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「県外の方、入店お断り」 コロナ対策の張り紙は「地域差別」なのか?
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「県外の方、入店お断り」 コロナ対策の張り紙は「地域差別」なのか?

新型コロナウイルスの感染が再拡大する中、仕事や政府の観光支援策「Go To トラベル」キャンペーンなどで、移動の機会は増えている。結果として、「よそ者」が現地で警戒される傾向もあるようだ。

ネットで「県外 お断り」と検索すると、「入場はお断りします」などとする飲食店の投稿をはじめ、実際に断られたという客側の意見を目にすることができる。

●「気持ちは分からなくはないけれど…」

最近、仕事で九州を訪れた神奈川県在住の男性も複数の飲食店で、次のような「お断り」の張り紙を目撃した。

・本当に申し訳ございませんが当面の間、九州圏内のお客様のみの営業とさせていただきます

・2週間以内に●●県外、海外へ行かれた方はご遠慮ください

・●●在住の方のみ ごめんね

「気持ちは分からなくはないんですが、たとえばGo To キャンペーンで行ってみたらこれだったとか、困りますよね」(男性)

感染が起これば、店は営業を続けられなくなるし、地元で悪評が立つ恐れもある。一方で客の排除は「地域差別」という見方もあるようだ。

店も客を選ぶ権利があるはずだが、「県外の客お断り」は法的にはどう考えられるだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。

●「人種差別」とは性質が異なる

ーー店は客を絞ることができるんでしょうか?

私人である飲食店の側にも、表現をする自由や、お客を選ぶ自由があります。ですから、張り紙して自分の客を一定条件に限ることを表明すること自体は、原則として許されると考えられます。

ただし、その表明の内容が、たとえば人種や国籍差別のように他者の人格を傷つけるものであれば、不法行為として慰謝料の責任が生じる場合もあり得ます。

ーー「地域差別」という見方もあるようです

今回のように居住地で客を選ぶことの表明そのものが差別として違法とまでは評価されない場合が多いと考えます。

というのは、居住地は人種などと違い個人の意思で容易に変えることができるものですから、個人の意思で変えることのできない人種の差別の場合とは異なります。

また、都道府県単位で感染者数の多寡やその差が大きいことが公表・報道されている社会背景からは、コロナの感染者が店で発生すること避けるためにそのような表明をせざるをえない状況ともいえるからです。

ただ、ある地域に居住していることからコロナに感染している・していないということを判断できるものではありません。

たとえば、A県に居住している人の8割が感染していて、感染者がいない隣県のB県の飲食店がA県の客を断るというのであればともかく、現在は、特定地域の居住者に限定することが合理的な予防方法といえるほど、居住地によって感染している可能性が大きく異なるといえるものではないでしょう。

ですから、居住地で客を断ることを表明することに合理性があるとは思いません。

このような張り紙をした店は、コロナの問題が落ち着いた時に県外・圏外からの客を入れようとしても店の評判・印象は悪く広まっている可能性があります。差別として違法とならなくても、そういうリスクはあります。

●入店拒否はできるが、追い返し方には注意を

ーー張り紙を無視して入店する人もいそうです。そういう人は追い返しても良いのでしょうか?

店側はあらかじめ表明していたのに、それを無視して入店した者がサービスの提供を拒否されるのもやむを得ないとも考えられます。

しかし、場合によっては、実際に入店してきた客に対して、居住地を理由に退店を求めたことによって、その客に不合理な被差別感情や屈辱感を与えたとして慰謝料の責任を負う可能性はあると考えます。   コロナの不安や経営の不安から、一定の人を拒否したいという気持ちになるのも分かります。しかし、一定地域の「お断り」がコロナの予防という目的に合理的につながるのか、落ち着いて考えてもらいたいです。

こういう「お断り」で拒絶された側の被差別感情は分かります。私は、今年の7月初旬に用事があって沖縄に行く予定だったのですけど、「県外の人に会うと感染の恐れがある」と沖縄の方に言われて会うのを断られてしまいました。北海道民を差別しているのではないかと心の中で叫びました。

プロフィール

林 朋寛
林 朋寛(はやし ともひろ)弁護士 北海道コンテンツ法律事務所
北海道江別市出身。札幌南高、大阪大学卒。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。平成17年10月弁護士登録(東京弁護士会)。沖縄弁護士会を経て、平成28年から札幌弁護士会所属。 居住地(選挙区)で国民の一票の価値が異なる問題についての選挙無効訴訟に関与している。

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