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「契約書にサインするまで帰さない」と監禁されることも――AV出演強要の実態(上)
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「契約書にサインするまで帰さない」と監禁されることも――AV出演強要の実態(上)

アダルトビデオの出演を断った20代の女性が、所属していた芸能プロダクションから2460万円もの違約金を請求された裁判で、東京地裁は9月上旬、プロダクション側の請求を棄却する判決を言い渡した。

女性は高校生のころにプロダクションと契約。成人後、アダルトビデオに出演させられるようになった。女性は「やめたい」と申し出たが、プロダクションから「違約金が発生する」などと脅されるなどして、出演を強制されていたという。

今回の判決で裁判所は、女性の意思に反してAV出演契約が結ばれていたと認定した。女性を支援した団体「ポルノ被害と性暴力を考える会」(PAPS/https://paps-jp.org)によると、同様に「自分の意思に反してアダルトビデオに出演させられた」という女性の相談が年々増えているのだそうだ。

そのような女性はなぜ、自ら望んでいないにもかかわらず、AVに出演させられているのか。そのカラクリはどうなっているのか。PAPSで相談員として活動している金尻カズナさんと田口道子さんに「被害」の実態を聞いた。(取材・構成/山下真史)

●「大学生」くらいの年齢が狙われやすい

――「本人の意に反してアダルトビデオに出演させられた」ということですが、彼女たちがアダルトビデオ業界に入ったきっかけはどういうものなのでしょうか?

金尻カズナ(以下、金尻):駅前などでスカウトマンから「モデルになりませんか?」と声をかけられるケースが多いです。

インターネットの高収入アルバイトの求人広告がきっかけだったという人もいます。「ガールズバー」の求人に応募すると、実際はAVだったり・・・。表向きは「パーツモデル」や「コスプレモデル」といった求人がされていることもあります。

――どういう人が「被害」にあうのでしょうか?

金尻:大学生くらいの年齢の人が多いと思います。「なんとか自立しなきゃ」と思っているところにつけこまれている印象です。

また女性だけでなく、男性の被害者もいます。「メンズモデルになりませんか?」と声をかけられて付いていくと、いわゆる「売り専ビデオ」に出演させられたというケースもありました。

●「セックス未経験です」と断ろうとしても、言葉巧みにかわされる

――スカウトマンに声をかけられたあと、どうなるのでしょうか?

金尻:スカウト会社から斡旋されて、プロダクションと契約することになります。その際、女性たちも最初は「やりたくありません」「親や友だちに知られるのが嫌です」と断ろうとします。

だけど、プロダクション側が「大丈夫。年間10万本も作られているから、君なんて星くずにしか過ぎない」と言いくるめる。女性が「性的なことが嫌いです」といっても、「この仕事は割りきらないとできないから、そういう人のほうがいい」といわれる。「セックス未経験です」といっても、「良かったね。プロとできるなんて」と返してくる。

めちゃくちゃな論理ですが、断る理由が一つひとつ、はがされていきます。そして、最終的に「断る理由」がなくなってしまいます。ほかにも、「契約書にサインするまでは帰さない」といわれ、実質的な監禁状態にされたケースがありました。

田口道子(以下、田口):つまり、「オレオレ詐欺」と同じように「だましの構造」ができあがっています。「オレオレ詐欺」の場合は「お金」が狙われますが、若い女性の場合は「性」が狙われます。AVはずっと未来まで販売され続けます。

――プロダクションと契約したあとは、どうなるのでしょうか?

金尻:プロダクションのスタッフと女性がメーカー回りをします。「デビューもの」だと、どこも欲しがるので、すぐに出演が決まります。

田口:その際、メーカーとも契約します。これだけの契約であれば、女性はきちんと重要事項の説明を受けないといけませんが、実際はきちんと説明されないまま契約してしまいます。契約書もあるから、「まともな会社だ」「やめたいときはやめれる」と思ってしまいます。

金尻:また、女性には「穏便に済ませたい」という感情も働きます。ここで「ノー」と言ったら、なにをされるかわからない。あとで、怒られるかもしれないし、キレられるかもしれない。だから、その場は「がんばります」と言ってしまう。PAPSに寄せられる相談のうち、特に「デビューもの」はそうやって作られています。

●「性行為」は究極のプライバシー

――素朴な疑問なのですが、「身バレ」はしてしまうものなんでしょうか?

