2019年07月17日 17時00分

法務と税務の「二刀流」タックスロイヤー、独占業務のグレーゾーンに活路見出す

法務と税務の「二刀流」タックスロイヤー、独占業務のグレーゾーンに活路見出す
西中間浩弁護士(本多カツヒロ撮影)

アメリカ映画などで時々目にする法務と税務を兼務するタックスロイヤー。日本にもタックスロイヤーとして活躍する人物がいる。そのひとりが、西中間浩弁護士だ。『日本一やさしい税法と税務の教科書』(日本実業出版社)を上梓した同弁護士に、タックスロイヤーが活躍するフィールドや士業間連携の現状と将来について話を聞いた。(ライター・本多カツヒロ)

●形式的には税理士登録できるが、実際に活躍している弁護士は少ない

ーー法務と税務を兼務するタックスロイヤーは、日本ではまだまだ一般には広まっているとは言い難いと思いますが、どんな仕事なのでしょうか?

まず、タックスロイヤーという資格があるわけではありません。アメリカでは、弁護士が税務のスペシャリストとしてタックスプランニングなどの税務業務を担うことが多く、そうした弁護士をタックスロイヤーと呼んでいます。日本では、弁護士資格を有していれば、税理士登録をする、あるいは国税局長に通知をすることで税理士業務を行うことができます。

このような取扱いが認められているのは税金を規律するのも税法という法律であるからです。弁護士が税理士登録や、国税局長に通知をすれば、形式的には税務業務を行うことができるようになり、タックスロイヤーと名乗れます。しかし、実際にタックスロイヤーとして活躍している弁護士は、まだまだ日本には少ないと思います。

ーー弁護士や税理士のみの士業に相談するのと、両方を兼務しているタックスロイヤーに相談する違いは何でしょうか?

経済活動をする上で、法務と税務は必ずセットで問題になります。たとえば、事業承継、M&A、新株発行、組織再編などの分野ではこのような側面が顕著に現れます。節税をしながら法律的にも問題のない取引を行いたいとするニーズに応えるためには、税務と法務両方の専門的な知識が必要であることは見やすいところでしょう。

また、昨年、中小企業に対して新・事業継承税制(特例措置)が設けられましたが、仮に税理士のみでこの税制に関する業務を行ったとして、後々法定相続人などの関係者との間でたとえば株式の生前贈与をめぐって争いに発展してしまった場合、関係者の調整を行っていた税理士にこれらの調整は非弁行為(弁護士のみができる業務を弁護士以外が行うこと)にあたるとして、対立した関係者からその生前贈与自体も無効であると主張される可能性があります。

もしそのような事態に陥れば、予定していた新・事業継承税制の適用による納税猶予を受けることができなくなり、相続の発生等により多額の納税義務が発生することになりかねません。そうなると円滑な事業承継は失敗に終わり、その中小企業の存続さえ危うくすることになりえます。この点、タックスロイヤーであれば、非弁行為だとの誹りをかわすことができるというメリットがあります。

同様の問題は遺産分割の場面でも生じます。現状では、最も遺産分割の業務を行っているのは弁護士ではなく相続税の申告を行う税理士と言われていますが、関係者全員が同意しているのであれば非弁行為にはあたらないと実務上はされています。しかし、最初から関係者全員が同意していたといえるのか、一定の交渉を経た上で合意が成り立っているのではないかと疑われるケースでは、非弁行為かどうかについてグレーになってきます。税務、法務の両方の資格を有していれば、こういったグレーゾーンのケースにも対応できるというメリットがあります。

逆に、法務の観点からすれば問題のない遺産分割でも、内容によっては相続人に多額の税金を発生させてしまうような場合があります。予想外の納税を強いられることのないようにするには、法務だけではなく、税務の知識も不可欠です。このような分野では弁護士の中でも税務にたけたタックスロイヤーへの需要は高いと思います。

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ーー企業は利益を多く出し、税金をなるべく少なく払いたいというインセンティブが働きます。そのことで税務と法務の両方に通じているタックスロイヤーに相談することもあるかと思いますが、どのようなアドバイスをするのでしょうか?

まずは、国が用意してくれている合法的な節税策を案内することになろうかと思います。典型的には租税特別措置法で政策的に国が設けた優遇措置を活用するという方法ですね。続いて、積極的に国が用意してくれたものとまではいえませんが、それを活用して節税を図ることも許容している条文や通達を使った節税策をアドバイスしたりします。

タイミングの問題であったり、金額の問題であったり、あくまで許容範囲内で最大限の効果のでる選択肢を勧めるやり方です。通達に定める評価方式の特徴を使った節税策を助言することもあります。ただ、どこまで国が条文や通達どおりの処理を許容しているかは実際にはグレーなところもあります。

納税額があまりにも下がりすぎると、それだけで不当な処理として否認できる権限を当局はもっていますので、極端に税額を下げるようなやり方は助言しません。否認までいかなくても当局が問題視しそうな規模での減額も、避けるようにしています。税務調査で揉めること自体が不利益だと考えるからです。それがどの程度かは、実際の裁判事例や当局の処分事例を分析することで感覚的に身についてくるものなので、この手のアドバイスを行うにはある程度の実務経験と不断の学習は必須になってきます。

一方、アメリカでは、もっとアグレッシブに、国際的な取引などを利用して、いろんな国の税法に精通しこれを組み合わせるなど、法の隙間を利用したタックスプランニングを得意とする天才肌のタックスロイヤーがいるのも事実です。ただ、こういったアグレッシブなプランは、租税回避行為として否認されるリスクの高いものです。パナマ文書以降、こういった租税回避行為に対しては各国が厳しい目を向けていることは周知のとおりです。

●税金を考えるための6つの視点

ーー刑事事件などと違い、税務に関する訴訟はあまりニュースでも目にしません。実際には、どんな訴訟が多いのでしょうか?

