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過激パロディで注目されたアニメ「おそ松さん」 巨人化した「チビ太」は著作権侵害?
DVDの内容変更を伝える「おそ松さん」の公式ツイート

過激パロディで注目されたアニメ「おそ松さん」 巨人化した「チビ太」は著作権侵害?

故赤塚不二夫さんの代表作の一つであるギャグ漫画「おそ松くん」。その主人公の6つ子たちが成長した姿を描いたテレビアニメ「おそ松さん」(テレビ東京系)の第1話が、過激なパロディだと話題を呼んだ。その影響かどうか分からないが、来年1月に発売が予定されているDVDに第1話が収録されず、新作に差し替えられることが、公式サイトで発表された。

「おそ松さん」の第1話は、アニメ「進撃の巨人」や「弱虫ペダル」「NARUTO」「花より男子」など、人気作品をパロディ化したとみられるシーンが数多く登場し、注目を集めた。公式サイトでは、DVDの内容変更について「制作委員会の判断」とだけ説明しているが、ネット上では「パロディをやりすぎたからではないか」という指摘が出ている。

他作品のパロディは様々なアニメで見かける手法だが、やりすぎると法的な問題になることがあるのだろうか。著作権の問題に詳しい唐津真美弁護士に聞いた。

●「パロディ」の特質

まず「パロディ」とはどういうことなのか、確認しておきましょう。ここでは「文学・映画・漫画などで広く知られている既存の作品の特徴をとらえて、滑稽化・風刺化の目的で作り変えたもの」としておきます。

多くのパロディは、元ネタとなっている作品を知っていて「ああ、あれだ」と分かったときに、初めて面白さがわかるものです。つまり「元の作品が存在すること」と「元の作品の特徴がある程度再現されていること」がパロディの特質といえます。

パロディの性格上、元ネタの著作権者の許諾を得ている例は少ないため、元ネタに対する著作権侵害が問題になるわけです。

●パロディ=著作権侵害とは限らない

とはいっても、「パロディ=著作権侵害」とは限りません。元ネタのどの要素が、どのような形で再現または変質されているのか、検討する必要があります。

たとえば、替え歌もパロディといえますが、曲はほぼそのまま使い、歌詞だけ変える場合がほとんどです。つまり元の楽曲の複製が行われていることになります。また、コミケで売られている同人誌では、人気漫画のパロディが多く発表されており、その登場人物は、元のキャラクターのビジュアルを忠実に再現しているものが多くみられます。

このような場合、たとえ元ネタの中で複製・翻案されたシーンが特定されなくても、著作物としてのキャラクターの複製または翻案と認定されると思われます。著作権者に無断で著作物を複製したり翻案したりすれば、著作権侵害が成立するのが原則です。

●アイデアそのものは保護しない

一方、著作権法は、アイデアそのものは保護していません。問題になった「おそ松さん」の中のシーンでは、たとえば高い壁の向こうから巨大な人間が現れて、内側の人間達を攻撃しようとすれば、多くの人が「あ、進撃の巨人!」と考えるでしょう。

しかし、「高い壁の向こうから巨大な人間が現れる」というアイデア自体は、著作権法の保護を受けるものではありません。壁の向こうから、元ネタである漫画・映画に登場する巨人に酷似した巨人が現れれば、先に述べた同人誌と同様に著作権侵害の可能性が高くなります。

「おそ松さん」の中の「進撃の巨人」のパロディとみられるシーンでは、元ネタとは似ても似つかない「巨大化したチビ太」が現れるので、著作権侵害の成立は難しいと思われます。ただ、ビジュアル的にも類似性が高まると、著作権侵害の可能性が高くなるでしょう。

著作権法は、著作権を原則通りに適用することによる弊害が大きい場合は、著作権者の許諾なしに利用できるという規定(権利制限規定)を設けていますが、今のところパロディを例外として認める規定は見当たりません。現行法では、元ネタの創作的な表現を複製・改変したと認められる限りは、原則通り著作権侵害が成立することになるでしょう。

●パロディは、狂歌や川柳にも見られた文化

一方で、パロディと著作権侵害の問題は、著作権法の目的との関係で議論されてきました。著作権法は、第1条にもあるように、著作者を保護することによってさらなる文化の発展を目指しています。

パロディは、元ネタを利用しつつも、そこに新たな価値をつけて、創作的な工夫を加えて、社会的に意味のある新しい作品を世に送り出しています。それを著作権侵害と単純に決めつけて良いのかという問題意識があるのです。実際に、他国の著作権法の中には、パロディを明文で認める法律も存在しています。

日本の著作権法にはパロディに対する明文の救済規定がないものの、たとえば同人誌などは、「ファンがすることだから」と権利者により黙認される例も多くありました。今般TPPへの加入により、著作権侵害が親告罪(権利者が告訴しなければ起訴できない犯罪)から非親告罪(告訴不要)に変更されることが予定されている関係で、「コミケ文化の終幕か」と騒がれましたが、現状では、著作物の収益に大きな影響を与えない場合は非親告罪の適用の例外とする方向で調整が図られるようです。

パロディは、古くは狂歌や川柳にも見られた立派な文化だと思います(すべてが立派とは言いませんが)。現行著作権法のもとでパロディ文化を絶やさなかった社会の「知恵」が、続くことを願っています。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

唐津 真美
唐津 真美(からつ まみ)弁護士 高樹町法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士。アート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般を主に取り扱う。特に著作権・商標権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス、執筆、講演多数。文化審議会著作権分科会専門委員も務める。

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