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「痛い、痛い、痛い!」女子寮襲撃計画、男性器かまれ逃走 連続暴行事件で懲役29年
横浜地裁(sirius / PIXTA)

「痛い、痛い、痛い!」女子寮襲撃計画、男性器かまれ逃走 連続暴行事件で懲役29年

横浜市内で繰り返しマンションに侵入し、複数の女性に対して性的暴行を加えたうえ金品を奪ったとして起訴されていた男の裁判員裁判が今年(2023年)5月に横浜地裁で開かれていた。6月1日の判決公判で中山大行裁判長は男に懲役29年を言い渡している(求刑懲役30年)。

被告人(公判当時59歳)は2009年から2022年の13年間にわたり、横浜市内のマンション無施錠のドアから侵入、部屋に住む女性たちに対してナイフを突きつけて脅したうえ、性的暴行を加え、金品を奪って立ち去るという犯行を繰り返していたとして、強盗・強制性交等や強盗強姦、強盗強姦未遂などの罪に問われていた。

同様の犯行を重ねていたにもかかわらず「強制性交等」だけでなく「強姦」の罪名も並ぶのは、2017年の刑法改正前の事件が複数あるためだ。

被告人は4件の事件で起訴されており、被害者は5人いた。全ての被害者が事件当時20代だった。「金銭を得たい、若い女と性交したい。女ならそれほど抵抗されない。金を奪って性交しよう」との思いから犯行を重ねていたという。(ライター・高橋ユキ)

※この記事では被害の実態を伝えるため、加害行為の詳細についての記載があります

●「女性器に挿入というのは違います」

第1事件(強盗強姦)は2009年10月。夜中2時、Aさん(当時26)方に侵入し犯行に及んだ。第2事件(同)は2012年7月、Bさん、Cさん(ともに当時23)が同居の居室に侵入し犯行に及んでいる。第3事件(同未遂)は2014年3月、Dさん(当時24)宅に侵入し、強姦しようとしたが、抵抗にあい、首を絞めて逃走した。

逮捕のきっかけとなった第4事件(強盗・強制性交等)を起こしたのは2022年4月。刑法改正後だ。Eさん(当時23)の眠る居室に侵入。口腔性交に及んだが、男性器を被害者に噛まれたことから、挿入できず逃走した。

これらの事件について、被告人は罪状認否で2件目以降を「間違いありません」と認めていたが、唯一、1件目の事件のみ「女性器に挿入というのは違います」として一部否認した。弁護人も「強姦は本人の意志で中止した」と主張した。

●「肛門には挿入したが女性器には挿入していない」

起訴状によれば第1事件で被告人は、夜中2時、仕事帰りで電気をつけたままベッドに寝ていたAさん方に侵入し、口を押さえ「騒ぐと殺す」と告げたのち、ナイフで脅して手足を縛ったうえ、目隠しをし、頭部を殴った。抵抗できない状態のAさんの上衣をめくりあげ、女性器に指や性玩具を挿入。肛門性交にも及んだうえ、12000円を奪って逃げたとされている。犯行の様子も一部撮影していた。

2017年改正前の刑法で強姦罪は「女子を姦淫」することだと定められていたが、強制性交等では処罰される行為が「性交、肛門性交又は口腔性交」と定められた。被害者の性別も問わない。

刑法改正前は「暴行・脅迫を用いて女性器に男性器を挿入」しなければ強姦罪は成立しない。被告人は「Aさんの肛門には挿入したが女性器には挿入していない」として否認していたのだった。

被告人は第1事件に限らず全ての事件において犯行の様子を一部撮影し、その動画や写真データを自宅に保管していた。ときに、気に入ったデータをプリントアウトしてファイルに綴じてもいた。

逮捕後の家宅捜索によりこうしたデータが発見され、過去の事件も逮捕に至っている。残されていた第1事件・Aさんの犯行データには、肛門性交の様子のみが記録されていた。そのため被告人は「女性器に挿入というのは違います」と否認したと推察される。

