「既婚の同僚とキスしていたのを相手の奥さんに見られてしまい、慰謝料200万円を請求されています」。弁護士ドットコムにこのような相談が寄せられています。
相談者は会社での宴会の帰り道、同僚の男性とキスしていたところを男性の妻に目撃されてしまいました。相談者には恋人もおり、相手のことは「ただの同僚」だと思っているそうです。キスにも深い意味はなく、酔ったはずみの行為だそうです。
「たった1度のキスで慰謝料200万円を支払う必要はあるのでしょうか」と相談者は聞いています。柳原桑子弁護士の解説をお届けします。
●「不貞行為」とまではいえないけれど…
ーーそもそも、1度のキスは「不倫」にあたるのでしょうか。
1度のキスだけでは「不倫」ではありません。ただし、不適切な行為にはあたるでしょう。当事者間の話し合いにより、慰謝料を支払う可能性もあります。
社会的には、既婚者が配偶者以外とキスしたら「不倫」だと考える方も少なくないと思われます。しかし法律上は、肉体関係が伴うか否かで評価が変わってきます。
法律上の離婚原因の一つである「不貞行為」(民法770条1項1号)とは、既婚者が配偶者以外と肉体関係をもってはじめて成立するものです。
そのため、肉体関係がなければ、「不貞行為」とまでは評価されません。キスだけであれば、「不貞行為」ではないのです。
以上のことから、もし同僚の奥さんが慰謝料請求で裁判を起こした場合でも、不貞行為ではない以上、その請求は認められないか、認められたとしても高額が認定される可能性は低いと思います。
ただ、相談者とその同僚は、これからも同じ職場で働いていくのだと思われます。同僚の妻としては、裁判で判断された結果によっては納得がいかないなど、本当の解決にならないこともあるでしょう。
そこで、裁判ではなく、当事者間で話し合いのうえ、慰謝料とともに今後の対応も含めて解決する方がお互いのためになるかと思います。
ーー慰謝料を支払う場合、大体いくらぐらいの額になるのでしょうか。
一般的に、不貞行為を理由にした慰謝料請求では、裁判になると200〜300万円くらいが相場のようです。
しかし、相談者の場合は不貞行為をおこなったわけではありません。そのため、話し合いでの慰謝料請求となった場合には、おそらく数十万円程度の金額になると考えられます。
●キスを理由に離婚したいと言われたら…?
ーーもし、同僚の妻が「夫が同僚とキスしたから離婚したい」と言ってきた場合、そのようなことは認められるのでしょうか。
夫が同意しなければ、妻が裁判を起こして離婚請求することになります。裁判では、たった1度のキスを理由とするだけでは、離婚は認められないでしょう。
ただ、キスが原因となって別居が始まるなどして、夫婦関係が冷え切っていたら、話は別です。
結果的に「婚姻関係が継続できない」(民法770条1項5号)ほどに破綻したと認められる状況に至った場合、裁判所においても離婚を認められる可能性があります。
(弁護士ドットコムライフ)