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おひとりさま女性の悩み、自分が死んだあと「財産」はどうなってしまうの?
画像はイメージです(muu/PIXTA)

おひとりさま女性の悩み、自分が死んだあと「財産」はどうなってしまうの?

「年齢的にも、今から子どもは無理だと思います。子孫がいないことに感傷はないんですが、わたしが死んだあと、財産はどうなってしまうんだろうかと思っています」

都内在住の40代女性からの相談だ。いわゆる「おひとりさま」である彼女は、老後に備えて、ある程度の蓄えを持っておこうとしている。

一方で、年齢の近い兄弟も未婚・子なしで、両親や兄弟のあとに自分が亡くなった場合、その財産はどうなってしまうのかと少し心配というわけだ。

相続人がいない場合、生きているうちに遺言書を残しておけば、お世話になった人に贈与するなど、遺産の処分がスムーズにおこなわれる。

だが、遺言書を用意しないまま亡くなることは少なくない。このような場合に法律上はどうなるのだろうか。瀬戸仲男弁護士に聞いた。

●残った遺産は「国庫」に帰属する

――遺産はどのように処分されるのでしょうか。

遺産(相続財産)は、亡くなった人(被相続人)の所有物ですので、どのように処分するかは、その自由な意思によって決まります。その意思が記載されている書面を「遺言書」といいます。

遺言書は、その形式が厳格に定められていますが、最近、方式が緩やかになり、遺言書を利用することが容易になりましたので、みなさんもぜひ利用してみてください。

遺言書がない場合には、民法の規定にしたがって相続されることになります。

民法では、相続人が決められています。これを「法定相続人」と言います。配偶者(夫または妻)は常に相続人です。そのほかに順番に直系卑属(子、孫など)、直系尊属(父母、祖父母など)、兄弟姉妹が相続人となります。

――今回のように、相続人がいない状態のまま亡くなった場合に、遺産はいったいどうなってしまうのでしょうか。

このような場合には、民法951条が適用されます。条文には「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とする」と規定されています。これを「相続財産法人」といいます。

遺産が「法人」になるなんて、ピンとこないかもしれませんが、これは便宜上「法人」として扱うことにより、その処分の権限を「誰か」に専属させて、遺産が無主物となり散逸するなどして収拾がつかなくなることを回避する制度です。

その処分の権限を有する「誰か」のことを「相続財産管理人」といいます。家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産管理人を選任します(民法952条)。通常は、弁護士が相続財産管理人に選任されます。

一方で、相続財産管理人は、相続財産の管理行為をおこない、ケースによっては訴訟を提起することもありえます。このような法的処理が必要となることがあるため、相続財産管理人には弁護士が選任されることが多いのです。

また、他方で、相続財産管理人は、相続人を探したり、亡くなった人の債権者・受遺者(遺言によって財産を贈与される人)に対して、届け出するよう促したりします。いずれも官報に公告して、広く知らせる建前がとられています。

このようにして、処理を進めていった結果、債権者・受遺者が存在することがわかれば、債権者に対して弁済をおこなったり、受遺者に対して遺贈(遺言に従って贈与すること)を実行します。

そして、それでも残った遺産は、原則として「国庫」に帰属して、国の財産になります(民法959条)。

●特別縁故者に財産分与する制度もあるが・・・

――たとえば、相続人ではないけれども、生前にその人のために尽力した人がいる場合、その人に遺産をわけてあげても良いのではないでしょうか。

そこで、民法は「特別縁故者に対する相続財産の分与」の規定を設けています(同958条の3)。この特別縁故者とは、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者」のことです。

少しわかりにくいかもしれませんが、条文の通り、「特別の縁故」が必要ですので、被相続人の生前にお見舞いに行くなど、少し親切にしてあげた程度では特別縁故者にはなれません。

また、特別縁故者財産分与は、あくまでも例外的制度ですので、簡単に認められるものではありません。

実務上は、相続財産管理人と申立人(分与請求を申し立てた者のことで、実際には、申立代理人の弁護士)とが「バトル」をすることになります。

――どんなバトルになるのでしょうか。

相続財産管理人は、民法に基づいた適正な判断をしようとします。はたして特別縁故者と言えるのか、仮に特別縁故者と言えたとしても分与すべき財産はどの程度なのか、適正に判断しようとします。決して、いい加減な「お手盛り」的な判断はしません。

一方で、申立代理人は、依頼者である申立人に有利になるように(つまり、できるだけ分与が多くなるように)主張します。両者の主張・立証を見て、最終的には家庭裁判所の家事審判官(裁判官)が判断します。

私の経験では、甘い見通しは禁物ではないかと思われます。もしも、特別縁故者の制度によって財産分与を請求したいと考えている場合は、相続に強い専門家に相談して、しっかりと対策を立てたうえで臨むことが大事だと思います。

プロフィール

瀬戸 仲男
瀬戸 仲男(せと なかお)弁護士 アルティ法律事務所
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。

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