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パワハラ弁護士が落ちた「ウソの沼」 裁判証拠のねつ造重ね、資格失うまでの詳細
サンタ・マリア・イン・コスメディン教会の真実の口(メソポタミア / PIXTA)

パワハラ弁護士が落ちた「ウソの沼」 裁判証拠のねつ造重ね、資格失うまでの詳細

自身が経営する法律事務所の元勤務弁護士からパワハラで訴えられた訴訟で、偽造した証拠を提出したなどとして、元弁護士の古澤眞尋氏(58)にこのほど懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役3年6月)の有罪判決が言い渡され確定した。

問題となった民事訴訟は、一審判決まで5年弱にわたる審理期間の多くが証拠の真偽をめぐる議論に費やされる異例の展開をたどった。しかし、偽造の有無については判断を避けたものが多く、刑事裁判を通して、古澤氏がウソにウソを重ねていた状況が改めて明らかになった形だ。

古澤氏は、神奈川県弁護士会川崎支部や法テラス川崎の副支部長などを歴任。地元では一目置かれる存在で、パワハラ被害者側をして、次のように言わしめるほどだった。

「弁護士としての能力が抜群に高く、保有する知識、経験、対人折衝力、訴訟活動のいずれも非常に長けていることは弁護士業務において接点を持った経験のある弁護士であれば誰もが認める事実である」(反訴状より)

この記事では、優秀と評判だった弁護士が偽装工作によって裁判制度の根底を揺るがし、弁護士資格を失うに至った経緯について、横浜地裁川崎支部令和3年4月27日判決(労判1280号57頁)や民事訴訟記録の閲覧、神奈川県弁護士会の2度の退会命令、刑事裁判の判決要旨などから整理する。

なお、民事訴訟では、一審が古澤氏のパワハラ行為などを一定程度認めたが、二審の東京高裁では古澤氏が相当額の解決金を支払うことで和解しており、確定した判決はない。一方、神奈川県弁護士会の退会命令の中では、違法なパワハラや証拠の偽造があったことを認定している。

●(前提)認定された犯罪事実と事件の概要

刑事裁判で認定された犯罪事実を大雑把に説明すると次のようになる。

【概要1】古澤氏は、パワハラ被害者のX弁護士が問題のある人物だったせいで、自身の評判が下がったと主張するため、A弁護士がX弁護士を批判する内容のメールを偽造。ウソをごまかすため、当該メールを印刷した紙にA弁護士の職印を押し、「私のメールです」などと手書きして、パワハラ訴訟の証拠として提出した(後記①a)。

【概要2】古澤氏は、X弁護士のミスで依頼者に損害が生じ、自身が立て替えたという虚偽の事実を裏付けるため、自身が約500万円を振り込んだという虚偽の取引履歴が記載された依頼者の通帳コピーを作成(後記①b)。さらにパワハラ訴訟の証人尋問において、立て替えの原資として古澤氏に1000万円を貸し付けたと、知人に虚偽の証言をさせた(後記②a)。また、主張の矛盾をごまかすため、B弁護士の職印を模した印章付きの通知書を偽造し、裁判の証拠として提出した(後記①c)。
【罪名①】有印私文書偽造・同行使罪、偽造有印私文書行使罪(いずれも妻との共謀)

a:A弁護士がメールを作成したことを自認する文書
b:依頼者との間での通帳の取引履歴
c:B弁護士の印章入りの督促通知書


【罪名②】偽証教唆罪

a:民事裁判の証人尋問で知人の会社経営者(偽証罪で有罪判決、現在執行猶予中)に虚偽の証言をさせた

●(1)パワハラ訴訟の幕開け

民事裁判の記録によると、登録したての新人Y弁護士は2015年12月の入所1日目から、「とんでもない事務所に来てしまった」と後悔したという。応接室から古澤氏が兄弁のX弁護士を叱責する怒号が聞こえてきたからだ。

パワハラ被害者のX弁護士は司法修習生時代、古澤氏の事務所での実務修習を経て、2011年11月から勤務弁護士となった。最初の1年ほどは古澤氏と良好な関係にあったが、2人いた先輩弁護士が退職し、所属弁護士が古澤氏と2人きりになったあたりからパワハラ被害が増えていったようだ。新人弁護士が入所することもあったが、いずれも半年も持たずに辞めていった。

