検察組織への信頼を揺るがしかねない事態だ。毎日新聞や朝日新聞などによると、他人の前科情報を交際相手に漏らしたとして、さいたま地検の30代男性検事が国家公務員法(守秘義務)違反の罪で略式起訴された。
さいたま簡裁は12月26日、30万円の略式命令を出したという。刑事処分とは別に、法務省が懲戒免職処分としたとも報じられている。
男性検事は、マッチングアプリで知り合って交際していた女性に捜査情報を漏えいしたとされる。妻子がいるにもかかわらず、独身と偽っていたという。
一連の報道を受け、検察官がマッチングアプリ上で「独身偽装」をしていたことは、驚きをもって受け止められている声が広がっている。
世間一般には「お堅い」イメージの強い検察官だが、マッチングアプリを通じた恋愛自体が禁じられているわけではないという。元東京地検検事の西山晴基弁護士に、検察の知られざる実態を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●検察組織ではプライベートは「管理されていない」
──検察官がマッチングアプリを使用することはあるのでしょうか。利用について、組織から何か指示はありましたか。
検察官は重い職責と高い倫理観を求められる職業です。
そのため「プライベートまで厳しく管理されているのではないか」と思われがちですが、実際はその逆です。
むしろ、検察官は、その職責の重さゆえに、各人が自身で「立場をわきまえて行動すること」を強く求められています。
恋愛や結婚の方法といった私生活の領域まで、組織が介入したり、指示を出したりすることはありません。
●マッチングアプリ禁じるルールない…それで結婚した検察官もいた
──ということは、マッチングアプリは禁止されていないということですか
マッチングアプリの使用を制限するような指示もなく、私が在籍していた当時も、マッチングアプリや婚活サービスを利用している検察官は決して珍しい存在ではありませんでした。
実際、そうしたサービスを通じて出会い、結婚した検察官もいます。
一般の方にはわかりにくいかもしれませんが、検察官も「特別な存在」ではないということです。
重い責任を背負いながら、普通に悩み、普通に出会い、普通に家庭を築こうとしている人が多いのです。もちろん、報道されているような「独身偽装」が許されない行為であることは言うまでもありません。
●多くの検察官は多忙で「独身偽装」してまで遊ぶ余裕はない
──「独身偽装」してまで遊ぶ検察官はいましたか。
少なくとも、私が検事として勤務していた間(2017年〜2021年)、そうした人を見たことはありません。
私の周囲にいた既婚の検察官は、仕事中も結婚指輪をつけ、子どもの送り迎えをしながら働き、休日は家族と過ごすような方ばかりでした。
一方で、業務量は多く、精神的な負荷も大きい仕事です。ですから、今回の報道に接しても、正直なところ「独身を偽ってまで遊ぶ余裕がある人は、少ないのではないか」というのが実感です。
●「独身」と偽りやすい環境ではある
──本当にそういう人ばかりでしょうか。
検察官は2年〜3年に1度のペースで異動があり、全国転勤が前提となるため、家族が毎回一緒に転居できないケースも少なくありません。その結果、単身赴任先では、外から見ると独身に見えることもあります。
こうした事情から、「独身偽装がしやすい環境」にある検察官が存在する可能性は否定できません。
ただし、それは制度上の問題であって、「遊ぶために独身を装っている」という話とはまったく別です。
●検察官のマッチングアプリ利用は悪いのか?成り手不足の背景も
──報道を受けて、検察官のマッチングアプリ利用を批判する声もSNSでは上がっていました。
検察官は職責が重く、全国転勤を前提とした異動も多いため、組織外での出会いが限られ、組織外で出会った人たちとの交際関係を維持することが難しいという特殊な環境にあります。
そのため、私の周囲にいた既婚の検察官も、任官前からの交際相手と結婚したり、職場内結婚をしたりするケースが多く、職場の外で出会った相手と結婚している人は少ない印象でした。
出会いの少なさに悩む検察官も少なくはありません。実は、この点が、検察官のなり手不足の一因になっている側面もあると思います。
だからこそ、私は個人的に「検察官がマッチングサービスや婚活サービスを利用すること自体は、まったく問題ない」と思っています。
もちろん、マッチングアプリが許されるとしても、「独身偽装」が許されない行為であることは言うまでもありません。