ラーメン店の券売機に残されていた80円を持ち帰ってしまったーー。出来心で他人のお釣りを持ち帰ってしまったことに悩む相談が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。
投稿者は店を出た後「悪いことをしてしまった」と罪悪感を感じ、店に釣り銭の取り忘れたという連絡がないか、電話で問い合わせた。店側は把握していなかったらしく、「店に持ってきてもらうか、警察に届けてほしい」と言われたという。
相談者は「出来心とはいえ、窃盗罪にあたるのでは」と悩んでいるが、券売機に残されていた釣り銭を持ち去ることは法的にはどんな問題があるのか。山崎真也弁護士に聞いた。
●「窃盗罪もしくは遺失物横領罪が成立する」
「出来心で券売機に残っていたお釣り80円を持ち帰ってしまったということですから、窃盗罪もしくは遺失物横領罪が成立してしまうでしょう。
そして、窃盗罪か遺失物横領罪のどちらが成立するかは、券売機に残っていたお釣りに他人の占有が及んでいたかどうかで決まります」
山崎弁護士はこのように述べる。「占有」とはどういうことだろう。
「ここにいう『占有』とは、人が物を事実上支配・管理する状態をいいます。占有が及んでいたかどうかは、物自体の特性や、占有者に支配する意思がどれくらいあるか、距離などによる客観的・物理的な支配関係の強弱などを参考に社会通念によって決まります」
今回のケースは、どのように考えられるのだろう。
「ラーメン店の券売機は、おそらく店内や出入口付近に設置されていたのでしょう。そうすると、その券売機に残っていたお釣りについては、ラーメン店の店主の事実上の支配(占有)が及んでいたと評価できることから、窃盗罪が成立してしまいます。
ただ、窃盗罪が成立するからといって、必ず処罰されるわけではありません。
投稿者は『悪いことをしてしまった』と罪悪感からラーメン店に電話で問い合わせをし、店からは『店に持ってきてもらうか、警察に届けて欲しい』と言われています。
そうであるならば、素直に店にお釣りを持っていくのが良いでしょう。店にお釣りを返せば、店から警察に被害届が出されるということはあまり考えられません。また、仮に被害届が出されて警察から事情を聴かれたとしても、80円という金額や店に返金をしていることから、逮捕されることはないでしょうし、微罪処分(検察庁に送致されない)の可能性が高いでしょう」
ところで、今回のケースとは少し離れるが、自分が食券を購入した際のお釣りと勘違いして持ち帰り、後で「他人の物」と気づいたが、そのまま自分の物にしてしまったようなケースは、別の結論になるのだろうか。
「違いとしては、持ち帰った後にお釣りが多いと気付いた場合、そのお釣りに対する他人の事実上の支配(占有)は及んでいないことになります。したがって、この段階でお釣りを自分の物にしてしまっても窃盗罪は成立せず、遺失物横領罪が成立します」