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「法廷録音」求めた中道弁護士に裁判所の問題点を聞く
画像はイメージです(takeuchi masato / PIXTA)

「法廷録音」求めた中道弁護士に裁判所の問題点を聞く

2022年の終盤は「裁判と録音」に関する話題が相次いだ。10月に国の指定代理人による弁論準備期日の無断録音が発覚。裁判所と原告との個別聴取時にも録音機がオンになっていたことから、「盗聴」ではないかと批判を浴びた。

11~12月にかけては、大阪弁護士会の中道一政弁護士が、国選弁護人を務める4件の刑事事件の公判期日で裁判所に録音の許可を申請した。録音がなければ、公判調書の正確性を検証できないと いうのが理由だ。しかし、裁判所はいずれも不許可とした。

裁判所がつくる調書はそんなに恣意的なものなのだろうか。録音の必要性について話を聞いた。

※本記事は雑誌『弁護士ドットコムタイムズ』2023年3月号の内容に一部加筆したものです

●調書ではどんな様子で話したかは分からない

――裁判所に録音の許可を求めようと思ったきっかけを教えてください

主に刑事事件で、公開法廷で話された内容が正確に記録されていなかったり、重要な点が書かれていなかったりすることがときどきあり、不満がありました。しかも、公判調書の記載が正確ではないことを指摘しても、裁判所は異議申立てをほとんど聞き入れてくれません。

また、調書では話した内容はある程度分かっても、当事者がどんな様子で話したかまでは分かりません。スムーズに話せているのか、声の大きさはどうなのかといった情報は、特に被告人に精神障害があるようなケースでは重要だと考えています。

ところが、防衛省による「盗聴問題」では、盗聴が許されないのは当然として、裁判の録音自体もNGだという論調になっており、違和感を持ったのがきっかけです。

――録音は裁判所の許可がないと「できない」とされています(刑事訴訟規則215条)

これに対して、刑事訴訟規則47条2項は「検察官、被告人又は弁護人は、裁判長の許可を受けて、前項の規定による処置(編注:速記・録音のこと)をとることができる」とされており、訴訟当事者による録音は、原則禁止と言えないのではないかと考えています。

最高裁判所事務局刑事部編『刑事訴訟規則説明書』(1949年、法曹曾)によると、この規定は「公判中心主義の理想の達成を助成せんとするもの」とされています。

弁護人が録音を許されず、メモをとることしかできないのであれば、弁護人は、自分が発言するたびにメモをしなければならないという事態になります。これでは、公判において活発に発言をするという公判中心主義の理想は達成できなくなります。

刑事訴訟規則47条2項は、弁護人や検察官による適切なタイミングでの発言と、法廷の正確な記録とを両立することを目指した規定として解釈できると思っており、法的にも法廷録音は認められるべきと考えます。

●「録音不許可」には不服申立てができない?

――ここまでの結果はどうでしょうか

1件目の事件では、結果として国選弁護人を解任されました。解任について特別抗告をしましたが棄却されました。

2件目の事件では、録音不許可処分について特別抗告と通常抗告の両方をしましたが、いずれも抗告の対象にはならないとして棄却決定が出ています。

また、私の録音データと実際の調書に大きな差があったので、異議も申し立てましたが認められませんでした。発言内容が半分以下に要約されており、その内容にも不満がありました。

たとえば、裁判官の「記録にとどめるかどうかはこちらの裁量です」という発言もカットされていたのですが、この発言こそ録音の必要性を裏付けていると思います。

3件目については、途中で2件目の抗告の結果が出て、抗告の対象にならないということになったので、不服申立てをしないことを決めました。公判調書も録音内容と比して過不足ないものだったので、録音データを削除して裁判所に報告しました。

4件目は証人尋問の期日だったので、違う判断が出ることを期待したのですがダメでした。このケースで争いすぎると証人にご迷惑をおかけしてしまうと考えて、裁判所の不許可の指示に従い、争っていません。いずれのケースでも依頼者の許可をとっています。

●理由を示さない裁判所

――結果についてどうお考えですか

公開法廷で話されたことを客観性の高い方法で証拠化することが許されないことに違和感を覚えましたし、裁判所が実施している録音すら開示されないことにはさらなる強い違和感を覚えました。

また、4件とも裁判官からは録音を許可しないという結論だけを伝えられ、理由は告げられていません。抗告についても、対象外ということで門前払いされています。

法廷録音を不許可とする訴訟指揮が適法ならば、理由は示してもらいたいです。

――今後はどうやって争いますか

録音不許可の訴訟指揮は、抗告の対象外という判断が出てしまったので、争いようがないのではないかというのが正直なところです。不許可の理由も示されていませんし…。

ただ、1989年の「レペタ訴訟」最高裁大法廷判決まで、傍聴人による法廷メモは認められていませんでした。弁護人による法廷録音についても、メモと同じように当たり前にできる日々が来てほしいと願っています。何か良い打開策がないか検討しているところです。

――具体的なアイデアはありますか

たとえば、法廷録音できないのであれば、弁護人の手書きメモのペースにあわせて訴訟を進行させるように求めるとか、傍聴人が多くいる事件の場合には、傍聴人にメモの提供をお願いしてみることなどはありえるかもしれません。

●約8割の弁護士が不正確な調書を経験

弁護士ドットコムは、会員弁護士に「裁判所作成の調書に不正確な点があると感じたことはあるか」をアンケート調査した(2023年1~2月実施)。

120人が回答し、必ずしも裁判に影響するとは限らないものの、約8割が「ある」と答えた。内訳は「よくある」が17.5%、「ときどきある」は40.0%、「まれにある」は23.3%。

自由記述では「記憶で異議を出すので不安」、「正確な逐語による調書が必要」などの意見もあった。

プロフィール

中道 一政
中道 一政(なかみち かずまさ)弁護士 中道一政法律事務所
大阪弁護士会、65期。

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