空手大会に出場した小学生が、試合中断直後に相手から後頭部を蹴られて倒れる――。そんな衝撃映像がXに投稿されて波紋を呼んでいます。
動画を投稿した男性は、弁護士ドットコムニュースの取材に「このような前代未聞の事故が今後他の大会でも起こってほしくない」と話しています。蹴られた子は今も首にコルセットを巻いているそうです。
相手側のセコンドが「いけ!」と指示したという情報もあり、もしも本当だとすれば、このようなケースで法的責任が問われることはあるのでしょうか。
●蹴られた子は「首にコルセットを着けた生活」を送っているという
話題になっているのは、11月7日にXに投稿された空手大会の映像です。
動画には、試合が中断して背を向けた子どもに、走り込んだ相手のハイキックが後頭部に入る様子が映っています。蹴られた子は、そのまま前のめりに吹き飛び、うずくまって動けなくなっています。
投稿を受けて、Xには「これは空手ではない、武道の精神に反する卑劣な行為だ」「救急車をすぐ呼んであげてほしいと思いました」などの反響がありました。
動画の投稿者は取材に対して、これは11月3日の試合で、蹴られたのは小学4年生で、知人の子どもだと説明します。
また、蹴った子のセコンドが「いけ!」と指示したという情報もあるそうです。蹴った子は審議の結果、反則負けになりました。
一方、蹴られた子は現在、首にコルセットを巻いた生活を送っているそうで、投稿者は「無事後遺症が残らず回復することを切に願います」と話しています。
このような前代未聞の事故が、今後、他の大会でも起こってほしくないという思いで投稿したそうです。被害を受けた子どもの容態も気になるところですが、このような場合、相手の法的責任はどうなるのでしょうか。
●小学4年生は「民事上の責任能力がない」と判断されそう
まず、後ろからキックした子ども自身が、民事上の不法行為責任(民法709条など)を負うかが問題となりますが、結論としては、否定されそうです。
というのも、仮に蹴った子どもも小学4年生(10歳程度)だとすれば、判例に照らすと、微妙ではありますが、不法行為責任を負うための責任能力がないと判断されそうだからです。
判例上、責任能力が認められるのは、具体的事情にもよりますが、だいたい12歳くらいからとされています(大判大正4年5月12日・大判大6年4月30日等)。
この場合、子どもの保護者や、現場で子どもに指示をしているコーチが、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。(相手方のコーチをしていたのが、相手方の保護者なのか、保護者以外のコーチなのかは不明なので、以下はコーチとして検討します)
具体的には、監督義務者の責任(同法714条1項)や、代理監督者の責任(同2項)の規定によることになります。
なお、今回のケースでは、被害者である子どもが背を向けたあとに、コーチが加害者である子どもに「いけ!」と指示していた、という情報もあるようです。
もし、これが本当であれば、コーチは代理監督者としての責任でなく、自分自身の指示に基づく不法行為責任を負う可能性もあると考えられます。
●子ども自身は「刑事責任」を負わないが・・・
キックした子ども自身は、14歳未満ですから、刑事未成年であり、刑事責任は負いません(刑法41条)。
先ほど書いたように、もしもコーチが「いけ!」という指示をしていた場合には、子どもはコーチの指示に従って攻撃を加え、子どもが負傷したといえそうです。
この場合、指示したコーチに傷害罪(刑法204条、15年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。
なお、空手の大会という試合の流れの中での負傷であれば、違法性が阻却されて、傷害罪は成立しないと考えられます。
しかし、今回のケースは、仮に「いけ!」という指示があったのだとすれば、動画の流れを見ると、被害を受けた子どもが顔を押さえて後ろを向き、明らかに試合が止まったあとに、蹴った子どもに対して、背後から攻撃することを指示していることになります。
このような攻撃はルール違反であることが明らかですし、後遺症を残しかねない非常に危険な攻撃ですので、とうてい試合の中でのこととして、違法性が阻却されるようなものではないと考えられます。
したがって、コーチ自身が傷害罪に問われる可能性があると考えられます。
礼節を重んじるはずの空手道の大会で、このような痛ましい事態が起こってしまったのはなんとも残念なことです。被害に遭ったお子さんの回復を強く願うとともに、加害してしまった子どものケアも必要だと感じます。