山形県天童市にある飲食店の女子更衣室に盗撮目的でスマートフォンを設置したとして、山形県迷惑行為防止条例違反(卑わいな行為の禁止)と建造物侵入罪に問われた男性に対する裁判で、3月15日、建造物侵入罪については無罪とする判決があった。
読売新聞(3月16日)によると、男性は2021年6月、当時従業員として勤務していた同市内の寿司店で、女子更衣室に録画撮影できる状態のスマホを設置したという。
検察側は、男性の頭部、上半身の大部分、および左足が更衣室内に入っていたことから、「身体の重要な部分が(女子更衣室内に)入っている」として、建造物侵入罪が成立すると主張したようだ。
これに対し、山形地裁は、建造物侵入罪は身体の全部が入っていなければ成立しないとして、同罪については無罪とした。ただし、盗撮行為に関する条例違反については有罪とし、懲役6月、執行猶予2年(求刑・懲役6月)を言い渡した。
身体の全部が入っていなければ建造物侵入罪が成立しないのだとすれば、手足の一部だけでも入っていなければセーフということになるのだろうか。また、どのような理由でこのような判断がされたのだろうか。元警察官僚で警視庁刑事の経験も有する澤井康生弁護士に聞いた。
●「身体の全部」が通説だが、未遂罪にはできたかも?
——「建造物侵入罪」でいう「侵入」とはどのような意味でしょうか。
一般的に、「侵入」とは正当な理由なしに管理権者の意思に反して立ち入ることとされています。
——「身体の全部が入っていなければ建造物侵入罪は成立しない」という解釈は一般的なのでしょうか。
建造物侵入罪には未遂犯処罰規定(刑法132条)があることとの関係で、どこまで身体を立入らせると既遂になるのかという論点があります。
身体の一部が入っただけで既遂になるとする少数説もありますが、身体の全部が住居内に入ったときに既遂に達するとするのが刑法学上の通説です。
理由としては身体の一部が入っただけで既遂に達するとすれば、塀の隙間から敷地内に手足を入れただけで既遂犯が成立することになりますが、それは社会通念に反するためなどと説明されています。
また、建造物侵入罪の既遂時期は一定時間の滞留時とされていることとの関係もあります。一定時間滞留したといえるためには、身体の一部が入っただけでは足りず、身体の全部を入れる必要があるからです。
ですので、身体の全部を入れて一定時間経過すれば「既遂」となり、そこまでいかなければ(身体の一部を入れたのみ)「未遂」となります。
——たとえば、いわゆる自撮り棒などで室内に手だけ入れて盗撮したような場合でも、建造物侵入罪は既遂にはならないということでしょうか。
手しか入れてないのであれば、建造物侵入は既遂にはならず、未遂にとどまることになります。
本件でも建造物侵入の未遂罪とすることはできたように思えますが、なぜ無罪になってしまったのか、もしくは検察官が条例違反に絞った訴因(起訴状に記載された具体的な犯罪事実)への変更に応じなかったのかもしれませんが、それは判決文を見てみないとわかりません。