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財政難の東京藝大  建物が老朽化、入試中に天窓が破損して受験生に直撃する「事故」も
事故のあった東京藝大の彫刻棟(2021年1月撮影/学費値上げ調査課さん @LynicoS 提供)

財政難の東京藝大 建物が老朽化、入試中に天窓が破損して受験生に直撃する「事故」も

厳しい財政状況が続く東京藝術大学で4月15日、「電気代を稼ぐコンサート」が開かれた。藝大の客員教授でもあるシンガーソングライター、さだまさしさんらが出演したコンサートの収益は、文字通り「電気代」に充てられるという。

これまで藝大は、教育環境の維持のため、学費値上げやクラウドファンデングによる資金調達などをおこなってきた。しかし、今年2月には、光熱費高騰の影響で、練習室のピアノを撤去したことが大きく報じられるなど苦境は続いている。

そうした中で急務となっているのが、学内施設の老朽化問題だ。2019年3月、東京・上野のキャンパスでおこなわれた入試中、天窓が破損し、落下したガラスがデッサンを描いていた受験生を直撃したという。いったい何が起きたのか。藝大に聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●受験生のデッサン用紙にガラス片

「事故」が起きた彫刻棟は1971年に施工された。大型作品も設置できるよう高い天井を持ち、明治以来続く彫刻科の教育を支えてきた歴史ある建物だ。しかし、建築から半世紀近くが経ち、雨漏りするなど、老朽化が指摘されていた。

2019年3月に彫刻棟で実施されていた入試では、試験中に天窓のガラスが破損して落下して、受験生に当たるという「事故」が発生したという。

弁護士ドットコムニュースが取材したところ、藝大側はこの事故を事実と認めた。事故が起きた原因について、藝大は次のようにコメントしている。

「建物の老朽化が原因です。要因となった建物の老朽化については、事故直後に修理の対応をおこなっており、今後は同様の事例が起きないよう対処しました」

幸い、受験生に怪我はなかったというが、受験生が描いていたデッサン用紙にも当たり、紙が破損してしまったという。

「デッサン用紙にガラス片が当たったため、新しいデッサン用紙を渡しデッサンを再開してもらいました。 その事故があった時間までを換算して、本人の了解を得たうえで試験終了後に延長期間を与えましたので、採点は通常通りおこないました」(藝大広報担当者)

なお、藝大はこの「事故」を公表してこなかったが、その理由についてはこう説明している。

「受験生に怪我もなく、試験についても了解を得たうえで試験時間を延長しており、不利益は生じていないこと及び受験生への配慮から公表しておりません」

●施設の投資以上に進む老朽化

受験生に怪我はなかったとのことだが、一歩間違えば大事故につながった可能性があり、学内関係者は衝撃を受けたという。

事故の背景には、藝大も回答しているような建物の老朽化はもちろん、十分な環境整備をおこなえない財政の厳しさがある。

藝大が公表している2021年度の財務レポートを見ると、施設の老朽化が進んでいることが指摘されている。

「施設・設備への投資により取得価額が増加している一方で、簿価は減少しているため、施設・設備の老朽化・陳腐化が進んでいることがわかる。残存度(簿価/取得価額)も減少傾向にあるため、投資は進んでいるが、それ以上に老朽化・陳腐化が進んでいることがわかる」

令和3年度の財務レポートより

言うまでもなく、国立大学は国からの運営費交付金によって運営されているが、2004年度から国立大学は法人化し、運営費交付金は毎年、減少し続けている。

藝大も例外ではなく、2004年〜2009年の6年間には総額約300億円だった運営費交付金は、2016年〜2021年の6年間には総額約298億8000万円まで減っている。

緩やかな減り方のように見えるが、施設のメンテナンス・維持費や光熱費の増加、消費税増税など、負担は増え続けている。

そのため、藝大では2019年度から学費を値上げしたほか、近年は積極的に外部からの資金調達に努めている。

小学館との共同事業として開設した「藝大アートプラザ」では、学生や卒業生の作品を展示販売し、2021年度には3400万円を売り上げた。

ほかにも自治体や企業などとさまざまな形で連携したり、寄付を募ったりするなど、財務状況の安定を目指しているという(「第3期中期目標期間に係る業務の実績に関する報告書」2022年4月)。

明治以来、著名な芸術家を多数輩出し、国内随一の芸術大学である藝大がこの厳しい現状にどう対応していくのか。注目が集まっている。

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