偽装結婚をしているとして入管法違反の罪に問われたフィリピン国籍の女性(55)と日本人の男性(52)に対し、東京地裁は3月19日、いずれも無罪判決を言い渡した。2人の弁護人である関谷恵美弁護士らは同日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見。男性は保釈を求めてきたが許されず、父親の臨終にも立ち会えなかったといい、冤罪にいたるまでのずさんな捜査の一端を明らかにした。
●逮捕の背景に浅草のフィリピンパブの摘発事件
2人は2014年7月に日本で結婚、12月には日本人の配偶者として女性は在留資格の認定を受けて同居していた。しかし、経済的な理由から女性は都内に住んでいた妹夫婦の自宅に同居。昨年2月に在留許可申請手続をした際、別居していたため、昨年9月に公正証書原本不実記載の疑いで逮捕された。
関谷弁護士によると、その背景には、同時期に東京・浅草でグランドールというフィリピンパブの従業員らが偽装結婚で多数、摘発される事件があり、2人は関係者だと間違われたことが冤罪のきっかけだったという。
逮捕された際、女性は「自白」すれば夫は助かると思い、「偽装結婚していた」と虚偽の供述をした。一方、警察は容疑を否認する男性(夫)に対して、「(関谷弁護士らのことを示して)彼らは悪の組織の弁護士だから、裏切るだろう」などといってその信頼関係を破壊。「否認すれば勾留が続く」とも言われたという。
2人は処分保留で釈放になったが、翌日に再び、入管法違反の容疑で再逮捕、起訴された。「しかし、結婚にいたる経緯も虚偽がなく、2人の間に愛情があることも明らかですし、婚姻の実態はあるということが認められ、無罪判決になりました」と関谷弁護士は説明する。
今回、2人が問われたのは、入管法70条1項2号の2(在留資格等不正取得)。同じく弁護人の磯部たな弁護士は、「これは、『偽りその他不正の手段によって』上陸許可や在留資格を受けたことに対して、懲役刑を課す可能性があるという法律です。2年前に新設されたもので、判例がなく、今回裁判所がどのような判断を示すかが重要でした」と話す。
今回の判決で、「偽りその他不正の手段」は認められなかった。関谷弁護士は、「条文が作られた際にも、日弁連が罰則の強化に反対する意見書を出しています。結局、男性の場合も保釈が許されず、父親の臨終に立ち会うことができませんでした。本当にひどいケースです。今回の判決によって、瑣末なことで検挙されることはなくなり、条文が限定的に解釈されるようになると思います」と語った。