X弁護士も早く辞められれば良かったのかもしれないが、恐怖や自己肯定感の低下などによって、一種の「洗脳状態」にあった可能性がある。別の後輩弁護士による録音や証言もあり、民事裁判の地裁判決や退会命令では以下のようなパワハラ被害が認定されている(編註:丸数字による分類は編集部による)。

①執拗な叱責や侮辱、暴力

・2014年1月22日ころ、X弁護士の胸ぐらを5秒以上つかみ、「おめえふざけんじゃねえぞ」など大声を出しながら、背後のロッカーに叩きつけ、土下座するよう非常に強い口調で命じた

・2014年3月5日ころから頻繁に、正当な理由なく20分以上叱責した

・2015年12月11日ころから、X弁護士のメールアドレスを「クズ」や「クZ」の名称で自身のアドレス帳に登録し、本人だけでなく、同報(CC)で後輩弁護士や事務員にも分かるようにメールを送信し、X弁護士を侮辱した

②懲戒請求等による恐怖喚起と自己肯定感の低下

・2013年9月頃から2015年8月頃までの間、実際には懲戒請求やクレームがなかったにもかかわらず、それがあるかのように誤信させ、始末書を作成させた

・2014年3月5日、「てめえの人生を奪うことができるぞオラ、懲戒請求で」、「ここにある始末書全部出すぞ」などの怒号を交えて叱責した

③孤立化

・X弁護士の交際相手に、始末書の存在などをあげ、X弁護士の勤務状況に問題があることを告げるメールを送信した(編註:因果関係は不明ながら、交際はその後終了した)

・X弁護士のミスで事務所の支店を閉鎖することになった旨のメールを、所属弁護士会の同期のメーリングリストに送信するように強要した

Y弁護士は当初、X弁護士は問題の多い弁護士だと古澤氏から聞いていたそうだが、業務をともにすると面倒見の良い先輩であると気づき、親しくするうちにパワハラ被害の詳細も知るようになったという。

2016年2月、Y弁護士は所属する神奈川県弁護士会川崎支部の執行部に、X弁護士のパワハラ被害を相談。同年3月、二人は仕事机に退所届を残し、夜逃げ同然で事務所を辞めた。

X弁護士は代理人の髙木亮二弁護士と伊藤諭弁護士を通じて、パワハラを受けたことによる慰謝料と、未払い賃金があるとして支払いを要求。これに対し古澤氏は、慰謝料・未払い賃金の不存在確認と在所中のトラブルなどで損害が生じたとしてX弁護士を提訴した。X弁護士側もパワハラなどを理由に反訴し、問題となった訴訟が幕を開けた。

●(2)支配に使われた懲戒請求と偽メール

古澤氏はこの訴訟の中で、X弁護士の職務状況に問題があるせいで、自身の評価が下がったとして、一件のメールを印刷し、書証として提出している。

それは、当時司法修習生だったA弁護士が古澤氏に宛てた、事務所の採用説明会や食事会に対するお礼メールだった。

しかし、この証拠には大きく2つの不審点があった。1つ目は初対面の司法修習生が次のような強い表現(編註:文面はいずれもママ)でX弁護士を批判する内容だったこと。

「本日同席された先生(あれが有迷なX先生なんですね。)の評判を弁護士会の就職説明会や横浜地裁や東京地裁の同期から聞いており、極めて最低の弁護士であるということを聞いておりました」
「あのような最低の弁護士と評価されている弁護士がいる事務所には就職することは自分の将来に大きな影を落とすことになりかねないと考え、この度は応募を辞退させて頂きたく思います」
「就職説明会の際の副会長の先生の古澤先生に対する評価の高さとX先生に対する酷評やその他の問題点の指摘内容からすると、なぜあのような最悪の弁護士がと考えてしまい、このようなお話をさせて頂きました」

2つ目は、A弁護士のメールそのものではなく、A弁護士のメールを受信した古澤氏による転送メールの体裁になっていたことだ。

この謎についてX弁護士側は、A弁護士の送信時間としてメールに記載されている「Saturday, March 15, 2015」というタイムスタンプに、本来ならあり得ない間違いがあることを発見する。2015年3月15日は「Saturday」ではなく「Sunday」だったのだ。