●被害者は「怖い、殺されると思いました」と証言

しかし公判で証人として出廷したAさんの証言は、体験した者でなければ語ることのできない臨場感を醸していた。

「寝ているところ、誰かに鼻と口を塞がれて息ができないと目を覚ましました。何か英語で話しかけてきました。怖いのと、口を塞がれていたので話していません。お金を出せみたいなことを言っていて、刃物を持ってて『刺すぞ』と言っていました。怖い、殺されると思いました」(Aさんの証言)

口を塞がれていたうえ、手を縛られたため、財布の場所を伝えるために「肘かなにかで場所を指した」(同)という。だが被告人が出て行くことはなく、性的暴行を受けた。

「その後たしか、電気が暗くなり、服を脱がされ、性的な行為をされました。胸を掴まれたり、女性器や肛門に挿入されたりしました。

体をよじったりして逃れようとしましたが、殴られたりして抵抗できない状態になりました。先に女性器に挿入されてその後は肛門でした……指とは違う太さだったり感触だったり」(同)

被告人がナイフを持っており、それを体に当ててきたりしていたことから行為中は「殺されるのかな、とか、命の終わりというか、死が気になってました」と、強い恐怖を覚えていたという。

“女性器に挿入というのは違う”との被告人の言い分に対しては「私は妊娠するという強い恐怖があり、それは男性器を女性器に入れられたから、感じたことだと思います」と、衝立の奥から淡々と語った。事件後は「何をしてなくても涙が止まらなくなったり、死にたい気持ちがすごくあった」という。

●排水管をよじ登り侵入、過去にも同じマンションで

Aさんの住んでいた部屋は会社の女子寮だった。男子禁制であることや、オートロックであること、そして管理人さんが常駐していることなどから「油断していたこともあって、ドアの鍵を閉めていたかは、記憶が定かではないです」とAさんは語った。

被告人は外の排水管をよじ登り、オートロックを通過せずにAさんの部屋に侵入していた。被告人がこのマンションを選んだのには理由がある。

「以前もそのマンションで強盗強姦したが、捕まらなかったのでそこに入りました。マンションは独身寮だと思っていました。自転車が多いですが、サドルが低い。車が停まっていない。侵入しやすさのチェックも、もちろんしました。オートロックでしたが排水管をつたえば、2階に上がれる感じでした。

当日は手袋、ナイフ、カメラ、ガムテープ、コンドームや目出し帽、電動歯ブラシ、ナイフを用意して行きました。ナイフは刃渡り10センチから15センチの、鞘付きのものです。カメラを持って行ったのは、記録と写真を撮るためです」(被告人質問での証言)

起訴されている事件は4件だが、被告人はそれ以前から罪を重ねていた。

●被害者はコンビニで助けを求めたが……

さらに、居室ドアが施錠されているかどうかも念入りに一部屋ずつチェックしていたのだという。

「今回の現場の部屋を選んだのはドアの鍵が施錠されていなかったからです。ドアの隙間を見れば、鍵がかかっているかわかるタイプのドアだったので、そこをひとつひとつ確認しました。ほぼ全部屋、確認しました」(同)

被告人は他の事件でも同様の手口で下見し、道具を持参し、ドアが施錠されているかチェックした上で空いている部屋を見つけ出し、犯行に及んだ。唯一、第2事件のみ、偶然BさんとCさんを見かけたことから彼女たちの住む部屋に狙いを定め、下見と準備を重ねていた。

「たまたまマンションから二人が出てきて、オートロックではないことが分かった。下見を7〜8回繰り返し、カーテンとかそういう感じで女性が暮らしてるなと。あと一度、事件の前に、その女性の部屋に入りました」(同)