田口:ほぼします。寄せられた相談では、身バレしなかったという方はほとんどありません。

金尻:メーカーは「ジャケットの顔写真は修正するからバレナイ」といいますが、ほとんど行われません。女性には修正を求める権利はほぼありません。必死に訴えれば、いろいろ修正がかかる場合もあります。しかし、光で飛ばし(光を強く照射して顔の特徴がわからなくすること)ても、映像中の顔や体形を修正することは不可能でしょう。

また、インターネット上の通販サイトでは、新作AVが無料でダイジェスト配信されます。そのため、販売された数日後に、高校の同級生や友だちに知られるケースが多くあります。

田口:女性にとって怖いのは、それが1回だけで終わらず、ずっと永遠に続くということです。

――彼女たちがおそれているのは「身バレ」だけですか?

田口:身バレだけでなく、出演したこと自体に後悔していることが多いです。

金尻:「性行為」は究極のプライバシーです。それを合法的に販売されて、知らない人たちに見られてしまう。インターネットの場合、モザイクなしの「無修正」もあります。

被害にあった女性からは、毎日のように「死にたい・消えてしまいたい」という内容のメールが届きます。たとえば数十本の作品に出演した女性のケースでは、もうAV業界をやめたにもかかわらず、「顔射」シリーズや「パンスト」シリーズのように、編集を変えた作品が毎月のように発売されています。しかも、それで報酬が支払われることはありません。

――1本あたりのギャラはいくらでしょうか?

金尻:ある相談者のケースでは、メーカーからプロダクションに1本あたり300万円が支払われていました。ところが、そこで中抜きされて、本人には35万円ほどしか支払われていませんでした。

私たちはメーカーやプロダクションの人と交渉する場合がありますが、そこで働いている人たちは本当に普通の大卒会社員の男性です。そういう人たちのビジネスの対象が、女性の「性」になっています。

2012年から現在まで私たちに寄せられた相談は95件です。ここまでヒドイとは思っていませんでいた。今回の裁判の女性と同じように、過酷な目にあっている人がたくさんいます。ほとんどが泣き寝入りしたり、不利な和解をさせられたり・・・なかには自殺された人もおられます。

●「覚悟」は「諦める」を美化した言葉

――これまで、無理やりアダルトビデオに出演させられるというケースが、なぜ可視化されなかったのでしょうか?

金尻:いろんな団体に話を聞いたところによれば、少なからず相談はあったようです。しかし、警察や弁護士につないだあとで、支援が途切れていることがほとんどでした。

契約書によって、あたかも女性が出演を合意したかのように装われてしまうので、被害として認知されていなかったという側面もあります。

田口:たくさんの相談を受けて、そういう実態がようやく私たちに見えてきたところです。

金尻:プロダクションやメーカーの多くは一見、まともな企業です。たとえば、年商100億の企業もあります。そういった大企業から訴えられると、そこの弁護士から通知状が届きます。事前に私たちが対策を講じなければ、通知状の送達先は実家になります。しかし、家族には知られたくないという力が働き、被害を訴える力が奪われてしまいます。

田口:性行為は「究極のプライバシー」だから、みなさん知られたくないと思います。相談できる人もいますけど、ほとんどは親や友だちに知られたくないと考えるでしょう。

金尻:警察に相談に行っても、たいていは「両親と一緒に来てください」といわれてしまいます。成人であってもそうです。

――やはり、家族には知られたくないわけですね。

金尻:撮影の際には、事前に身分証のコピーがとられますので、学校の名前や実家の住所が知られてしまいます。

だから、逃げたくても逃げられない。プロダクションやメーカーからは「覚悟」を求められます。その覚悟というのは、この業界でしか生きていけない「覚悟」です。しかし、それは「諦める」を美化した言葉です。結局、諦めざるをえなくなって、出演を余儀なくされています。

田口:よくいわれるのは、「これは仕事だよ」という言葉です。「仕事なんだから、ちゃんとやんなきゃね」と。仕事はちゃんとやらないといけないものだと思っているから、たとえ大泣きしながらでも、「やらなくちゃ」と思ってしまいます。

金尻:「仕事だ」といわれてしまうと、被害だという認知がしづらくなる力が働きます。つまり、それ以上言い返せなくなります。

 

下「現役女優から「死にたい」というメールが届く」につづく

(弁護士ドットコムニュース)

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