税金を考えるためには、次のような視点が重要です。すなわち租税法律主義(課税は法律に明確に定められていなければならない)、租税公平主義(課税は公平でなければならない)、担税力(課税は税を負担する能力に見合っていなければならない)、執行可能性(予算範囲内で現実的に徴収できるものでなければならない)、国の財政事情、国の政策目的の6つの視点です。税務訴訟では、突き詰めていくと、租税法律主義、租税公平主義、担税力をめぐっての争いが多いですね。

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ーー実際に関わった税務に関する訴訟で印象に残っているものはありますか?

最高裁まで争って一部勝訴した訴訟は印象に残っています。匿名組合の所得区分や加算税の是非について争ったのですが、初めて最高裁で口頭弁論を行ったので今でもそのときの雰囲気を鮮明に思い出すことができます。

また、「絶対に勝てる」と意気込み最高裁まで上告したのですが結果的に不受理になってしまった印紙税の案件も印象に残っています。不服申立て段階から、納税者と一丸となって一緒に争ったので悔しさと一緒に記憶に残っています。

●士業間連携はどうなるか

ーータックスロイヤーをはじめ、日本でも士業間の連携は増えてきているのでしょうか?

M&Aや組織再編、ファイナンスといった大企業の大きなプロジェクトになるとたとえば公認会計士・税理士と弁護士が連携することは多いです。紛争が起きる前に、事前に士業間で連携し、問題が起きないようにする提案する予防法務的な案件も増えています。お客さんのニーズに合わせて士業間の連携が進んでいるとは感じます。

しかし、お客さんからすると税理士や会計士、弁護士にそれぞれ報酬を支払うということは大きな負担となりますし、そこまで払えない中小の企業も多数もあります。事業承継のニーズは、資金が潤沢にある中小企業に限定されているため、士業連携が進みやすい分野といえます。ただ、資金が潤沢でない中小企業に法務・税務面でのサポートの必要がないわけではなく、そのような法人の数が圧倒的に多いことを考えると、こういった中小企業を対象とした簡易ではあるが割安のサービスを提供できる士業連携が可能となればさらに士業間の連携の場面は広がってくる可能性があると思います。

ーー税理士と弁護士が連携する上で重要な点はありますか?

まずは、どう協力すれば最もお客さんのためになるかといった点が重要です。その上で業務を分担する際には、非弁行為や非税行為の問題に発展しないように互いの独占領域に入らないようにすることも大切です。また、どちらがお客さんの窓口になるかも重要です。経験上は、コンサルタントや税理士が窓口になることが多く、弁護士はお客さんから一番遠いところで下請けを行っていることが多々あります。

そうなってくると、適切な業務分担ができずに非弁行為の問題を生じさせていたとしても、それを指摘できずに終わってしまうことになりかねません。それはお客さんのためにもなりません。もっと、弁護士も窓口となるように営業努力をすべきですし、下請けになる場合であっても他士業と連携するのであれば、こういった問題点を積極的に指摘するべきだと感じています。

ーー士業間の連携も含め、今後どういった方向へ進んでいくと考えていますか?

弁護士の数が増えたこともあって、今後は、弁護士も事務所で相談者が来るのを待っているだけというのではなく、積極的にさまざまな場所に出向いていくことなるだろうと予測しています。ロースクール設立以来そのようなことは言われていましたが、実際、企業内弁護士の数は増えているようですし、そのような積極的な活動は、非弁行為からお客さんを守ることにもつながり、歓迎すべき傾向だと思います。

また、紛争が生じる前の段階からさまざまな企業活動に関与するとなると、法務だけではなく税務や金融など多角的な視点からの問題点の発掘が求められますので、さらなる士業連携が進むと同時に、複数の専門領域をもつ専門家が増えてくるものと考えています。税務と法務に精通したタックスロイヤーはその一例です。

取材協力弁護士

西中間 浩(にしなかま・ひろし)弁護士
東京大学文学部行動文化学科卒。外務省勤務を経て東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻(ロースクール)修了。2011年1月より、鳥飼総合法律事務所弁護士(第二東京弁護士会)。2017年4月より、青山学院大学法学部非常勤講師。2019年5月より、税理士登録。主な取扱分野は、税務、企業法務、事業承継・相続など。著書に『日本一やさしい税法と税金の教科書』(日本実業出版社)、『債権法改正と税務実務への影響』(木山泰嗣監修、税務研究会出版局)、共著に『使う?使わない?新・事業承継税制の活用法と落とし穴』(新日本法規)、『新・実務家のための税務相談(民法編)』『新・実務家のための税務相談(会社法編)』(以上、有斐閣)、『公益法人・一般法人のQ&A 移行後の運営・会計・税務』(大蔵財務協会)など。このほか、『税経通信』『月刊税理』『税と経営』など税務専門各誌で判例評釈などを行っている。

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