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「やってねえよ」痴漢冤罪を訴えて線路を逃走、裁判では罪を認めた息子 父は「この前も間違いを起こして…」
東京地裁(kazukiatuko / PIXTA)

「やってねえよ」痴漢冤罪を訴えて線路を逃走、裁判では罪を認めた息子 父は「この前も間違いを起こして…」

親であれば、我が子が事件や事故に巻き込まれることがないかと案じることがあるだろう。だが逆に、我が子が他人を傷つけたり、逮捕起訴されることもある。子の行動をどう捉えるか、どこまで支えるかは、親によって様々だ。

刑事裁判では、社会復帰後の被告人を支え、支援する立場の者が証人として法廷に立つことがある。職場の同僚、学生時代の先輩、雇用主などの場合もあるが、その多くが家族だ。どうしても愛する我が子への甘さが露呈する瞬間はある。

いくつかの裁判をもとに、法廷でみた親子関係を振り返る。今回は、痴漢で逃走した息子の証人として呼ばれた父の弁明、不正アクセスで逮捕されたエリート新聞社員の父が語った「男子校だったから」との証言を取り上げたい。父親たちは裁判で何を語ったのか。(ライター・高橋ユキ)

●痴漢の常習犯「やってねえよ」と線路に逃げ、後に有罪判決

2017年の春ごろ、電車で痴漢を疑われて逃げるという事案が相次いで発生した。彼らは痴漢を疑われた無実の人なのか、それとも本当に痴漢をやったのか。事実が判明しない段階から「痴漢冤罪がいかに恐ろしいか」「痴漢冤罪を疑われたら、どう対応したらいいのか?」などと、痴漢の疑いが「冤罪」であることを前提にネット上で議論が巻き起こった。

この当時、痴漢を疑われて逃走したものの、実際のところ本当に痴漢をしていたという男の公判を東京地裁で傍聴した。

起訴状によれば人は同年4月、朝の埼京線車内において、被害者(当時20)に対し、そのスカートの上から臀部を両手で撫でたという。のちに板橋駅で取り押さえられそうになったため、着ていたコートを脱ぎ捨て、線路に飛び降り逃走していたが、コートの中に預金通帳などが残されていた。

犯行当時は生活保護を受給し、川口市のアパートに単身居住していた。電車で女性に着衣の上から体を触る同種の罰金前科2件を含み、前科は4件ある。2006年から、電車で乗車中の女性に痴漢をするようになった。

「十条を過ぎた頃、両手でお尻を包み込むように触られて、ゆっくりこするようになった。犯人の手を右手でしっかりつかんだまま『触ったでしょ』というと、犯人は縦に首を振った。(中略)そのままホームに降りると犯人は『離せ、やってねえよ』とシラを切り始めた。別の人が来て犯人をつかんでくれたので私は安心してその後は意識が朦朧として動けなくなった…」(被害者の調書)

冤罪を恐れて逃げたのではなく、本当に痴漢をしていたから逃げていた被告人は、公判では起訴事実を全て認めていた。情状証人として出廷した70代の父親は「この前も間違いを起こして、その時に弁護士さんに言われてアパートを引き払うか揉めた。でも本人が気に入ってて、どうしてもここに、ということで、それなら、ちゃんとやれれば、と……」と縷々述べる。

要約すると、前回の裁判でも証人出廷し、被告人の監督を誓っていたというが、いざ被告人が住んでいたアパートを引き払い実家に呼び戻そうとしたところ、被告人から「気に入ってるからどうしてもここがいい」と拒否されたので、そのまま住まわせていたのだという。前回の裁判で誓ったような監督ができていなかったようだ。

このように前科のある被告人の場合、親が前回の裁判で語ったような監督を実際に行っていたかが分かるが、法廷で誓ったようには実行できていない場合はままある。実家に呼び戻すことで、被告人が埼京線に乗ることを防げていたかもしれない。

●息子が不正アクセス、父親は「男子校だったから」

この父親のように、実際に監督しようとしていた場合もあるが、どうしても我が子相手に目が曇るのか、見当違いな発言に終始する親もいる。

被告人は大手新聞社の社員。有名モデルや元アイドルグループ所属の芸能人らのスマートフォンに不正アクセスし、メールを覗き見したとして不正アクセス禁止法違反と私電磁的記録不正作出・同供用の罪で起訴されていた。東京地裁で公判が開かれたのは2016年3月。

芸能人らの個人情報にアクセスするために、被告人は並々ならぬ努力を続けていた。みずからネット上で女性のアカウントを作り、女性としてさまざまな有名アカウントにコンタクトを取り、親密になった上で、電話番号やメールアドレスを入手して、パスワードを探り当てていたのだという。

同様の手口での別の逮捕報道に接したことがきっかけで、こうした活動を一旦は休止していたというが、1年後に再開し、逮捕に至ったようだ。「海外から帰ってきた解放感で」と再開の理由を語る。優秀なエンジニアだった被告人は、シリコンバレーへ出向をしていた時期があったが、帰国してから開放的な気分になったということだ。さらには自身の犯行についてこんな弁解も始めた。

「家に帰ってきてから、暇で相手にしてくれる人がいないのでやりました。会社ではやっていません。会社に迷惑かけちゃいけないと思っていましたので、会社から情報を得たこともないし、会社で自分の持っている情報を広めたこともない」

被告人なりのポリシーがあったようだが、法に触れる行為だったことに変わりはない。

証人出廷した父親は、弁護人に「なんでこんなことしたんだと思いますか?」と問いかけられ、こう述べた。

「息子が子どもの頃、私が早く寝ちゃっててコミュニケーション取れていなかった。あと男子校だったんですが共学に行かせればよかった。今後はできれば本を読ませたいと思う」

被告人が犯行に及んだ理由を父親に聞くのも酷な話だが、不思議な返答に、思わず聞き入る。男子校に行ったことが、全ての間違いだったということなのか。さらには男子校について「あの高校の生徒はイタズラする人が多かった」と謎めいた発言も飛び出す。どういうことか。

傍聴席の疑問を代弁してくれるかの如く「どういうことなんですか!?」と検察官も追及。すると「僕の知ってる限りそんな気がしました」と、これまた不可解な返答をしていた。

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)、「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」(小学館新書)など。好きな食べ物は氷

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