奈川県生まれ。接客業、カスタマーサポートなど非正規雇用を転々とした後、フリーライターに転身。現在は取材記事を中心に社会や政治の問題、医療広告、スポーツ、芸能、グルメと雑多なジャンルを執筆している。

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