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苦節24年、「たけのこの里」が立体商標に…明治担当者「胸を張って、きのこ派と渡り合って」
たけのこの里

苦節24年、「たけのこの里」が立体商標に…明治担当者「胸を張って、きのこ派と渡り合って」

明治のチョコレート菓子「たけのこの里」の形状が先ごろ、特許庁に立体商標として登録され、大きな話題になった。1979年発売のロングセラー商品の登録は、2018年に先んじて登録された兄弟ブランド「きのこの山」(1975年発売)の成功あってこそ。

「きのたけ」の立体商標登録に尽力した担当者は「知財の話題がニュースになるのは珍しい」と話す。知財担当の長尾美紗子さんに紆余曲折して登録が認められた経緯を聞いた。(聞き手、編集部・塚田賢慎)

●立体商標登録が拒絶された過去も

斜め上から見たたけのこの里

——「たけのこの里」を含めて、明治では立体商標登録された商品はいくつありますか?

知財戦略部の長尾さん:明治ホールディングスグループとして、「ブルガリアヨーグルト」の容器など12件ありますが、文字のない形状のみの立体商標登録は、「きのたけ」(明治内での「きのこの山」「たけのこの里」をあわせた呼び方)のみです。

立体商標制度が導入された1997年に、「出せるものは全部出してしまえ」とばかりに、「きのたけ」含めて30件前後の立体形状を出願しました。アポロチョコレートから、グミの型まで出したのですが、「明治」の文字が入っている板チョコレートなど、立体形状に記されている文字に識別力があって登録になったもの以外は、ほぼすべて拒絶となりました。

登録されたヨーグルト容器の立体商標。店頭で見るイメージとちょっと違う?

続いて、先に発売された「きのこの山」を2015年に再び申請しています。この年、新たに音や色彩、ホログラムなどからなる新しいタイプの商標の登録が認められたので、立体形状の審査がゆるやかになるのではないかと考えたからです。

発売40周年の話題性を狙ったという側面もありましたが、結果はダメでした。

——振り返って、拒絶の理由はわかりますか?

長尾さん:主に2点あります。1点目は、出願で提出した画像(商標)が不鮮明だったこともあり、きのこの山の実物の形状と同一性が認められなかったこと。同一性は厳しく求められます。

2点目は、全国的に著名であることを証明するために、首都圏でアンケート調査(画像を示して商品名を聞くもの)を実施しましたが、首都圏だけの調査では不足でした。

そこで、2017年、3度目の出願では、きれいな画像を用意して、審査官から受けた「関西圏の調査も出してください」との指示(物件提出指示書)に従いました。

この年には、「MONO消しゴム」(トンボ)の青白黒、セブンイレブン店舗のオレンジ緑赤など、色彩だけで商標登録される事例があって、その事例における審査内容や提出した証拠を参考としています。ようやく2018年に「きのこの山」が登録されました。

●全国の94%が知っているお菓子

——「たけのこの里」も、きのこの成功体験を活かしているわけですね

長尾さん:はい。関東圏と関西圏の15〜64歳の男女1246人に調査をおこなっています。このときは、約9割の認知率を得ました。

立体形状の登録例としては、(1)キャラクター等を立体で表現したもの、(2)立体形状自体に識別力がなくても、そこに記されている文字や図形に識別力があるもの、(3)使用の結果、識別性のある立体形状があります。

「きのたけ」のような普通の立体形状のみの商標であっても、例外的に登録が認められる、「長年の使用により、一般の取引者や需要者が、その形だけでどの商品であるか認識できるような状態になっている」ことの証明に取り組みました。

——調査による認知率は「きのたけ」で差がありましたか?

長尾さん:ともに約9割で、大きな違いはありません。商品のことはわかっているけど、正確に答えられない人もいます。「たけのこの山」「たけのこの森」や「たけのこ」という回答も含めると、認知率は94%まで上昇します。

たけのこの里、並べたもの

——登録された商標を見ますと、「たけのこの里」には前と後ろがあったんですね

長尾さん:立体商標では、出願画像として、正面・後ろ・斜め上から・斜め下から・てっぺん・下からの6図面を出すのが一般的です。

7図面出したのは、担当の私の思い入れですね。どこから見ても、たけのこの里は見え方が違うんです。迷いましたが、どの角度からの図面も捨てきれなかった(笑)。それに、すべての図面を並べるとかわいいんです。

——きのこの山は、どこから見ても同じような気がしますが

長尾さん:いいえ、ひだの見え方が違います。

きのこの山。ひだの見え方が違うそうだ

——商品を守るという観点から立体商標登録がもたらす効果を教えてください

長尾さん:「たけのこの里」の模倣品はあまり聞きませんが、「きのこの山」に似た形の商品は国内外で売られています。

明治では「きのこの山」という文字の商標も持っています。しかし、同じ形で「きのこの森」「きのこいっぱいチョコレート」という名前の他社商品があっても、文字の商標では対応できません。

立体商標が取れたことで、形も権利として守れるようになったわけです。

販売差し止めなど禁止系の権利行使も可能になります。もちろん、業界内のお客様との付き合いもありますから、なんでもかんでも「禁止」とは言いませんが、これまで以上に自分たちの商品を守れるのはよいことです。

——立体商標登録における課題は?

長尾さん:これまでお答えしてきたように。形状のみの立体商標登録の場合、長年の使用により識別力を得た、という証明が必要となり、登録のハードルがとても高いです。

瞬間的に売れる商品や、一部地域、特定の年代だけに知られていればよいものではなく、全国的に幅広い一般の消費者に知れ渡っていることが必要なので、ある程度長く売られているロングセラー商品でなければ登録が難しく、証拠資料の準備が大変です。

一方で、ハードルの高さにも理由があって、ある形状を1つの企業に独占させてしまうと、他人がその形状を使用できなくなってしまうという弊害が起こりえるからです。

でも、商標は登録できれば、その後は更新することで、長期間にわたり商品形態を保護できる権利です。ハードルの高さを乗り越えてでも登録を目指す価値はあると思います。

近年では、食品で、形状のみの立体商標が登録されたのは珍しいケースと言えるでしょう。

——同業他社も「きのたけ」の登録に関心がありそうですね

長尾さん:うーん。知財担当限定だと思いますよ(笑)。食品業界では商標の知財担当者同士で情報交換をする機会もあります。「きのこの山」と同じ日に、キッコーマンの「醤油瓶」も立体商標登録されまして、担当者の方と一緒に喜び合いました。コラボの話も出たのですが、ジャンルが違いすぎて、なかなか実現には至りませんでしたが。

●ツイッターは相互フォローしていない「きのたけ」

——私の話で恐縮ですが、幼いころは、チョコの量が多いたけのこの里が好きでした。今はきのこ派です

明治広報:チョコの量が多いのは「きのこの山」のほうです。たけのこ好きは若年層が多く、きのこ好きは齢が上の方のほうが多いです。

——きのこの山、たけのこの里のツイッターアカウント(「きの山さん」と「たけ里ブラザーズ」)が相互フォローしていないのには、何か理由があるんですか?

明治広報:(3秒沈黙)特に理由はないと思いますが、とんでもないことに気づいてしまったのかもしれません。

——「たけのこの里」の登録によって、ネット上で喜びの声をあげる「たけのこ派」へのメッセージをお願いします

長尾さん:たけのこ派の皆さま、長らくお待たせいたしました。「きのこの山だけずるい!」というお気持ちで我慢の日々だったと思いますが、この度、めでたく登録となったことで、胸を張って、きのこ派と渡り合っていただけると思っています。

たけのこの里の立体商標登録証

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