前回同様に道具を持参したが、今回からは、陰毛を剃るためのカミソリも持参するようになった。BさんとCさんを脅して金品を奪い、性的暴行を加えたのち、被告人はさらにBさんだけに「コンビニで金をおろしてくるように」と命じた。

「通話状態にした電話を持たされ『誰かに言ったら分かるからな、友達がどうなっても知らないぞ』と言われた。コンビニで店員に助けを求めることを考えましたが、Cの身が危ないと躊躇しました。

店員に通報を頼もうと『助けてください』と口パクで伝えたものの、全く理解してくれず、店員のポケットにあるボールペンを示すと『あっ筆談ですか』と言われた。声が聞こえたからか『もういい、走れ』と犯人に言われ急いで戻った……」(Bさんの調書)

●「女子寮襲撃計画」というメモを作成

第4事件を起こしたのは2022年4月。狙い定めたオートロックのマンションもまた女子寮だった。事件前には建物内に二度立ち入り、無施錠の部屋があることを確認。自宅に戻り「女子寮襲撃計画」というメモを作成し、Eさんの個人情報を調べたうえで、そのメモに書き足していた。

そして事件当日、外壁にある排水管をよじ登り、Eさん(当時23)の眠る居室に侵入。口腔性交に及んだが、そのとき男性器をEさんに噛まれたことから、女性器に挿入できず逃走した。

第4事件の被害者、Eさんは、被害に遭った時“必ず証拠を残す”と決意していたことを調書に語っている。

「男性器を噛めば、犯人が逃げても証拠は残るのではと思った。そのとき犯人が斜め横から入れてきて、今じゃないな、しっかり噛めそうにない、と思っていると、一旦指を入れてきて『噛んでもいいよ』と言われたが、ここで噛んだら殺される。甘噛みをした。その後犯人は正面から口に挿入してきた。噛むなら今しかない。思い切り噛んだ。犯人は『痛い痛い痛い!』と抵抗して私を押さえつけ男性器を離した。『血が出てる。勃たなくなった』と言っていた」(Eさんの調書)

被告人はこのとき「何がなんでも性交してやる」と、噛まれたことから闘争心が芽生えたそうだが「気持ちと裏腹に痛みが強くて、勃たなかった」と、男性器を噛まれたことで挿入を断念したと被告人質問で語っていた。部屋から現金を奪い、逃走したという。

濃紺のジャージを着用し、頭髪に毛はない。どこにでもいるような中肉中背の初老の男性に見える被告人は、全ての事件において毎回「金に困っていた」と主張していたが、転職はしながらも仕事はしっかり続けていた。

犯行の目的は「金品を奪うこと」か、それとも「性欲を満たすこと」か、と裁判員に問われ「すべてを10とすると8が金。ついでに女性を強姦した」と答え、裁判員に「8が金ですか!?」と確認されていた。

そうであれば下見の際に、誰もいない部屋から、金品を奪えばいいのではないか。別の裁判員がこう質問をしたが被告人は「急でしたので、そういうものもないし、目出し帽も持ってきてなかったのでやらなかったです」と理解の難しい弁明も飛び出した。

判決で裁判所は“女性器に挿入はしていない”という被告人の主張を認めなかった。

「Aさんの証言は信用できる。第2事件から第4事件まではいずれも挿入を試みているのに、第1事件のみ挿入しなかったのは不自然。第4事件では男性器を噛まれているのになお強い意志で挿入を試みている」と、他の事件における挿入への強い意志などから、第1事件でも被告人の女性器への挿入があったと認定した。

そのうえで「下見をすることで若い女性が住んでいることを把握し、周到に準備をすすめた計画的な犯行。被害者らの抱いた恐怖は計り知れないほど大きい。同種事案の中でも相当に重い部類に属する」と指摘。

「できるだけ厳しい刑をお願いいたします」と被告人みずからが最終意見陳述で述べていたとおり、懲役29年という重い判決が言い渡された。

【編集部おことわり】身体の部位について、一部、表現を改めております

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