「即金」「高収入」などを掲げて、詐欺や強盗などの犯罪に加担させる「闇バイト」が横行している。警察庁によると、特殊詐欺の検挙人員は2015年から2022年まで毎年2000人超。専門家は「多くが闇バイト。破滅への一方通行しかない」と指摘する。
2023年6月には、実際に求人に問い合わせた男性のツイートが話題になった。実家の連絡先を聞き出し、逃げられないようにするための手口が綴られている。
刑務所を出所して思うこと
— funaim フナイム【犯罪撲滅活動家】 (@funaim5) June 5, 2023
注意喚起のため敢えて
闇バイトに凸してみた
自宅に入り込む動画を撮れ
緊急連絡先として
親の名前から連絡先全て教えろ
こうしてがんじがらめにして
逃げないようにする手口
罰金50万円以下じゃ済まない
必ず懲役へ行く
絶対に応募してはならない
おねしゃす pic.twitter.com/dlljqO9WeL
足を踏み入れれば、後戻りできない現実が待っている。トカゲのしっぽ切りのように利用された挙句に実刑判決を受け、実名報道によるデジタルタトゥーが社会復帰を阻む。
●待ち受けるのは「破滅」への道
男性は、特殊詐欺に手を染めた経験があるフナイム(通称名)さんだ。目先の金に目がくらんだ結果、実刑判決を受けた。妻子を含めて失ったものの大きさは計り知れない。出所後は元受刑者であることを公にして発信し続けている。同じ道を歩んでほしくないためだ。
闇バイトに問い合わせたのは、実態を明らかにして注意喚起するため。フナイムさんのもとには、軽い気持ちで手を出そうとした20代の若者を中心に「実家の住所や銀行口座を教えてしまった」「やめると言ったら『もう一度やらなければ警察にバラす』と脅されている」などの相談が複数寄せられているという。
フナイムさんと闇バイトリクルーターとの実際のやりとり。身分証の写真を要求される(画像:フナイムさん提供)
「たった1回の闇バイトでも、犯罪に加担すれば『破滅』への道が待ち受けている」。こう指摘するのは、犯罪学者の廣末登さん(龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)だ。
2023年7月に出版した著書『闇バイトー凶悪化する若者のリアル』には、詐欺やタタキ(強盗)に関わった当事者たちの声が綴られている。あらゆるリスクを背負わされた挙げ句に使い捨てられ、すべてを失う現実が浮き彫りにされている。
廣末登さんの著書『闇バイトー凶悪化する若者のリアル』
逮捕されるのは主犯格ではなく「捨てゴマ」のバイトがほとんどだ。実刑判決になる可能性は高く、出所後も元の生活に戻ることはできない。退学や解雇は避けられず、銀行口座を持つこともできないという。選べる仕事も限られる。実名報道されれば、なおさらだ。
●「失うものがない無敵の人」になる
廣末さんは「犯罪傾向が進んでいない初犯者でも、ワンストライクでアウトになる現状には疑問」としたうえで「社会から排除されれば裏社会で生きていかなければならなくなる」と指摘する。「人生をやり直す機会がなければ、失うものがない無敵の人になる」。
やめたくても、道を引き返すことは容易ではない。刑務所に入れられることを恐れて自首できなかったり、脅されてやめられなくなったりする人もいるという。
「住所などの個人情報を知られて『家に行くぞ』と言われた男性もいます。奥さんや子どもに危害が加わることを恐れ、続けてしまったそうです。大手企業に勤務しながら副業する有資格者でしたが、闇バイトに手を出して実刑になり、多くを失いました」
男性は社会復帰後に銀行口座を持つことができず、協力雇用主につながったものの年収が半減。元の生活が忘れられず、最終的にマルチ商法に手を出してしまったという。
●今の生活は「当たり前」じゃない
絶対に手を染めてはならないーー。警鐘を鳴らし続けても、闇バイトに応募する人は後を絶たない。「1日に10万円は確実に稼げる」「現金で手渡し」などの文言につられて、軽い気持ちで応募してしまう。
老若男女問わずに目先の金ほしさに闇バイトに手を染めてしまう人がいる(yamamax777 / PIXTA)
廣末さんは「闇バイト自体を知らない学生や保護者も多い」と指摘する。非常勤講師を務める大学では、インターネットを含むニュースを読んでいるのは90人中1人のみだった。早い段階から学校で子どもたちに教えたり、保護者に説明したりする必要があると訴える。
フナイムさんは、高齢者をだます特殊詐欺の手口として「相手の感情のジェットコースターをつくれ」と教わったことを振り返った。
「まずは『声が素敵ですね』などと相手をほめる【喜】。そして、相手が違法なことをしたと指摘する。否定されたら『知らないでは済まされませんよ』と返し、言い合う【怒】。その後『あなたは悪くなかったんですね』と共に悲しむ素振りを見せ【哀】、最後に『あなたを助けたい。一緒にがんばりましょう』と【楽】を与えるんです」
フナイムさんと闇バイトリクルーターとの実際のやりとり。ターゲットとする高齢者についての詳細が記されている(画像:フナイムさん提供)
マニュアル通りにこなすうちに罪悪感は薄れ、金を受け取れば僅かな罪の意識さえ吹き飛ぶ。抜けられなくなった末に「すべてを失った」とし、次のように警鐘を鳴らす。
「今の生活に『刺激がない』『つまらない』と思うこともあるかもしれません。でも、家があって、スマホがみられる生活は当たり前じゃない。刑務所の中でスマホは使えませんし、社会に戻った後もバッシングされたり、住む場所がなかったりする。今の生活は当たり前ではないんです」