つまり、転送の体裁をとれば文面を自由に編集できてしまうメールの特性を悪用し、古澤氏が日付部分も含めて、メールの内容を全文手入力していた疑いが浮上したというわけだ。

これに対し、古澤氏側はメールソフトのバグであるなど、メールが真正であることを示すため複数の証拠を提出。しかし、辻褄を合わせるため、次から次へとウソをつくはめになる。

なお、このA弁護士からのメールは在籍当時のX弁護士も目にしている。X弁護士の陳述書には、次のように記されている。

「私は、まさかこのメールが古澤先生によって偽造されたものとは思っていませんでしたので、このメールに記載されている内容は事実であるのだと思い込み、どれだけ私の評判が世間で悪いのかと愕然とし、大きなショックを隠せませんでした。古澤先生からも、どれだけお前の悪評が知れ渡っているのか分かったか、どれだけ俺が迷惑掛けられているか分かったか、といったことを言われ、もう裁判所や弁護士会に行くのも恐くなりました」

すでに紹介した通り、民事訴訟の地裁判決や退会命令では、古澤氏がX弁護士に対し、存在しない懲戒請求やクレームで始末書を書かせていたことが認定されている。

偽メールも含めたウソの悪評やパワハラが自己肯定感の低下につながり、X弁護士は古澤氏のウソを疑うことなく、移籍先がない、別の事務所では通用しないと思い込むようになっていたとみられる。

●(3)ウソをウソで塗り固め…

神奈川県弁護士会の2度の退会命令は、古澤氏がA弁護士メールの辻褄を合わせるため、ねつ造、改ざんを繰り返していたことを認定している。民事訴訟記録などと照らし合わせると、以下のような行為があったと考えられる。

①A弁護士のメールを偽造

X弁護士側は、転送の体裁をとれば文面を自由に編集できてしまうので、転送の体裁ではなく、A弁護士から送られてきたメールそのものを提出するよう要求した。

古澤氏はこれに応じ、元メールとされるA弁護士名義のメールの印刷物を証拠提出したが、退会命令では作成名義を偽りねつ造したメールを証拠として提出したと認定されている。

ねつ造と認定された理由の1つは古澤氏が提訴から約2年後に証拠提出したメールの電子データにあったようだ。控訴審の証拠によると、X弁護士側がメールのプロパティを確認したところ、ヘッダ情報のMessage-ID欄に「FURUSAWAVAIO」の文字があり、神奈川県弁護士会の懲戒委員会の議決書では、古澤氏のパソコンで作成されたものだと事実認定されている。

②A弁護士のメールを真逆の内容に改ざん

民事訴訟の記録によると、古澤氏は民事訴訟でA弁護士のメールが争点となった後、数年会っていなかったA弁護士に連絡し、事件の共同受任を持ちかけて接触を図ったようだ。

その過程で、問題のメールについて、A弁護士が「私が送付したものでない」と明確に否定するメールを送信したにもかかわらず、古澤氏は「私が送付したものである」と真逆の内容に改ざんし、裁判所に証拠提出した。

③A弁護士の替え玉を用意し、自身の代理人に電話聴取させる

古澤氏は民事訴訟でA弁護士になりすました第三者(替え玉) を用意して、「この番号にかけるように」と指示して、自身の代理人弁護士に電話をかけさせた。

代理人は相手がA弁護士だと誤信し、当該メールが本物であることをA弁護士が認めた旨の電話聴取書を作成し、裁判所に証拠提出することになった。

④A弁護士の音声データの編集

古澤氏は当該メールについて、A弁護士が確かに自分が送ったものだという趣旨の発言をしている録音データと反訳を裁判の証拠として提出した。

ところが、A弁護士もこのときの会話をすべて録音していたことから、古澤氏が録音を切り貼りし、自身の声を上書き録音するなど、編集したものであることが発覚した。

このほかにも古澤氏は、A弁護士が面談中に一時退席した事実がないのに、これがあるような編集を施した録音データと反訳を裁判の証拠として提出しており、この2つの音声データの編集が退会命令の理由になっている。

