徳島県鳴門市の軟式少年野球チームの監督が、5月5日の練習で小学5年生の部員に素手で外野ノックを捕らせ、中指の腱を切るけがを負わせていた。監督は、ほかの部員にもバットで尻を叩くなどして、体罰を加えていたことを認めている。
報道によると、監督は40代の男性。ノックした外野フライを部員が捕れないことに腹を立て、「グラブで捕れないなら素手で捕れ」と命じた。部員の左手は腫れ上がり、医師の診察を受けたところ、中指の腱が切れていることがわかった。その後、保護者が市教委に相談した。
ネットではこの一件に対し、「体罰じゃなくて傷害ですよ」など、監督に対し、辞任だけでなく、刑事責任を問うべきだという意見も出ている。監督のやったことは傷害罪に問われる可能性があるのだろうか。國安耕太弁護士に聞いた。
●監督に「故意」があったかがポイント
ネットでは「犯罪ではないか」との声もあるが、どうなのか。
「刑法は『罪を犯す意思(故意)がない行為は、罰しない』(38条1項本文)と定めています。そのため、過失犯として特別に規定のある場合を除いて、故意がなければ犯罪にはなりません」
つまり、監督に「故意」があったかどうかが論点になるのか。
「そういうことになります。
ここでいう故意には、いわゆる『未必の故意』も含まれます。傷害罪(刑法204条)を例にすると、『ケガをさせてやる』というだけでなく、『ケガをしてしまうかもしれないが、それでも構わない』と考えている場合も、故意が認められるわけです。
今回の場合、監督はあくまでも練習の一環として『素手で捕れ』と指示したようですから、『ケガをさせてやる』という意思はなかったと言えそうです。また、『ケガをしてしまうかもしれない』という認識はあったかもしれませんが、『ケガをしても構わない』とまで考えていたとするのは難しいように思います。
そうすると、『監督に傷害罪が成立する』というのは難しいでしょう」
犯罪にはならないということか。
「いいえ。本来、野球の守備ではグラブを使用すべきですから、素手で捕球させる行為には、『業務上過失致傷罪』(刑法211条)や『過失傷害罪』(刑法209条1項)が成立する可能性があります。
また、民事上も、不法行為(民法709条)に基づいて、治療費等の損害を賠償するよう命じられる可能性があるでしょう」