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突然「ペット可」になった自宅マンション、早朝や深夜にも犬の鳴き声…引っ越し代は請求できる?
画像はイメージです(akane / PIXTA)

突然「ペット可」になった自宅マンション、早朝や深夜にも犬の鳴き声…引っ越し代は請求できる?

住んでいるマンションの規約が、いつのまにか「ペット不可」から「ペット可」に変わっていた——。そんな相談が、弁護士ドットコムに寄せられました。

あるとき、隣の部屋から犬の鳴き声が聞こえてきたため、「隣が犬を飼っていて、無駄吠えがうるさい」と管理会社に連絡しました。すると「ペット可になりました」と言われたのです。

隣人の犬は、早朝から深夜まで、吠え出したら数分間吠え続けます。在宅勤務の相談者は「集中できない」と頭をかかえています。管理会社から隣人に対して、犬のしつけをするよう伝えてもらいましたが、改善しない様子。「埒があかないので、引っ越しを考えています」と話します。

隣人の犬の鳴き声を理由に引っ越す場合、相談者は「ペット不可」から「ペット可」に規約を変更したマンションの大家に対して、引っ越し代などを請求できるのでしょうか。渡邉正昭弁護士に聞きました。

●賃貸の居住ルールはどのように決まる?

——そもそもマンションの規約が勝手に変わるのはアリなのでしょうか?

賃貸マンションでは、分譲マンションと異なり、住民参加型の総会の(特別)多数決によって居住ルールが変更されるのではなく、賃貸人(大家)と賃借人の賃貸借契約によって居住ルールが決められます。

ですから、理論的には、相談者の契約がペット飼養不可で、隣人の契約がペット飼養可ということもありえます。隣人が迷惑をかける行為をした場合は、相談者が隣人に対して法的請求をする。これが前提となります。

しかし、相談者には、マンションがペット禁止だから入居を決めたのであって、隣人がペット可であれば入居しなかったという事情があったのかもしれません(ペット嫌い、ペット被害の防止、動物アレルギーなど)。

他方、隣人は、理想的な飼養環境を求めて、ペット可のマンションを探してきたが、仲介業者からも勧められ、願いが叶って、理想的な飼養環境で愛犬を飼うことができたのかもしれません。

また、賃貸人は、今までペット不可で募集してきたが、マンションの老朽化が進み、入居者が大幅に減少したので、管理会社と相談して、苦肉の策でペット可の募集をしたのかもしれません。

具体的事情を考えると、相談者、賃貸人、隣人の三者間の利害の調整は極めて難しいということが想像できます。

●引っ越し代の損害賠償請求をすることができる場合も

——こんなとき、どうすればいいのでしょうか。

賃貸借契約書や賃貸物件の募集から契約締結までのやり取りに至るまで、相談者の特殊な事情や動機が反映されており、賃貸人もそれを了承していたような場合は、話が違ってくるでしょう。

その場合、賃貸借契約の解釈として、賃貸人は、隣人にペットの飼養を許す場合には相談者の同意を得る義務がある、または、賃貸人は、相談者の特殊な事情に配慮した適切な環境で相談者が居住できるようにする義務があると解することはできないでしょうか。

このように解することができれば、相談者は、賃貸人に対して、義務違反を理由に、引っ越し代などの損害賠償請求をすることができる場合があります。

——引っ越し代は全額出してもらえるのでしょうか。

ただ、賃貸人の義務違反が認められる場合でも、引っ越し代については、相談者がペット不可の部屋を借りた事情、隣人のペットの種類、体格、飼養状況や近隣に与える影響などの事情、賃貸人がペット不可からペット可に変更した事情などによって、請求できるかどうかや金額を個別に検討する必要があります。

相談者が動物アレルギーで実際に症状が出ている状況の場合は、引っ越し代の請求が認められる場合があると思います。

しかし、犬の無駄吠えだけが問題の場合、「近隣騒音紛争」と同じように「受忍限度」論が問題となり、通常人が受忍できる程度の騒音かどうかが問題となります。

それに加えて、賃貸人が隣人に対してどのような改善努力をしたのか、その内容や程度などを考慮して引っ越し代の請求ができるかどうか、またその金額を検討することになると思います。

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プロフィール

渡邉 正昭
渡邉 正昭(わたなべ まさあき)弁護士 渡邉アーク総合法律事務所
交渉戦略家・弁理士 元家事調停官 心理学を活用した法的交渉が特徴。ペット問題に30年関わり、相談や事件依頼は全国各地から、近時は世界各国からも。セカンドオピニオンや引き継ぎ依頼も多い。

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