「死刑制度に賛成という考えは、今も変わっていません」
そう語るのは、日本で起きた凶悪事件のデータベースを25年以上にわたり個人で作り続けている「漂泊旦那(ひょうはくだんな)」さんだ。
死刑囚や無期懲役囚の情報を収集・整理する中で、制度の矛盾や、人間の複雑さが見えてきたという。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●25年以上、たった一人で更新するデータベース
──サイトを立ち上げたきっかけは?
小学生の頃、江戸川乱歩の『少年探偵団』を読んだのが始まりで、昔からミステリー小説が好きでした。その後、村野薫さんの『戦後死刑囚列伝』を読んで、死刑囚に強い関心を持つようになりました。
かつて「死刑執行の廃止を求めて」というサイトをよく見ていたのですが、1990年代後半に更新が止まってしまったんです。
それなら自分で作ろうと思い、社会人になってからサイトを立ち上げました。2000年1月のことです。
●サイト更新する中で情報が集まってくる
──どうやって情報を集めていますか。
最初は、先ほどのサイトに掲載されていた死刑囚リストをベースにしました。仕事終わりや休日に少しずつ更新しています。
主な情報源はインターネットと新聞です。ネットニュースで気になる事件や判決があれば、近くの図書館で詳しく調べます。
ホームページを毎日更新していると、関連情報を送ってくれる人も現れるんです。そうした協力にも支えられて、データは自然と増えていきました。情報を送っていただいた方にはとても感謝しています。
<あなたも私、「漂泊旦那」の作り出した様々な世界を漂流してみませんか>。漂泊旦那さんが2000年に立ち上げたサイトの冒頭にはそう書かれている
●死刑は賛成だけど、割り切れない
──日本の死刑制度をどう見ていますか。
関心を持つ前は、「悪いことをしたら死刑になるのは当たり前だろう」と思っていました。
でも、実際に死刑囚について調べていくと、簡単には割り切れない問題がいくつも出てきたんです。
それでも、死刑に賛成という考えは変わっていません。過去の凶悪事件の犯行内容を知ると、「ここまでは許されない」という線引きは、やはり必要だと思います。
ただ、この制度には矛盾が多い。本当にこれでいいのかな、という迷いはずっとあります。
●抑止力はあるのか、それとも…
──その「矛盾」とは?
たとえば、遺族にとって死刑執行がどんな意味を持つのか。そこには確実に影響があります。
一方で、「死刑になりたい」と考えて事件を起こす人や、新幹線殺傷事件(*)のように、刑務所に入るために、あえて死刑にならない程度を狙って犯行に及ぶ人もいる。
逆に、闇サイト殺人事件(*)のように「死刑になりたくないから」と自首したケースもあります。
一概には言えませんが、死刑制度が一定の抑止力として働いている面は否定できません。
「死刑確定囚リスト」のページには一審から上告審までの日付や再審請求の状況などがまとめられている
ただ、本当に死刑が解決になるのかと言われると、迷いもあります。
被害者が一人か複数かで、刑罰が分かれる点にもひっかかりを感じます。被害者の人数は重要な要素ですが、それだけで線引きしていいのかという疑問は残ります。
(*闇サイト殺人事件・・・インターネット掲示板で知り合った男3人が2007年8月24日、愛知県名古屋市で帰宅途中の女性(当時31歳)を拉致し、金品を奪ってハンマーで殴るなどして殺害。遺体を山中に遺棄した)
(*新幹線殺傷事件・・・2018年6月9日夜、東海道新幹線「のぞみ」の車内で、乗客の女性2人がナタで切りつけられ、それを止めようとした男性(当時38歳)が首などを切られ死亡。事件を起こした小島一朗は「一生刑務所に入りたい」と述べ、無期懲役の判決が言い渡された時に万歳三唱した)
●「償い」とはなにか
──死刑に賛成でも、迷いがある?
「生きて償う」とよく言われますが、人を殺したあとに何をもって償いと言えるのか、と考えることがあります。
その言葉は、受刑者自身が心の安心を求めているからではないかとも感じます。亡くなった人に届くものではありません。
では、死ねば償いになるのか。そう考えても、やはり答えは出ない。結局、ずっと迷い続けています。
●冤罪と死刑は「別の問題」
──死刑の是非を議論すると、必ず「冤罪」が問題になります。
私は、死刑と冤罪は分けて考えるべきだと思います。
冤罪はどんな刑罰であっても取り返しがつきません。「生きていればやり直せる」という意見もありますが、何年も刑務所に入れられて失われた時間は決して戻りません。
その意味では、無期懲役でも死刑でも同じです。冤罪の問題を死刑だけに結びつけるのは間違っている気がします。
もちろん、冤罪は絶対に防がなければならない。証拠の全面開示など、制度として限りなくゼロに近づける努力が必要です。
事件に関する資料をまとめた先頭ページには、最近の事件に関する情報が掲載されている
過去の事件を調べていて感じたことですが、実際、死刑を求刑されながら無罪になった人は思った以上に多い。裁判所や弁護人が頑張って、もっと適切な審理がされていれば、防げたのではないかと思う事件もあります。
ただ、日本では死刑に関する情報が圧倒的に不足しています。それが議論の停滞につながっているのも事実です。
●ルールを破った人にルールは適用されない
──刑事裁判をやり直す再審制度については?
再審法は改正すべきだと思います。検察は証拠をもっと開示すべきですし、検察官による抗告(不服申し立て)のあり方も見直すべきだと思います。
漂泊旦那さんが運営するサイトの「無期懲役判決リスト」ページは年ごとにまとめられており、筆者も取材の際に参考にさせてもらっている
──「人を殺してはいけない」と言いながら国家が死刑を執行する矛盾については?
死刑は法律で定められたルールです。社会はルールの中で成り立っています。
そのルールを破り、他者の命を奪った人は、そのルールの外に出た存在だと──私はそう理解しています。
また、死刑という極限の状況でしか生まれない変化もあるのではないかとも思います。
ただ、事件を一つひとつ見ていくと、自分の考えは揺らぎ続けます。それでも調べ続けるのは、揺らぎの先に、何かが見えてくる気がするからです。
事件の数を見れば見るほど、逆に自分の考えは定まっていくのではないか。漠然とですが、そう考えて、データベースを更新しています。