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工藤会「上納金」課税逃れで幹部逮捕ーー暴力団「脱税捜査」のモデルケースになる?
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工藤会「上納金」課税逃れで幹部逮捕ーー暴力団「脱税捜査」のモデルケースになる?

傘下の暴力団員から集めた「上納金」の一部を私的に使っていながら、所得として申告せずに脱税したとして、指定暴力団「工藤会」(本部:北九州市)の総長の野村悟容疑者ら4人が6月中旬、所得税法違反の疑いで福岡県警に逮捕された。

報道によると、野村容疑者らは2010~2013年の4年間で、傘下の暴力団員らから運営費名目で集めた上納金のうち約2億2700万円について、実際は野村容疑者の個人所得だったのに申告せず、所得税約8800万円を脱税した疑いが持たれている。野村容疑者以外の3人は、上納金を管理する立場だったという。

暴力団の「上納金」をめぐる脱税事件の摘発は全国初ということだが、なぜ、検挙されたのか。そもそも、上納金に対して課税できるのだろうか。脱税事件にくわしい山内良輝弁護士に聞いた。

●組織の運営費に使用される限り、課税されない

そもそも上納金とは、どんなものなのだろうか。

「上納金とは、暴力団の組長が、傘下の組員から徴収する『組織の運営費』のことです。

上納金と引き換えに、傘下の組員は、組織の名前を使って、飲食店等から『みかじめ料』を徴収するなど、いわゆる『シノギ』ができます。大組織であれば、下部組織から上部組織への上納金もあります」

上納金にも課税されるのだろうか。

「その上納金が、組織の運営費に使用される限りは、経費性が認められますから、課税されません。たとえば、事務所の家賃に使われているケースですね。

一方で、組織の運営費ではない場合は、経費性が認められませんから、組長の個人所得として所得税の課税対象になります。たとえば、組長の私的なゴルフ代などに使われているケースです」

●これまでは「上納金」の実態が不明だった

どうして、上納金に対する課税が難しかったのだろうか。

「これまで、上納金が存在することはわかっていても、実態が不明でした。そのため、実際に脱税があったとしても、摘発することは困難でした。

まず、組織全体の金か、組長個人の金かという『所得の帰属』の問題があります。

次に、組長や家族の個人口座に多額の預金があったとしても(これを『溜まり』といいます)、それだけでは脱税として摘発できません。脱税として摘発するためには、各年度の金の出入りを確定し、組長が自由に処分できる金であることを立証しなければなりません。

しかし、金の出入りも処分の自由も、組織内部の問題ですから、内部者の告発がない限り、外部にはわかりません。結束の強い組織であればあるほど、脱税の摘発は困難だったのです」

今回の摘発の意義はなんだろうか。

「暴力団組織の上納金の実態を初めて解明し、課税の対象としたことです。

これまで、頭脳集団である検察と国税だけでは、暴力団の内部に奥深く切り込んでいくことは困難でした。

しかし、今回、組織犯罪対策の専門家である警察の協力を得て、摘発に踏み切りました。異例の国策捜査であるからこそ、ときには利害の相反する警察、検察、国税の3者による連携が実現したのです。

今後、この3者の連携による反社会的勢力に対する脱税捜査のモデルケースになると思います」

山内弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山内 良輝
山内 良輝(やまうち よしてる)弁護士 和智法律事務所
10年の検事経験を経て、弁護士に転身。特捜時代に多くの脱税事件を手がけた経験を生かし、弁護士時代も脱税事件の弁護や税金の取りすぎに対する税務訴訟を多く手がける。大学教員も務める福岡の町弁(町の弁護士)。通称「山弁」。

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