⑤A弁護士の肉筆の偽造と職印の無断使用

今回の刑事事件でも認定された行為。共同受任事件の打ち合わせ時、古澤氏は手続きに必要だとしてA弁護士の職印を預かり、A弁護士を会議室に待機させたまま自分だけ会議室から離席すると、偽造メールを印刷したプリントにA弁護士の職印を押印。妻と共謀して、A弁護士の氏名と「私のメールです」との文言も手書きし、裁判の証拠として提出した。

●(5)虚偽のシナリオ「500万円の損害発生」

また、古澤氏はX弁護士から損害を被ったとして、民事訴訟で次のような虚偽のシナリオを作り出していた。

①X弁護士が、依頼者に無断で担当事件の和解を成立させたが、そのことを報告しなかったため依頼者に損害が生じ、着手金等の返還を含め約500万円を支払う必要が生じた

②依頼者と示談し、賠償金はボス弁である古澤氏が立て替えることになった

③古澤氏は賠償金の原資として、知人の会社経営者から1000万円の貸し付けを受け、この中から約500万円を顧問先の銀行口座に振り込んだ

この虚偽の事実を裏付けるため、古澤氏は依頼者にあたる人物の通帳を入手し、明細の空欄部分に数字などを印字した透明シートを貼ってコピーすることで、古澤氏の事務所名義で顧問先に賠償金約500万円を振り込んだという虚偽の証拠をでっち上げた。

また、知人の会社経営者をそそのかして、民事裁判の証人尋問において、その約500万円 の支払い原資として、古澤氏に1000万円を貸し付けたなどと虚偽の証言をさせた。この会社経営者は偽証罪で有罪判決を受け、現在執行猶予中だ。

このほか、X弁護士側から指摘された時系列の矛盾を取り繕うため、B弁護士から依頼者に宛てた通知書を偽造。B弁護士のものに似せた職印を押印し、裁判の証拠として提出した。

●(6)裁判制度に対する信頼を根底から覆した事件

9月15日にあった刑事事件の判決期日で、横浜地裁の渡邉史朗裁判官は次のように述べた。

「有資格者として訴訟の追行につき高度の誠実さや品性を保持すべき立場にある中で、本件民事訴訟において、相手方の人権をかえりみず、証拠に用いる文書を次々と偽造し提出した上、他人に偽証までさせたものであり、一連の態度には通常以上に厳しい非難が妥当する」

ただ、古澤氏のウソに巻き込まれたのは、X弁護士や偽証させられた知人だけではない。メールだけでなく、録音やサインを偽造されたA弁護士、辻褄合わせのために名前を使われたB弁護士も被害者と言える。知らないうちにニセ証拠の提出という犯罪の片棒を担がされる形となった古澤氏の代理人も検察から事情を聴かれるなどしたという。

X弁護士側や裁判所も、古澤氏が提出したすべての証拠を疑わざるを得なかったはずで、その負担の大きさは民事訴訟の審理期間が約5年に及んでいることからも容易に想像できる。

実際、古澤氏の偽造が疑われる証拠はほかにもある。民事訴訟の地裁判決では、古澤氏側の別の証拠について、「メールの文面を加工して作出された疑念が払拭できず、信用性は低いものといわざるを得ない」と判示している。古澤氏が提出したのは依頼者がX弁護士を批判する内容のメールだったが、実際にはX弁護士が和解をまとめてくれたことに感謝する内容だったとみられる。

このほか、民事の訴訟記録を読むと、判決で真偽までは判断されていないものの、古澤氏が証拠提出した、X弁護士が在職中にサインしたとされる複数の書類について、X弁護士側から筆跡や印影が微妙に異なるとの反論があったことも確認できた。

ひとつでもウソがあると、すべてが怪しくなってしまう。古澤氏が逮捕されたとき、神奈川県弁護士会は会長談話で次のように述べている。

「偽造された証拠を裁判所に提出する行為は、裁判制度に対する信頼を根底から覆すものであって、弁護士として到底許されるものではありません」(2022年5月26日)

ひとつウソをつくと、それを隠すためにまたウソをつくことになる――。ウソのドツボにはまったことで、凄惨なパワハラ事件の加害者というだけでなく、裁判制度の根幹を揺るがす当事者にもなってしまった古澤氏。執行猶予の5年が過ぎれば弁護士になる資格自体は復活するが、公判では今後何ら士業に就くつもりがないと話していた。

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