寝る前、子どもが目を輝かせて作っていた力作が、翌朝には無惨な紙くずに——。
都内で会社員として働く男性Aさんが先日経験したのは、そんな"朝のホラー"だった。
犯人は、強盗でも泥棒でもない。
家族の一員として、毎晩静かに働いてくれているロボット掃除機である。
●50枚のシール、ぜんぶ海の生き物
「事件」の前夜。未就学児の子どもは、お気に入りの海の生き物シールに夢中だった。
ジンベエザメ、クリオネ、カクレクマノミ……。
画用紙いっぱいに、一気に50枚以上。
「見て! できた!」。誇らしげに見せてくれた力作は、明日の続きを楽しみに、リビングの床にそっと置かれた。
そして一家は、いつも通り眠りについた。
●朝、Aさんが見た光景
午前5時。タイマーで起動したロボット掃除機は、いつものルーティンを淡々とこなしていた。
目が覚めて、リビングに足を踏み入れたAさんは、思わず固まる。
昨夜の力作が、見るも無惨な紙吹雪に変わっていた。
ジンベエザメは行方不明。回転ブラシに巻き取られた跡が、犯行の生々しさを物語っていた。
「これを見たら、絶対泣く……」
子どもが起きてくる前に、なんとかしなければ。Aさんは妻を叩き起こし、緊急の家族会議を開いた。
●親たちの"証拠隠滅"作戦
夫婦は手分けして、細切れの紙片をかき集める。
かろうじて原型をとどめた一角だけをハサミで切り出し、「ミニサイズの海」として再構成した。
面積は昨夜の4分の1。海の住人もだいぶ減った。
それでも、何食わぬ顔でテーブルに置く以外、選択肢はなかった。
●ふと、パパの頭をよぎった疑問
「もし子どもが、『パパが宝物を壊した』って警察に駆け込んだら……これってどうなるんだ?」
掃除機にやらせたとはいえ、片付けなかった自分の責任。親が子どもの大切なものを壊したとき、法律はどう見るのだろうか。
●【ミニ解説】親が子どもの物を壊したら、罪になる?
ポイントはシンプルだ。
- わざとじゃなければ刑事罰なし
ものを壊す「器物損壊罪」は、故意にやった場合に成立する。掃除機による不慮の事故=過失なので、犯罪は成立しない。
- 仮にわざとでも告訴がなければ起訴できない
器物損壊罪は「親告罪」なので、告訴がないと起訴できない。
- 民事の損害賠償は理屈上あり得る
ただし、未就学児が親を訴える現実性はゼロに近い。新しいシールを買い与えて円満解決が現実的だ。
つまり、Aさんが罪に問われる可能性はないと言ってよいだろう。
●そして、運命の朝
やがて、子どもが目をこすりながら起きてきた。
夫婦は固唾をのんで、その反応を待つ。
子どもはテーブルの"ミニ海"をじっと見て、ひとこと。
「あ、シールだ」
泣くどころか、怒りもしなかった。
一晩で4分の3が消えたことに、気づいていないのか、それとも受け入れたのか。
せめてもの罪滅ぼしとして、朝の食卓には子どもの好きなウインナーが1本おまけされた。