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盗撮、取り締まりに抜け穴 被害者「一生怯えて暮らすしかない」盗撮罪の創設を
講演する上谷弁護士

盗撮、取り締まりに抜け穴 被害者「一生怯えて暮らすしかない」盗撮罪の創設を

社内にカメラが仕掛けられ、盗撮されていたーー。都道府県によっては、こうした盗撮の被害を取り締まることができない可能性がある。今の日本には、盗撮自体を全国一律に規制できる法律がないことが大きい。

11月29日に東京都内で開かれたシンポジウム「性犯罪をなくすための対話」で、性暴力事件に詳しい上谷さくら弁護士は「被害者は一生怯えながら暮らすしかないと話している。盗撮は今ある法律や条例でなんとか対応している状態で、無理が生じている」と盗撮罪の創設を訴えた。

●都迷惑防止条例、盗撮行為の「規制場所」が拡大

現在、盗撮行為を規制する法令には、どのようなものがあるのか。

「公共の場所」での盗撮行為は、都道府県ごとに定められている「迷惑防止条例」に違反する。ただ、その内容にはばらつきがあり、規制場所を「公共の場所、または公共の乗り物」に限定する条例も多い。

上谷弁護士が「全国の都道府県条例の中で一番広い定義なのではないか」と指摘するのが、東京都の迷惑防止条例だ。

今年7月、改正都迷惑防止条例が施行され、盗撮行為の規制場所が拡大。改正前は公共の場所でないと取り締まれなかったが、新たに住居や学校、事務所やタクシー、カラオケの個室なども規制の対象となった。

しかし、上谷弁護士は「検察官などからは全部の盗撮を網羅できる条例はありえないという声もあった」とし、東京都のような比較的広く規制する条例であっても、起訴されない事案が出ることを危惧した。

●スマホ盗撮「ひそかにのぞき見た」にあたるのか

また、公共の場所以外での盗撮行為は、軽犯罪法違反に問われる。同法では正当な理由がなく、人の住居や浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た場合に処罰を科している。

ここで問題なのは、スマホでの盗撮が「ひそかにのぞき見た」に当たるのかどうかという点だ。上谷弁護士は「スマホで盗撮された場合に、密かにのぞき見るという点が真剣に争われた場合、盗撮ではないという判断が出てしまうのではないか」と懸念を示した。

●「盗撮ビデオ」強制的に没収や削除できず

盗撮被害は、公共の場所だけではない。強制性交等罪と強制わいせつ罪など性暴力の際に、犯行を盗撮される被害が相次いでいる。上谷弁護士の元には「性暴力被害とほぼセットで盗撮の相談が来る」という。

画像や動画がどこに保存されているかもわからないし、ネットで拡散しているかもしれない。ネットに上がっているかもしれない。全部はとても追いきれないが、被害者の中には、一日中ネットで検索して日常生活が送れない人もいるという。

こうした「盗撮ビデオ」の処分を巡って、争われた事件もある。

宮崎市のオイルマッサージ店の男性経営者が、女性客ら5人に性的暴行を加えたとして強姦罪などに問われた事件。男性は犯行の様子を無断で隠し撮りし、ビデオに録画、保管し、原本を所持し続けた。

最高裁は今年6月、隠し撮りをしたのは「犯行の様子を撮影録画したことを知らせて、捜査機関に処罰を求めることを断念させ、刑事責任の追及を免れようと認められる」と判断し、ビデオ没収を認めた。

この判断について上谷弁護士は「転機になった」と話すが、最高裁は「犯行の発覚を防ぐ」場合についてのみ言及しており、無条件に没収できるわけではなさそうだ。上谷弁護士は「個人的に楽しんだり、販売する目的での撮影録画だった場合、ビデオの没収がなされるのかは未知数だ」と強制的に没収したり削除したりできない現状の問題点を指摘した。

●盗撮動画、リベンジポルノ法で取り締まれる?

盗撮の取り締まりへの限界に悩むなか、上谷弁護士を驚かせたのが、10月下旬に警視庁が逮捕した事案だった。報道によると、トイレに入った女性を盗撮した動画をネット上で販売したとして、警視庁が東京都内の40代男性を「リベンジポルノ防止法」違反容疑で再逮捕したというものだ。

リベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)の条文では、顔見知りや復讐目的であることに限定されていない。加えて、警察庁は施行後に「第三者による盗撮画像等」も対象になるといった通達を出している。

上谷弁護士は「リベンジポルノ法を適用して取り締まって欲しいという思いもある」としつつ、「法律の適用をそこまで広げていいのかという違和感もある。立法趣旨から外れているので、加害者側が裁判で争ってきた場合、負けやしないかと心配もしている」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)

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