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「203号室の田中は出入禁止」飲食店に実名さらした張り紙、名誉毀損ではないか?
写真はあくまでイメージです

「203号室の田中は出入禁止」飲食店に実名さらした張り紙、名誉毀損ではないか?

住んでいるマンションの1階にある飲食店のオーナーと口論になったら、部屋番号と名前を晒した「出入禁止」の紙が店頭に貼られていたが、名誉毀損ではないのかーー。弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられました。

相談者によると、オーナーから「二度と来るな」と言われ、「わかりました」と応じているため、出入禁止自体は事実だそうだ。ただ、張り紙がなされることは寝耳に水で、近隣住民からも「あんた、何したの?」と問われて精神的に傷ついてしまったそうです。

このような張り紙は名誉毀損に当たらないのでしょうか。どうすればやめさせることができるのでしょうか。櫻町直樹弁護士に聞きました。

●出入禁止の張り紙だけでは社会的評価を低下させるとは言い難い

まず、「名誉毀損」とは、人(法人、団体なども含みます)の社会的評価(品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価)を低下させるに足る内容を、不特定または多数に向けて発信(=公表)した場合に成立します。

「問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るものである」(参考判例:最高裁平成9年9月9日民集51巻8号3804頁)

本件の場合、「飲食店の店頭に紙を貼る」という態様ですから、マンションの住人や飲食店を訪れる客という「不特定または多数」に対して(張り紙に記載した内容を)発信した、といえるでしょう。

したがって問題は、張り紙に記載された内容、つまり 「203号室の田中は出入禁止」という表現が、田中さんの社会的評価(品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価)を低下させるに足るものといえるかどうかです。

結論からいえば、この表現が田中さんの社会的評価を低下させるに足るものとは言い難く、名誉毀損が成立するとは言えないものと思います。

確かに、張り紙を見た者は、田中さんが出入禁止となっていることを知り、また、「出入禁止になるようなことを何かしたのかな」とは思うでしょうが、出入禁止の理由が具体的に書かれている訳ではないので、ただちに田中さんの「品性、徳行、名声、信用等の人格的価値」を低下させるとまでは言えない、と考えられます。

●裁判例における出入禁止と名誉毀損

裁判例においては、カラオケ店の店主が、客に対し、他の客がいる状況で「出入禁止」と告げた行為につき、出入禁止とは「将来、原告Bから本件店舗を利用することの申込みがあったとしても、被告は承諾しないことを、先行的に宣言したものであると解される。契約自由の原則からみて、カラオケ店を利用するための契約の申込みがあった場合において、店主が特に理由なくこの申込みに対する承諾をしなかったとしても、顧客に対する不法行為となるものではない」という理解を前提に、お客の社会的評価を低下させるに足る表現ではなく、名誉毀損は成立しないと判断したものがあります(岐阜地裁平成15年7月17日判決)。

ただし、張り紙が掲出されていることで「近隣住民からも「あんた、何したの?」などと尋ねられるということですから、そのような状況が続き、「私生活の平穏などの人格的利益」(最高裁平成元年12月21日判決民集43巻12号2252頁)が害されている、という程度に至ったときには、飲食店オーナーに対して、張り紙の除去や慰謝料の支払いを求める、ということが考えられます。

もっとも、本件のきっかけは「オーナーと口論になった」ということで、田中さんにも一定の原因があるようですし、居住しているマンションの1階に入っているということで今後も顔を合わせる機会があるでしょうから、「法的紛争」として全面的に対立するよりも、非を認めるべきところがあれば認め、謝罪し、関係修復を図っていく(その中で、張り紙に困っており他の住人から経緯を聞かれる等の「生活への影響」も生じていることを説明し、剥がしてもらうよう頼む)のがよいのではないかと思います。

プロフィール

櫻町 直樹
櫻町 直樹(さくらまち なおき)弁護士 内幸町国際総合法律事務所
石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。

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