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「断ったら取引停止かも」お得意様からのセクハラ、双方の会社はどう対応すべきか
画像はイメージです(つむぎ / PIXTA)

「断ったら取引停止かも」お得意様からのセクハラ、双方の会社はどう対応すべきか

セクハラの中でも、対処するのが難しい「取引先」からのセクハラ被害。同じ社内でのセクハラよりも、相手が相手だけに、対応に苦慮して泣き寝入りしてしまう人もいるようだ。

弁護士ドットコムニュースの法律相談コーナーにも、取引先からのセクハラに悩む方から、複数の相談が寄せられている。

ある相談者は、取引先のオーナーから「身体を触られたりキスを要求」されていたそうだ。はっきり断ったところ、取引を一方的に止められてしまった。

また、別の相談者は、取引先とのお酒の席で、取引相手から「魅力がない、胸を手術した方がいい」などと言われ、非常に不快な思いをしたと打ち明ける。ところが、女性の上司は、同席しているのにも関わらず、笑って聞いているだけ。セクハラの加害者に対してだけでなく、この上司の対応にも絶望してしまったようだ。

このような「取引先からのセクハラ被害」に対し、被害者はどのような手段を取ることができるのか。黒栁武史弁護士に聞いた。

●上司に相談しても取り扱ってもらえなかったら…

被害者はまずどのような手段を取ればいいのか。

「そもそも被害者の勤務先には、セクハラ被害について適切に対処する責任があります。そこで被害者としては、まずは勤務先の上司に相談することが考えられます。仮に上司に見て見ぬ振りをされるような場合には、勤務先が設置するセクハラ相談窓口や労働組合に相談してみてはどうでしょうか。

もし社内で対応してもらえないようであれば、労働局などの行政機関への相談や、弁護士に相談して法的手段を検討することが考えられます」

●どんな法的手段が取れるのか

では実際、セクハラ加害者に対して、どのような法的手段が取れるのか。

「民事上の措置として、被害者は、不法行為(民法第709条、第710条)に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。

また、加害者が、職務を行なうにつきセクハラを行なった場合であれば、加害者の会社にも損害賠償責任を追及することが考えられます(民法第715条1項、会社法第350条)」

さらに身体に触るなどの行為があれば、刑事責任を問える可能性もある。

「身体に触るなどの行為は、程度によっては強制わいせつ罪(刑法第176条)などの犯罪に該当する場合もあり、その場合は加害者を刑事告訴することも考えられます」

事件化する中で重要となってくるのが、客観的な証拠だ。

「被害者の供述だけでは信用してもらえない可能性もあります。加害者とのやりとりの録音や、セクハラの証拠となるメール等があればそれを保存しておくなど、客観的な証拠を確保しておくことが重要になります」

●加害者には「適正な処分を」

取引先との関係でセクハラ行為が発覚した場合、加害者の会社はどう対応するべきだろうか。

「社員によるセクハラ行為が発覚した場合、被害者及びその勤務先への謝罪や、損害賠償請求への対応などを真摯に検討する必要があります。

また、再発防止措置として加害者に配置転換を命じたり、情状に応じ懲戒等の適正な処分を行う必要があるといえます」

●対応怠れば、勤務先自体も責任を負う

一方で、被害者の勤務先は、どう対応するべきか。

「被害者から相談を受けた場合、まず事実関係を速やかに確認する必要があります。セクハラの事実が認められれば、被害者をひとまず加害者の会社の担当から外すなど、配慮措置を講じるべきです。あわせて加害者の会社に、再発防止措置などの適正な対処を求めて行くことになります。

もしセクハラ被害を漫然と放置すれば、被害者の勤務先自体も、被害者に対し損害賠償責任を負う可能性があります」

加害者の会社から、取引上「報復」行為にあった場合はどうしたら良いのだろうか。

「例えば、取引先が継続中の取引を一方的に中止するなどの措置を採ってきた場合、そのような対応は違法となる可能性があり、被害者の勤務先は法的措置をとることも考えられます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

黒柳 武史
黒柳 武史(くろやなぎ たけし)弁護士 賢誠総合法律事務所
京都府出身。2007年大阪弁護士会で弁護士登録。2020年京都弁護士会に登録換え。取り扱い分野は、労働事件を中心に、建築・不動産に関する事件や、一般民事・家事事件など。

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